第12話 初の実戦授業

 登校初日に色々と事件に巻き込まれた一真であったが今は暁、太一、幸助の三人と仲良く学園生活を送っていた。そして、今日は週末日で、明日から学園は土日を挟んだ連休となる。

 もう遊びに行く予定も立てたので一真はウッキウキである。やっと、普通の青春を送れることに一真は感動していた。


 しかし、ようやくの週末だというのに三人の様子がおかしい。登校してから、いつもは他愛もない話で盛り上がっているのだが、今日は溜息が多い。一体、どうしたのだろうかと一真は三人に訊いてみた。


「今日はやけに溜息多いけど、なにかあったのか?」


 その質問に三人は鳩が豆鉄砲を食らったように目をパチパチとさせるが、すぐに思い出す。一真が退院明けで、まだ知らないことがあるということを。


「あー、一真は知らなくて仕方がないんだろうけど、今日は金曜日だろ? 時間割りを確認したか?」

「え? まあ、一応、確認してるけど、実習ってしか書いてないぞ?」

「その実習が憂鬱なんだよ……」


 そう言われても、さっぱり理解できない一真に太一が説明してくれた。


「実習っていうのは、戦闘科と合同授業なんだよ。ただ、その内容が支援科の僕らにとっては地獄みたいなものでね。仮想空間を用いた戦闘訓練なんだよ……」

「い!? それって……ゲームとかで見るやつ?」

「うん。その認識で正しい。VRマシンを使って、仮想空間で戦闘訓練をするんだけど、内容は一般市民の守護なんだ。つまり、僕らは守られる立場なんだけど、普通に殴られたりする」

「ええっ!? それって酷くないか?」

「酷いよ。仮想空間で死なないからって、自分達の異能を思いっきりぶつけられるんだ。幸いなのは痛みがないってことだけ。でも、炎や氷や電撃なんかが自分に向かって飛んで来るのは怖いよ……」


 それを訊いて一真も顔を青くする。ただ、一真は三人と違って戦えるので抵抗は出来る。しかし、支援科の生徒が戦闘科の生徒に勝ってしまえば、確実に目立つ。

 平穏に暮らすと決めた一真は、なるべく目立たずに学園生活送りたい。だが、痛みはないと分かってても我慢できるかどうか。一真は異世界で戦っていたせいで攻撃されると、つい反撃に出てしまう恐れがある。だから、どうしたものかと一真が考えてると、幸助が口を開く。


「一真、一応支援科の生徒も戦えるからな」

「マジ!?」

「まあ、戦力にならんから、なにもするなと戦闘科に怒鳴られるが」

「なんだよ、それ……!」

「怒っても仕方ないだろう? 実際、向こうの言うとおり、こちらは支援科だ。戦闘系の異能者には何も言えん」

「それはそうだけど……」

「とはいっても、ある程度の実力を示せば向こうも黙るがな」

「おお!」

「ただし、授業でやってる組み手なんて身体強化の異能者には全く通じんが」

「うわーっ!!!」


 幸助の上げて落とす発言に、一真は思わず頭を抱えてしまう。


 そうこうしている内に、予鈴が鳴り響き、朝のホームルームが始まる。担任が連絡事項を伝え終わると、予鈴が鳴り渡り、授業の準備が始まる。

 勿論、何の授業かというと、先程三人から聞いた実習である。一真は嫌そうに溜息を零しながら、指定された服装へ着替える。


 ブカブカなゴム製のスーツに最初は戸惑ったが、自動で身体のラインに沿ってピッチリなスーツになったので、一真は驚いた。

 そして、喜んだ。三人と一緒に学園の施設である仮想マシンが設置されている部屋に、同じようなスーツを着ている女子を見て、一真は鼻の下を伸ばす。


「その気持ちはわかるぜ、一真。でも、あんまりジロジロと見てたら、戦闘科の生徒にボコられるぞ」


 女子生徒のほうを見ていた一真に幸助が肩を組んで、忠告を述べる。


「ジ、ジロジロなんて見てねえし!」

「バカ、向こうは気がついてんだよ。あんまり、鼻の下伸ばしてると、戦闘科の女子にボコられるぞ? ちなみに俺はボコられた」

「体験談かよ! やば!」


 幸助の体験談に一真は恐ろしくなり、女子から目を逸らす。しかし、身体のラインがはっきりと出ているので、エロさを感じる一真はどうしても見てしまう。悲しい男性のさがであった。


