第6話 三人の異能

 それから四人はグランドワンに行くことになった。グランドワンは全国に展開している複合エンターテイメント施設だ。カラオケ、ボウリング、ゲームセンターといった施設が全て詰まった遊び場である。学生の四人にとっては理想郷と言ってもいい。


 早速、グランドワンに来た四人は何をして遊ぼうかと相談する。


「さ、なにして遊ぶ?」

「無難にカラオケとか?」

「ゲームセンターとかはどうだ?」

「俺はみんなと遊べるならなんでも……」


 暁が仕切り、太一がカラオケと提案して、幸助がゲームセンターという選択肢を言う中で一真はみんなと遊べるなら何でも良いと言う。それを聞いた三人は一真を一斉に見る。一真はいきなり全員から注目を浴びたのでビクリと震える。なにか不味いことでも言ってしまったのかと不安に思う一真は三人を見回す。


「おいおい、皐月! これはお前の親睦会を兼ねてるんだぜ? 遠慮すんなよ!」

「うんうん、そうだね。今日は皐月くんが主役だから好きに選ぶと良いよ」

「ははははは、そうだな! 皐月のやりたいことをやればいいんだよ」

「お、おお……!」


 三人の優しい言葉に一真は感動する。思わず泣き真似を披露して三人を笑わせた一真は親睦会を兼ねているということでカラオケにすることに決めた。四人はカラオケに決まったので早速受付に向かい、指定された部屋へ向かう。部屋へ着いた四人は上着を部屋に備えられていたハンガーに掛けてからカラオケを始める。


 トップバッターは暁で、流行りの歌を熱唱する。アップテンポの激しい曲のおかげで四人のテンションは上がり、次の太一も陽気な歌を選んだ。そして、次に幸助が韓流アイドルの歌を入れて盛り上がる。


「なんで韓流? 好きなんか?」


 韓流アイドルの歌を歌い終わった幸助に一真は、どうして韓流アイドルの歌を選んだのか興味本位で訊いてみた。


「まあ、好きなのもそうだけど、女の子に喜ばれるからだ!」

「ぶはははははっ! なんだ、それ! くだらないけどそういうの好きだわ!」

「お! お前わかってくれるのか!? 今度デュエットするか!」

「分かるやつな! 分かるやつ入れてくれ!」

「任せとけ!」

「おい、次皐月だぜ! ほら!」


 幸助と楽しく話していたら一真の番になったので暁が一真にマイクを手渡す。一真はマイクを受け取ると、キザったらしく小指を立てて一昔前に流行ったラブソングを熱唱する。もちろん、ウケ狙いである。下手くそということもなく、かといって上手すぎるということもない一真に三人は大笑いである。


「あははははははは! なに、小指たててんだよ!」

「あー、いるよね。こういう人! あははははは!」

「はーはっはっはっは! 皐月! それ女子の前でやったらどん引かれてるぞ!」

「ネタだよ! どうだった? 俺の美声は?」

「ぶひゃーははははは!!! 何が美声だよ! 普通だわ!」

「ふふ、皐月くん面白いね」

「ははははははは! 俺には遠く及ばんぞ!」

「なんだとう! じゃあ、次は本気出してやんよ!」


 それからもカラオケは続き、大いに盛り上がる。結構な時間歌い続けた四人は小休憩を挟み、ドリンクを飲みながらポテトや唐揚げなどを食べる。


「いやー、皐月ってこんなに面白かったんだな〜」

「そうだね。思ってたイメージと違ったよ。もっと大人しい性格かと思ってた」

「俺は面白くて好きだぜ、皐月」

「ははは、ありがとう。こうやって打ち解けれたのも三人が、遊びに誘ってくれたおかげだよ。マジで本当にありがとう」

「気にすんなって。なあ?」

「うん。暁の言うとおりだよ。これくらい気にしないで良いさ」

「そうだな。堅苦しいのはなしでいいだろ」

「みんな……! じゃあ、感謝の一曲歌いまーす!」

「よっ! 待ってました!」

「何を歌うのかな?」

「よし! 今度こそデュエットだ!」


 一真は心の底から三人に感謝していた。三ヶ月遅れの登校は本当に気まずかった。クラスメイトも一真とどう接すればいいか分からなかったのでお互いにギクシャクしていた。だから、一真はもう一年生の間はボッチ確定だと思っていた。それが今では暁、太一、幸助の三人が友達になってくれた。だからこそ、一真は三人を本当に大事にしようと決める。


