第11話 動き出す組織
薄暗い部屋に円卓が一つ。それを囲むように十三の椅子がある。しかし、着席しているのは半数以下で四人だけである。スポットライトが当たっているかのように四人の場所だけが明るい。
「それで、失敗したって聞いたけど?」
「ええ。作戦は失敗しました」
円卓に頬杖をつき、心底ダルそうにしているイビノムの覆面を被った男がアムルタートに問いかける。その問いに答えたアムルタートは平静な態度を崩さない。その態度が気に食わなかったのか、質問した男は苛立ちを顕にする。
「おいおい、なんだ、その態度はよォ! テメェ、作戦に失敗しておいて詫びの一言もねえのか!」
「おや、これは失敬。申し訳ありませんでした」
「気持ちが篭もってねえんだよ! テメェのそれは!」
苛立っている男は今にもアムルタートに飛びかかりそうなくらい怒っている。それを見ていた他の一人が怒っている男を咎める。
「それくらいにしておけ。身内で争っている場合ではない」
「だがよぉ! こいつのせいで今後の作戦に支障をきたすかもしんねえんだぞ? なのに、罰一つないってのはどうかと思うぜ!」
「確かに、お前の言うことは正しい。だが、今回アムルタートが失敗したのはイレギュラーがあったからだ」
「はあ? それはこいつの調査不足なだけじゃねえか!」
「いいや、違う。事前に入手していた情報と店内にいる異能者達の異能が一致しなかったのだ。だから、アムルタートに落ち度はない」
「なんだと? そりゃどういうことだ?」
「警察に潜り込ませている者からの情報だと店内にいた異能者に二つ持ちは一人も存在しなかった。つまり、我々さえも知らない第三者があの場にいたということだ」
「んな……! じゃあ、今後はそいつも警戒しなきゃいけないってことか!?」
「そういうことだ。はっきり言って国防軍、民間企業、警察よりも厄介と言えるだろう。アムルタートの情報では、身体強化に防壁又は結界の異能を二つ所持しているらしく、警察、国防軍、民間企業のどれにも所属していないという。現在、特定を急がせているが……期待はできないだろう」
「嘘だろ……! そんな奴がまだ国内にいたのかよ」
「ああ。だから、この謎の異能者に関しては我々幹部で対応することになった」
「ふ〜ん。めんどくさいな……」
今まで黙っていた最後の一人がつぶやく。それを聞いたアムルタートが口を開く。
「まあ、面倒くさいですよ。私も交戦しましたが、戦い慣れている感じがありました。身体強化に防壁というだけで厄介なのに戦闘技術も高そうでしたからね。もし戦うことがあれば万全の状態をオススメします」
「うへぇ……ますます面倒じゃん」
アムルタートの話を聞いた最後の一人は円卓に倒れ込む。顔を横に向けてブツブツと文句を言っている。
「さて、アムルタートから聞いた通りだ。相手はかなりの実力者と見て取れる。現在、国内にいる二つ持ちで確認されているのは五人。その内、一人は監獄、二人は国防軍、一人は民間企業。そして、最後の一人は第一異能学園にいる」
と、そこで一度言葉を切って周囲の三人を見渡してから話を再開した。
「だが、我々イヴェーラ教を含めれば二つ持ちは八人となる。そこに新たに九人目が出てきてしまったが、我々の邪魔をした以上は敵である。よって、粛清対象とする。異議はあるか?」
周囲を見渡して異議を唱える者がいるかどうかを確認するが誰もいない。つまり、一真の排除は決定となった。これで一真は国防軍とイヴェーラ教の二つから追われることになる。幸いなことにまだ誰も一真の正体を知らないことだ。しかし、いずれ判明すれば一真の平穏は無くなるだろう。
「では、解散だ。残りのメンバーには私から話しておく。それではまた会おう」
そう言って仕切っていた一人は消えていった。残ったのは三人だけとなる。アムルタートに怒りを顕にしていた者と机に頭を乗せてブツブツと文句を垂れている者とアムルタートだけだ。最初に口を開いたのはアムルタートに怒りを顕にしていた者だった。
「じゃあ、俺も帰るわ。アムルタート、次は失敗すんじゃねえぞ。はははははっ!」
笑い声を上げながら、また一人消えていく。そして、残って文句を垂れていた者も気づかない内に消えていた。最後に残ったのはアムルタートのみ。
「ふっ……ははははははは! 言われなくても次に会ったら殺してやるよ……」
立ち上がって笑い声を上げたアムルタートは暗闇へと消えていく。そして、誰もいなくなった円卓に当てられていたライトが消えて完全な闇となった。
さて、イヴェーラ教の幹部達が会議をしている時、別の場所でも一真についての会議が行われていた。そこは国防軍の本部である。今回のイヴェーラ教が起こしたテロについての会議なのだが、本題は別にあった。それは一真についてである。
とはいっても今回の議題に上がったのはイヴェーラ教に潜入していると虚偽の報告をした謎のスパイについてだ。勿論、その正体は一真なのだが国防軍どころかイヴェーラ教さえも、その正体に気がついていない。
「では、先日のイヴェーラ教によるテロですが現場には国防軍を名乗るスパイがいたとの報告です。これについてなにか質問はありますか?」
「はい」
「質問をどうぞ」
「その情報の出処は?」
「現場に居合わせた第七異能学園の戦闘科二年生、氷室雪姫、同じく二年生の朱野火燐。この二名です」
「回答、ありがとうございます」
質問をした人が座ると、次は別の人が質問をした。そうして、質疑応答が繰り返されて十分程が経過した。
「ふむ……国防軍を名乗る謎のスパイか」
「声が男だったそうですね。覆面を被っていても若い感じがしたと……」
「不意打ちを避けたことから身体強化系の異能と推測されるか」
質疑応答を終えて会議室では様々な憶測が飛び交う。しかし、あまりにも情報が少ないため、対象を若い男性で身体強化系の異能者としか絞れない。それではあまりにも捜索範囲が広すぎる上に国に登録されている異能者かどうかも怪しい。
異能者は基本、役所などで異能の登録を行うので特定することができる。警察や国防軍などはその個人情報を閲覧することが許されているのだ。無論、悪用などすれば警察だろうと国防軍だろうと罪に問われる。なので、取り扱いはかなり厳重にされている。
「一人一人洗い出していくのは時間がかかりすぎる。それに国に登録しているかも怪しいぞ」
「そうだな。国外からなら登録はしなくてもいい事になっている。もしも、外国人ならば少々手続きが面倒だ」
「不法入国者ならば話は早いんだがな。犯罪者にはこちらの法が適用できるから異能を暴くことは可能だ」
「しかし、どう見つける? 件の男は身体強化の異能者でイヴェーラ教のマスクを被っていたこともあって情報が少ないんだぞ」
「問題はそこだな。店内の監視カメラもすべて壊されていたという。目撃者の証言のみが頼りだが……」
「厄介事が増えただけか……」
「まあ、聞いたところによるとイヴェーラ教の敵であることだけは確かだろう」
一真がイヴェーラ教を全滅させたことを二人はきっちりと報告していたので、国防軍は一真が味方ではないが敵ではないと判断した。よって、現状はイヴェーラ教への対策を練ることになり、一真については一旦保留にするのかと思いきや、こちらも捜索することが決まった。
「手が空いているものを手配しておこう」
こうして一真の知らない所で事態は大きくなっていくのであった。
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