四章 暴言と暴力
現状
妻帯者となることで、地区での役割が変化した。青年部として子供会の行事の見守りや、朝の清掃、近くの神社の管理だけで良かったものが、全て剥奪され、壮年部という新しい部に入ることを余儀なくされた。そこでは消防団への強制加入や、公民館の維持管理などの重労働が待っていた。これを仕事と両立するのはかなりハードで、何度か会議や集会を休んだり、行事に出なかったりした。するとそれらに参加しなかったことで、罰金として数千円徴収された。安月給にはかなりの負担だった。そして金銭面だけでなく、生活面でも俺を苦しめる事態が起きた。妻を巻き込んでの噂である。俺が彩に影響されて怠け者になったとか、俺の家は地区の行事を軽んじているとか、そういった類のものである。そこまではいつもの事だと聞き流せたが、新婚は夜の行事の方が大事で朝起きられない、といった不快な噂までささやかれることには、我慢が限界を超えていた。俺は会社の合間に地区の行事に駆り出され、妻が何に悩んでいるのか、きいてやることが十分にできていなかった。
この地区は少子高齢社会で、子供会と言っても、小中合わせて子供は二人しかいない。俺が最近抜けた青年部に至っては、廃部となった。雪害や店がないという不便さから、転居・転出に歯止めがかからず、女性は結婚と同時に地区から出て行くことが通例となっている。もう、この地区のやり方では人口流出に歯止めがかからないことは、前々から分かっていたはずなのだ。それなのに、ここの年配者たちは何もしなかった。その上、休日や祝日の休みだけでなく、早朝や夜遅くに若い者をかり出して会議や集会、行事を行って来た。出席率が悪かったり、回覧版や集金に問題があったりするだけで、激怒しているのだから、滑稽でさえある。その会議、集会、行事では、婦人部が当たり前のようにかり出される。婦人部には年齢制限はなく、子供会を抜けた女性は全て婦人部に自動的に加入する。無論、妻もここに越してきた時点で加入している。婦人部は集まった人々に茶や酒を配る他、その季節に応じた地元の家庭料理を振舞うことになっている。人家族から一人の女性が出ていればいいので、俺の家からは母親が来ていた。つまり、妻は婦人部にずっと来ていない。俺の肩身は狭いが、こんなところに妻を毎回連れてくるのは、気が引けた。
しかし、それでも妻は妻で不満をため込んでいたようで、俺に泣きながら罵声を浴びせたことがあった。この時ばかりは、俺も疲れていて腹も立っていたので、つい、慰めるのではなく、厭味ったらしく言い返すことになってしまった。その上、俺に向けられる妻の痛いくらいの表情を見ていられなくて、思わず、妻の顔をベッドに押し付けていた。妻が苦しんで足と手をばたつかせていたことで我に返り、自分の所業に驚くとともに、心臓を冷たい手で撫でられたような心地がした。
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