第4話 間違った答え

 イビノムに襲われたが一真に助けられた女子生徒こと神代祭は教室へ戻っていた。まさか、異能テストの直後に襲われるとは思ってもいなかった祭は自分が生きていることが奇跡だと思っていた。

 なにせ、祭は支援科の生徒で戦う術を持っていないのだからイビノムと対面すれば逃げる一択しかない。しかし、いざ対面すれば恐怖で腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。


 もう絶対に助からないと思っていたのに生きている。これを奇跡と言わずなんと言えよう。ただ、同時に思うのがあの時助けてくれた男子生徒だ。あまりの出来事に驚きすぎて顔も覚えていなければ戦闘科だったか支援科の生徒だったのかもわからない。唯一、分かるのは声が男だったということ。それだけだ。


「ふえぇ〜。岬ちゃん。私死ぬところだったんだよ〜」

「なに? またドジでもしちゃったの?」

「違うよ〜! ほら、さっき警報が鳴ったでしょ?」

「あー、イビノムが近くに現れたらしいわね。え、もしかしてあんた襲われたの……?」

「うん……」

「うっそ! 大丈夫だったの!? あれ、でもあんた怪我も何もしてないわね? ほんとに襲われたの?」

「襲われたの! もう駄目だって思って目を瞑ったら男の人が助けてくれてこうして生きてるんだよ〜」

「そうなの? じゃあ、その人に感謝しなくちゃね!」

「うん。そうなんだけど、実は顔も姿も見てないから誰だか分からなくて。一応、声は男の人っぽかったから男の人だと思うんだけど……」

「え? あんた、自分を助けてくれた人のこと全くわからないの?」

「うん。だから、お礼も出来なくて……」

「おっかしいわね〜。普通、確認に来るはずだと思うんだけど……」


 二人が話しているその時、教室のスピーカーから音楽が流れてくる。


『支援科一年三組、神代祭さん。至急、職員室まで来てください。繰り返します。支援科一年三組、神代祭さん。至急、職員室まで来てください』


 そして、もう一度音楽が鳴って校内放送は終わる。その放送を聞いていた教室にいた生徒達は祭に目を向ける。そして、祭と話していた藤堂岬とうどうみさきは祭の肩を叩き、生暖かい目で親指を立てる。


「行って来い」

「はい……」


 顔を真っ青にしながら祭は教室を出ていく。向かう先は職員室だ。祭が職員室に着くと、担任教師が祭を呼び寄せて応接室に客が来ていることを説明する。その説明を聞いた祭は教師と一緒に応接室へ向かうことになる。応接室に着いた祭は教師と一緒に中へ入ると、そこには戦闘用スーツを着ている二人組の異能者がいた。


「失礼します。神代祭さんを連れてきました」


「ありがとうございます。まずは自己紹介を。私は国防軍対イビノム部隊に所属している宝条水希ほうじょうみずきと言います。そしてこちらの男性が杉崎健二すぎさきけんじと言います。よろしくおねがいします。それでは早速お話を伺いたいと思いますので、どうぞお座りください」


「はい。ほら、神代。お前も挨拶」

「あ、はい。神代祭と言います。よろしくおねがいします」

「ええ。よろしく。それじゃ、早速神代さんに聞きたいのだけれど、今日イビノムに襲われたかしら?」

「え、あ、はい……」

「え! 神代、お前イビノムに襲われたのか!?」


 担任教師は詳しい話を聞いていなかったので祭が襲われていたことを知らなかったので驚いている。


「すいません。先生、今は話している途中ですので」

「あ! これは申し訳ありません!」

「では、話を続けましょうか。神代さん。まずはこちらの映像を御覧ください」


 水希は机の上にあったノートパソコンを操作して、二人に祭がイビノムに襲われていたときの映像を見せる。カメラの位置が悪くて葉っぱとイビノムの一部しか見えないが、映像の後半に逃げ出す祭の姿が映ったところで一時停止される。