 そうして、二人で他愛もない話をしていると、暁と太一が合流した。


「そういえば、これってグループ分けとかあるのか?」


 ふと一真は気になったことを三人に質問した。


「いや、俺達・・はない」


 一真の質問に暁が答えると、一真は意味深な回答に首を傾げた。


「それってまさか、戦闘科の生徒はあるってことか?」


 コクリと三人が頷くのを見て、うへえと嫌そうな顔を浮かべる一真。だが、それは仕方のないことであった。

 あくまで実習の授業は戦闘科がメインなのだ。彼ら彼女らが支援科の生徒を守りつつ、対人戦の訓練を学ぶのが目的なので、戦闘科が優遇されるのは当たり前の事であった。


「まあ、仕方ないよ。戦闘科が優遇されるのはどこの学園も一緒だから。だって、将来は国民を守る為に戦うんだからね」


 太一の言う事は正しい。一真達、支援科の生徒も間違いなく学園の生徒ではあるが、やはり、将来国民を守る為に戦いへ赴く戦闘科の生徒を優遇するのは仕方のないことだ。


「そういうことだ。俺達はあくまでも支援する側だということを忘れてはいけない」


 最後に幸助の言葉で纏められて、実習の班分けが始まった。残念な事に支援科の生徒は出席番号順で班分けされるので一真は三人と別れる事になる。

 いきなり、友人が一人もいない場所に放り込まれた一真は借りてきた猫のように大人しくなった。


(あわわわわ……!)


 内心慌てている一真を置いて、授業は開始された。戦闘科の生徒と一緒にVRマシンに乗り込んで、一真は仮想空間へとダイブした。


 初めての仮想空間に一真は目を輝かせて、目の前の光景に感動した。現実のように見えるが、全て作り物。それでも、この光景は素晴らしいと一真は大興奮である。


 そんな風に一真が、一人ではしゃいでいると、背後から声を掛ける者がいた。


「貴方、見かけない顔ね?」

「へ?」


 声を掛けられ、呆けた声を出した一真は後ろへ振り返る。そこには、真っ黒い髪をポニーテールにして、薙刀を携えた戦闘科の生徒が立っていた。ちなみに、仮想空間では先程のボディラインが丸分かりのスーツではなくなっている。

 その女子生徒は自身が設定している装備になっているのだ。だから、プロテクターを装備した制服のような格好をしている。


「え、あ、その……」

「なに? はっきり喋ったらどう?」

「いや、実は俺、入学式初日に交通事故で入院してたんだ。それで、つい最近退院したばっかりで……」

「あ~、貴方が不幸君ね」

「ふ、不幸君? なんですか、それは?」

「こっちが勝手につけたあだ名よ。貴方の名前は知らないけど、入学式初日に交通事故にあった人がいるって聞いてね。だけど、支援科だったから大した興味がなかったの。だから、皆、名前も知らずに不幸君ってつけたわけ」

「な、なるほど」


 なんとも言えない安直なあだ名に戸惑ってしまう一真に、ポニーテールの女子はクスリと笑い、自己紹介を始めた。


「それじゃ、自己紹介しなきゃね。ずっと、不幸君っていうのは可哀想だから。私の名前は夏目なつめ香織かおり。見ての通り、身体強化の異能者よ。よろしくね」

「あ、どうも。俺は皐月一真。異能は置換です」

「え? 痴漢!?」

「そっちの痴漢じゃないです! 物を置き換える置換ですって!」

「あははは、冗談よ。わかってるから。じゃあ、皐月君、よろしくね」


 楽しそうに笑って香織は一真に握手を求めた。一真は、その手を見て彼女が悪い人ではないという印象を抱いた。


「こちらこそ」


 出来れば仲良くなりたいと一真は、香織と握手する。勿論、下心もありで。

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