第3話 初戦闘

 ウーウーと、突如鳴り響く警報に一真はビクリと身体を震わせる。今まで聞いたことのない警報ではあるが、一真はその警報が何を意味するのかを知っていた。それは――


「イビノムが街に侵入したのか……!」


 警報が鳴るのはイビノムが防衛システムを突破し、警備を担当していた国防軍や民間企業の異能者の包囲を突破して街へ侵入したことを意味する。そして、警報はそれぞれの地区にある。ここまで大きく聞こえるということは、今一真がいる地区にイビノムが侵入したということ。


「でも、まあここは学園内だし戦闘系の異能者が多くいるからすぐに討伐されるだろ」


 異能テストが終わり、呑気に過ごしていた一真はここが異能学園だということを思い出して、特に焦ることもなくのんびりとしていた。きっと、戦闘系の異能者がどうにかしてくれるだろうと一真は楽観視している。


 しかし、そうはいかなくなる。


「きゃああああああああっ!!!」


 学園の敷地内、ちょうど一真が休んでいる近くで女子生徒の悲鳴が聞こえる。これが何の経験もない一真であったなら驚いて固まっているところだったが、異世界で何度も悲鳴を聞いた一真は考えるより先に身体が動いてしまう。


 悲鳴の聞こえてきた場所に一真が駆けつけると一人の女子生徒がハエの形をしている昆虫型のイビノムに襲われていた。幸い、まだ怪我はしていないようで助けることが出来る。助けようと一真は走り出すが、思い出して止まる。


「(待て。さっき平穏に暮らすって決めたじゃんか! ここで俺が飛び出さなくても、他の異能者がきっと……)」


 助けてくれる、そう考えた時、イビノムが女子生徒を食い殺そうと凶悪な口を大きく広げた。


「誰か助けてえええええええ!!!」

「ッッッ!」


 もはや、反射であった。一真は気がついたらイビノムを殴り飛ばしており、女子生徒を守るように立っていた。


「え……」

「今の内に早く逃げろ!」

「え、あ、はい!」


 怒鳴るように一真は女子生徒に逃げろと命じる。女子生徒は一真の言葉を聞いて戸惑いはしたが、すぐに逃げ出した。


「ちっ……やっちまったな〜」


 女子生徒が逃げ出してすぐにイビノムが一真の元へ戻ってきた。獲物を逃されて怒っているのか、牙をかちかちと鳴らして一真を睨んでいる。


「ちょうどいいと考えるべきか。お前に魔法が通じるのか試させてもらう!」


 折角の機会だからとプラス方向に考えた一真は異世界で得た魔法をイビノムにも通用するのかを試すことにした。身体強化魔法で己を強化してイビノムの側面に回り込み、火属性魔法を放つ。


「フレイムランス!」


 一真の手から槍の形をした火がイビノムに向かって放たれる。フレイムランスはイビノムに直撃すると、そのまま硬い甲殻を突き破った。


「ギイイイイイイ!!!」


 痛みに叫ぶイビノム。だが、まだ死んではいない。イビノムは一真を脅威と認識して、その場から逃げ出そうと空へ向かう。

 しかし、一真はイビノムを逃す気はなかった。イビノムが飛んで逃げる方向に先回りして、イビノムに向かって手の平を向ける。


「どうやら魔法も通じるらしいな。これでトドメだ! フレアバースト!」


 一真の手の平から放たれる炎の塊を受けたイビノムは断末魔を上げる暇もなく消し炭となった。


 スタッと軽やかに着地した一真は手を何度か握ったり閉じたりしている。


「ふう……初めてイビノムと戦ったけど、この感じなら大したことはないかな? まあ、でもさっきのは昆虫型で大した強さもない個体だから油断は禁物か」


 今回の戦闘の結果、一真が異世界で得た魔法はイビノムにも通じることがわかった。それだけで大収穫である。それに女子生徒も無事に逃げ出せたのだから最高の結果だ。


「ん……? こっちに人が向かってきてるな。面倒になりそうだから逃げよ」


 一真はイビノムを倒した余韻に浸っていると、こちらへと向かってくる複数の気配を察知する。恐らく、戦闘系の異能者であろう。今、一真が彼らと出くわすのは不味い。既にイビノムは一真が討伐しているため、彼らは現場にいる一真に色々と質問をすることになる。そうなると誰がイビノムを討伐したかになり、一真が疑われてしまう可能性がある。

 それは避けるべきだと判断した一真は急いでその場を後にする。一真がいなくなってから、しばらくして二人の異能者が現場にたどり着いた。


「ここで戦闘があったようね……」

「みたいだな。しかし、イビノムの死骸すら残っていないとは……」

「ひとまず学園に連絡して話を聞きましょうか」

「そうするか」


 男性の異能者が電話を取り出して通話をしている間に女性の異能者は周囲を調べる。しかし、イビノムの死骸も残っていないので何の手掛かりも残ってはいない。


「手掛かりはなし……ね。一体誰が?」


 一向に手掛かりは見つからなかったので、イビノムを倒した人物が何者なのかは、その場ではわからなかった。


「学園の方と話がついた。水希みずき、監視カメラに現場の様子が映っていたそうだ」

「そう。じゃあ、早速確認に行きましょう」


 水希と呼ばれた女性は男の異能者と共に学園へ向かう。二人が向かった場所には教師が待っており、二人を学園内へ案内すると監視カメラの映像を確認できるモニタールームへ向かった。そこには学園に取り付けられている監視カメラの映像がリアルタイムで見れるようになっていた。


「それで例の映像は?」

「はい。こちらになります」


 モニタールームの職員が操作して録画していた映像に切り替える。そこに映ったのはイビノムと木の葉であった。どうやら木に取り付けられていたようだが、肝心のイビノムを倒した一真の姿は映ってはいなかった。しかし、一真が助け出した女子生徒は逃げていく姿が映っていた。


「誰が戦ってるかは分からないけど、襲われた方は特定できそうね」

「そうみたいだな。おい、もう少しアップに出来ないか? 逃げ出した女子生徒を知りたい」

「わかりました。少々お待ち下さい」


 職員が操作してカメラの映像をアップにして女子生徒を映す。画質を上げていき、女子生徒の特定をしていく。くっきりと顔全体が判明して水希が職員に特定を急がせた。


「この子の名前は?」

「リボンの色からして支援科の一年生ですね。名前は……」


 顔写真から女子生徒を生徒一覧から検索して特定した。


「わかりました。支援科一年生、神代祭かみしろまつりさんです」

「そう。じゃあ、杉崎すぎさき。早速話を聞きに行くわよ」

「了解」

「お待ち下さい。それなら校内放送で呼び出しましょう。お二人は応接室にてお待ちください」

「だそうだが、どうする、水希?」

「そうね。そっちの方が探す手間も省けるし、お言葉に甘えさせていただきましょう」

「では、こちらへ。応接室にまでご案内します」


 水希と杉崎の二人は学園の教師に案内されて応接室へ向かう。二人は応接室に案内されるとソファに腰掛けて、後はイビノムに襲われた女子生徒の神代祭を待つのみとなった。

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