第5話 ボッチじゃなかった……ッ!
そして、呼び出された祭は担任にイビノムに襲われたことを色々と聞かれたが、応接室で話したことがほとんどだったのですぐに解放された。が、一応メンタルケアは必要だということで祭は学園にいるカウンセラーの元へ連れて行かれて簡単な質疑応答をする。
なぜそんなことをするのかというと、結構多いのだ。イビノムに襲われてトラウマを抱えてしまう事例が。だから、祭も一真に助けてもらい無傷ではあるが心まではわからないので念の為にカウンセリングを受ける。
結果、祭は問題なしと判定される。まあ、襲われた直後も普通に教室へ行っていたことから意外と祭は肝が座っているのかもしれない。
「神代。問題なしって言われたけど、なるべく今日は、親しい人と一緒にいるんだぞ。今は、平気かもしれないが、後から思い出して怖くなることもあるからな」
「は、はい」
「じゃあ、先生は職員室に戻るから気をつけて教室に戻れよ」
「はい」
祭は先生の言うことを素直に聞き入れて返事をする。
その後、祭は教室へ戻り、親友である岬から質問攻めに合う。
「ねえ、呼び出しなんだったの?」
「えっと、私を助けてくれた人を探してるみたい」
「あー、なるほど。監視カメラとかに映ってなかったの?」
「映ってたんだけど、位置が悪くて私とイビノムしか映ってなかったの」
「そうなんだ。先生でもないなら戦闘科の生徒かな? だとしたら、今頃自慢でもしてると思うし、祭を訪ねてきてもおかしくなさそうよね」
「そうかな? そんな人だとは思わないけど?」
「まあ、覚醒した時期によるかもね」
現在の異能者は昔のようにイビノムの血液を摂取して適合するかしないかをする必要はない。今は両親が異能者の場合がほとんどなので三歳、五歳、七歳、九歳、十一歳、十三歳、そして十五歳で異能が覚醒するようになっている。それ以降だと覚醒したという事例は極めて少ない。
そして、異能は両親のどちらかの異能を受け継ぐ場合もある。なので、かつては希少な異能を持つ者と強引に結婚する人間がいたりした。
だが、今はいない。
なぜならば、親の異能は必ず遺伝するとは限らないからだ。両親とは全く違う異能を覚醒する子供も多くいる。
そのおかげで異能の良し悪しで結婚をすることはなくなったのだ。
「ほら、異能に覚醒したばっかりって気が大きくなる人が多いじゃない? だから、イビノムを単独で討伐したってなったら自慢してもおかしくないでしょ?」
「う〜ん。そうなのかな?」
「まあ、あくまでも私の考えだけどね。近いうちに戦闘科にいってる友達にでも聞いてみようか?」
「そうだね。私もきちんとお礼を言いたいし。探してみるね」
「それで話は戻るんだけど、他にはなに話してたの?」
「えっと、実は国防軍の人たちが来てて」
と、祭が喋っている途中で岬が国防軍という単語を聞いて驚きのあまり立ち上がる。
「国防軍ですって!?」
「ちょ、岬ちゃん! 声が大きいって」
「あ、あ、ごめん」
しかし、時既に遅し。岬が大きな声で発言した国防軍という言葉は教室内に広がっていく。
「今、国防軍ってきこえなかったか?」
「ああ、聞いた。確かに国防軍て言ってた」
「嘘! 国防軍が来てたの?」
「えー! 見たかったな」
「スカウトに来てたんか!? だったら、アピールしに行かないと!」
「バーカ! 支援科に来るわけねえべ? きっと戦闘科の生徒の方だよ」
騒がしくなる教室内を見て祭は岬を睨む。騒動の犯人である岬は両手を合わせて頭を下げると祭に謝罪の言葉を述べる。
「ご、ごめん! 私のせいで……」
「はあ。もういいよ。多分、遅かれ早かれ知られると思うから。それが早くなっただけだから気にしないで」
「ま、祭〜!」
祭の優しい言葉に岬は感動して涙目になりながら抱きつく。
「ごめんね、ほんとにごめんね」
「もういいってば」
泣きつく岬の頭を撫でながら祭はこれからどうしようかと考える。岬と一緒に助けくれた人を探すために戦闘科に通っている友達のことについて考えるのであった。
その頃、一真は教室内でボッチ生活から抜け出そうとなんとか頑張っていた。主に先程の警報についての話題が教室内でされていたので流れに乗っかろうと一真は勇気を振り絞って話しかける。
「なあ、さっきの警報聞いた?」
しかし、悲しいことに一真の言葉は届かない。恐らく聞こえてはいるだろうが話しかけた生徒は他の仲の良い生徒と楽しく談笑している。一真が入り込む余地などなかった。やはり、三ヶ月も入院生活してたのは痛い。その間にクラスメイトはある程度のグループ分けが済んでいる。だから、今更一真がどこかのグループに入ることは非常に難しい。