 それから、またカラオケを続けて疲れてきた頃に暁が一真に話しかけた。


「そういえばさ、皐月はどんな異能持ちなんだ?」


 訊いてはいけない質問というわけでもないので一真はあっけらかんと答えた。


「俺の異能は置換だよ」

「なに、痴漢!?」


 歌っていた幸助は一真の異能をわざと言い間違える。確かに同じ言葉ではあるが意味が全く違う。恐らくわざと間違えたのだと気がついた一真は大きな声でツッコミを入れる。


「痴漢じゃねえわ! 置換だよ!」

「え? 痴漢?」


 今度は太一もボケに回ったのかわざと言い間違える。


「いや、何回言わすんだよ! 置換だよ!」


 一真も笑いながらツッコミを入れる。その後、四人は笑いあってからそれぞれの異能を教え合う。


「まあ、痴漢ネタは置いておいて、俺の異能は浮遊。悲しいことに自分は浮かせられないんだよな」


 そう言って暁は自分のカバンに異能の浮遊を使う。すると、カバンが重力から解き放たれたようにフワフワと浮かぶ。それを見た一真は素直にすごいと思った。


「すげー! 竹下、それすごいじゃん!」

「はは、そう言ってくれると有り難いけど、やっぱ俺も戦闘系の異能が欲しかったわ」

「え……。それって竹下は国防軍とかに入りたかったってこと?」

「ああ、まあな。やっぱり憧れるだろ?」


 国防軍は世間一般ではヒーローのような扱いだ。戦闘系の異能を持ち、国民の安全を守るためにイビノムと戦っている。だから、一種のエンターテイメントになっているのだ。国防軍対イビノムの戦いは。テレビやネットでいくらでもイビノムと戦っている映像が見れる。それが影響していて多くの者が国防軍に入隊することを考えている。


「そうか……」

「なんだ、一真は国防軍嫌なのか?」

「いや、そういうわけじゃない。俺は特に将来のこと考えてないからさ」

「あー、そうか。なら、仕方ないわな」


 そこで会話が終わると、今度は太一が異能を披露する。


「じゃあ、次は僕だね。皐月くん以外は知ってると思うけど僕の異能は念話だ。テレパシーとも言うね」

「念話って……あ」

「気を使わなくていいよ。現代では外れとされる異能だ。携帯が普及される前はかなり重宝されたらしいけど、今じゃ携帯があれば事足りるからね」

「でも、確かイビノムの中には電波を狂わせて電子機器を使えなくしたりする個体がいるから、外れってほどじゃないような気がするけど」

「うん。その通りだね。でも、それは特殊なケースだからね。既存の念話使いがいればいいのさ。よっぽどのことがなければ念話使いは国防軍とかには入れないね。まあ、僕は公務員志望だからいいんだけどね」

「え!? じゃあ、なんで異能学園に?」

「家から近かったから」

「うえっ! そんなこと言う奴、ホントにいるんだ……」

「はは、だって勉強できる環境が整ってればいいからね」

「なるほどー」


 素直に一真は感心していた。一真は異世界に行く前は普通に置換の異能でいいところに就職しようと考えていた口だからだ。置換は物体を瞬時に移動させることが出来るので重宝されることが多い。だから、一真は置換の異能が目覚めた時は当たりだと喜んでいたくらいだ。まあ、異世界に行ったせいで一真は平穏に生きていくことを決めたので無難なところに就職しようと考えている。


「それじゃ、最後は俺だな!」

「あ、もういいです」

「いや、聞けよ!」

「ははは、嘘だって。どんな異能なん?」

「ふふ、聞いて驚け! 俺の異能は探知だ!」

「え!? それ普通に凄いやつじゃん!」


 探知とは言葉とおりの能力であるのだが、特筆すべき点はイビノムを探し当てる事ができる点だ。実はいまだにイビノムを探知することの出来る機器が開発されていない。なので、探知の異能はあらゆる方面から重宝されるのだ。


「まあな。でも、どこまで異能を強化出来るかだ」

「あー、そっか。探知範囲が狭かったら意味ないもんな」

「ああ。今の所半径十mまで探れる。でも、国防軍の採用基準は百mだからな。あと十倍は頑張らないといけない」


 異能は成長するので本人の努力と才能が必要になってくる。ある程度までは頑張れば異能は成長するのだが、そこからがキツくなってくる。だから、才能も必要になってくるのだ。


「うわ、結構厳しいな」

「当たり前だ。探知の異能者は人類の防衛線みたいなもんだからな。確かに、今はドローンや衛星なんかを使ってイビノムを索敵しているが、やはり一番重要視されるのは探知の異能だ」

「そっかー……。じゃあ、伊吹も国防軍狙ってるん?」

「ああ! やっぱ国防軍に入ればモテるからな!」

「はは、まあ、給料めちゃくちゃいいもんな。前線で活躍するだけ流石だと思うわ」

「そうだろう! だから、俺は頑張っているのだ!」

「凄いな……。頑張れよ」

「おう!」


 こうして一真は三人の異能を教えてもらった。それに加えて将来のことを見据えている三人に感心する。自分はただ平穏に暮らすという漠然とした夢しかない。これでいいのかなと思うが、まだ一年生なのだから焦らなくてもいいだろうと一真は考えるのをやめて、今を楽しむことに決めた。

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