「神代さん。この映像の生徒は神代さんで間違いありませんね?」

「は、はい。私で間違いないです」

「では、お聞きしたいのですが、誰が貴女を助けたのですか?」

「え、あ、それは……」


 聞かれて俯く祭に水希は怪訝そうにする。彼女はなにか隠しているのだろうかと。しかし、それは違う。祭はわからないので答えられないのだ。だから、気まずそうに俯いている。


「神代さん。なにか言えないことがあるのですか?」

「い、いえ、その実はなんていうか……」


 水希に問い詰められて焦る祭だが答えることが出来ないのでギュッと目を瞑り、スカートを握りしめる。だが、それではいつまで経っても話し合いが進まないので祭は意を決して知らないことを打ち明ける。


「すいません! 私、あの時怖くて逃げるのに必死で助けてくれた人のこと知らないんです!」

「え! じゃあ、全くわからないの?」

「いえ、声は覚えているので男の人だったと思います」

「そう……。男の人ね」

「は、はい。あのすいません。お役に立てなくて」

「あー、いいのよ別に。気にしないで。それで教えて欲しいんだけど、その男の声は若かったかしら? それとも歳を取ってそうだっかしら?」

「えっと、若かったと思います」

「若かったね。じゃあ、最後に聞きたいんだけど、その人とはなにか話したのかしら?」

「いえ。逃げろって言われただけで、それ以外は何も……」

「わかったわ。情報提供どうもありがとうね」

「あ、あの……もしその人を見つけたら私にも教えてくれませんか!」

「それはどうして?」

「えっと、私助けてもらっておいて、お礼も言えてないんです。だから、もし、また会えることがあるなら、ちゃんとお礼を言いたいなって」

「ふふ、そう。貴女はいい子ね。わかったわ。見つけたら教えてあげる」

「ありがとうございます!」


 お礼を言った祭は教師と一緒に応接室から出ていく。残ったのは二人を案内した職員の合計三人だけである。健二と水希の二人は得られる情報を得たので学園を後にすることにした。案内を担当していた職員に、帰ることを告げて二人は学園を出ていく。


「なあ、さっきの話どう思う?」

「そうね。嘘をついているようには見えなかったわ。多分、知らないのはホントだと思う」

「じゃあ、結局、手掛かりは若い男かもしれないってことだけか」

「それが分かれば十分よ。ふふっ、いいじゃない。将来有望な異能者が、ここにいるかもしれないってことでしょ? とりあえず、上に報告してから、学園にいる戦闘科の生徒を調べていきましょう。そうすれば見つかるかもしれないわ」

「どうだかな。俺ならイビノムを倒したことを自慢するね。学生の身でありながらイビノムを単独で倒すってのは武勇伝だ。まだ学生なら今頃、友達に自慢しまくっているわ」

「それもあり得るわね。でも、正直そんなことしてたら幻滅だわ。国防軍にスカウトしたかったのに、そんな話を聞かされたら考えものね」

「まあ、あくまでも俺の想像だ。異能に目覚めたばっかりなら余計にそうなる傾向が多いだろ?」

「確かにそうね。私も七歳で異能に目覚めた時は調子に乗ったものだわ」

「だろ? 俺だってそうさ。十三歳で異能が目覚めた時は中二病を発症して黒歴史大量生産したしな」

「杉崎……、貴方そんなことしてたの?」

「お前だって大して変わんねえだろうが! どうせ少女アニメものみたいなことしてたんだろ!」

「そ、そそそそんなことないわよ!」


 どうやら図星だったようで水希は顔を真赤にしながら狼狽えている。それを見た健二もまさか適当に言ったことが的中するとは思っていなかったらしく苦笑いである。


「マジかよ、お前……」

「あ、あんただって同じでしょ! なに私だけが頭おかしいみたいな顔してんのよ!」


 しばらく二人は言い争いを続けた。やがてお互いに疲れたのか息を切らして、溜め息を吐き帰路へと着く。


「はあ〜。不毛な争いだわ。帰りましょうか」

「ああ、そうだな……」


 こうして一真の正体は誰にもバレることはなかった。水希と健二は若い男と聞いて戦闘科の生徒だと決めつけた。まあ、支援科の生徒がイビノムを単独で討伐するなど誰も想像は出来ないだろう。二人が間違えてしまうのも仕方ないことだった。

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