「……ちくしょう。せめて戻るなら事故直前が良かった」
机にうつ伏せて愚痴を吐くが時は戻らない。こればかりは一真の魔法を持ってしても不可能だ。まあ、もしかしたらいずれ時間を操作する異能者が現れるかもしれない。それを願うことしか一真には出来なかった。
そして、最後の授業を終えて一日が終わる。振り返ってみれば一真は登校初日にイビノムと戦う羽目になり、濃厚なものとなった。ただし、誰もそのことを知らないので一真は誰からにも声を掛けられることはなかった。自分から声は掛けたが、気まずい結果に終わり友達というものは出来ていない。
結局、登校初日は散々な結果である。唯一良かった点はイビノムにも魔法が通じることがわかったこと。しかし、それが学園生活で何の役に立つかわからない。よほどの緊急事態、それこそ今日のように学園の敷地内にイビノムが現れでもしない限りは役には立たないだろう。
帰りのホームルームが終わり、クラスメイトたちは部活へ行く者と放課後遊びに行く人で別れた。仲の良いグループ同士で帰り際に遊びに行こうと盛り上がっていたり、部活で今日はなにをするのかと楽しそうにしていたりする。
それをただ眺めていることしか出来ない一真は一人寂しそうに教室を出ていく。残っていても、仕方がないから。一真はトボトボと寂しそうな背中を見せながら学生寮へ帰る。
しかし、その時予想もしていなかったことが起こる。教室を出ていき、帰ろうとしていた一真にクラスメイトが声を掛けたのだ。
「なあ、皐月!」
一見、女性の名前のように聞こえるが一真の名字である。だから、一真はまさかな、と思いながら振り返ると、自分の方へ向かってきている三人組の男子生徒を目にする。
「え、あ……?」
驚きのあまり上手く喋れない一真だが、相手が気遣ってくれるように話してくれる。
「あー、あのさ、これから俺らと遊びに行かないか?」
「え!? その……いいの?」
「ああ。もちろん。俺達、皐月と話してみたいってなって思ってさ。同じ支援科のクラスメイト同士仲良くしようぜ」
その言葉に一真は歓喜に震える。涙は出ていないが腕で目元を拭う素振りを見せて泣き真似をする。
「うおおおお! ありがとう!」
「ははは! 面白いやつだな! じゃあ、早速遊びに行こうぜ!」
というわけで一真は三人のクラスメイトと遊びに行くことへなる。ボッチ確定の灰色青春時代を送ることを覚悟していた一真にとっては嬉しい出来事であった。
放課後、一真は三人と街へ出向いている。四人は歩きながら自己紹介を始めた。
「そういや、まだ名前言ってなかったな。俺は
「おお! 暁! いい名前だな!」
「ははっ! ありがとな。お前の一真って名前もかっこいいぞ」
「ありがとう。俺もこの名前は気に入ってるんだ」
最初に一真に声を掛けてきた暁が自己紹介をして軽く談笑を交える。それから、二人目が自己紹介を始めた。
「僕は
「よろしく、不動くん」
「それにしても急にごめんね。暁のやつが強引に誘って」
「おいおい、強引じゃないだろ!? 割と普通に誘ってたって!」
「いや、俺としても嬉しかったよ。ほら、俺って三ヶ月も入院してたから、正直もう諦めてたんだ。だって、もうクラスは仲のいいグループが形成されてる頃だからさ。俺ボッチだって思ってたから、今日誘ってくれてめっちゃ感謝してる」
「ほら! 皐月も感謝してるって! やっぱ誘って正解だったろ?」
「はいはい。そうだね」
「そこもっと褒めるべきだろ!」
そうして盛り上がっている中、最後の一人が自己紹介をする。
「じゃあ、最後は俺だ。
一真は彼女募集中という言葉を聞いて思い切り吹いてしまう。
「ぶふっ! 彼女募集中ってそれ自己紹介なのか?」
「自己紹介だろ。ちなみに好きなタイプはお尻が大きな子だ!」
「はははははっ! いきなり過ぎて笑うわ!」
「そうか? 俺は至って真面目だぞ?」
「ようし! これで全員自己紹介も終わったし、どっか遊びにでも行くか! カラオケでも行くか? それともボウリングか? ビリヤードやダーツでもいいぞ!」
こうして四人は自己紹介を済ませて遊びに行く。どこに行くかはまだ決まっていないが、一真は友達と呼べるような存在が出来たので大満足である。最後の最後にこれほど嬉しい出来事があるとは思ってもいなかったことだろう。
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