第4話 ミリアノオニィ

 病院の屋上へ呼び出された美紀へ、足にギプスを巻いて、車いすに乗った高校生くらいの少女が話しかけてきた。


「あなたが美紀さんね。はじめまして私はミリア。オニィの雅人がお世話になっております。オニィは今、飲み物を買いに行ってるわ」


 美紀は、本当にけがをした妹がいたことに、わずかではあったが、雅人がまだ自分をだましているという疑念を払拭できたことに安堵した。


「交通事故だそうね。大変だったね。大丈夫?」


「私は大丈夫よ。オニィが大げさなだけ。でも私がケガをしたことで、オニィの彼女さんに会えてラッキーだったわ」


「彼女だなんて。友達よ」


「えへへ。まだ、友達か。友達でもいいよ。だって、オニィは私の学費を稼ぐために毎日働きづめで、人づきあいがなくて心配していたの。

 今は辞めてくれたらいいけど、掛け持ちしているバイトで、詐欺まがいの変なのに応募したときは、やめるように説得したの。

 それから私、事故に巻き込まれちゃって、オニィはお金の心配をしてたけど、相手の保険で治療費と学費まで出してくれるってことになったから、これからオニィに時間ができて、美紀さんとも会える時間が増えるってことでしょ。だから私が事故にあっていいことづくめなの」


 そこへ、雅人が缶ジュースを持って戻ってきた。


「美紀さん。呼び出しちゃってごめんね。ミリア。美紀さんと何話してたんだ?」


「えへへ。内緒!私は病室に戻るわ。じゃあね美紀さん。兄をよろしくお願いします」


「え?どういう意味だミリア。美紀さん困ってるだろ。病室まで車いす押していくよ」


「いいのいいの。あとはお二人で楽しんでください」


そう言うとミリアは、エレベーターに乗って屋上から去っていった。



 美紀と雅人の二人は、病院の屋上から街の景色を見渡せるベンチに座りながら、話をした。


「いい妹さんじゃない。どうして詐欺なんかに手を出しちゃったの?」


「3年前に両親が借金を苦に自殺して、身寄りのない僕たちは二人だけで協力して生きてきたんだ。僕はいくつか仕事をかけ持っていたけど、どうしても妹に高校を卒業させてあげたくて、割のいいバイトに応募したら詐欺だったんだ。それで仕方なく、、、でも、もうきっぱりやめた。誰も騙せなかっただけなんだけどね」


「そうだったの」


「でも、詐欺の仕事をして、いいこともあったんだ」


「何?」


「その、あの、、、美紀さんと会えたこと!」


「もう!何言ってるの。実は私も両親を早くに亡くて、弟と二人で協力して生活してきた過去があるの。私たちなんだか似てるわね。

 私も雅人君に会えてよかったと思ってるよ。でも私、結婚してるの。悪いけどあなたとは、、、」


 雅人が美紀の言葉を遮るように言った。


「でも今日来てくれた。僕が美紀さんに会いたいと言ったら来てくれた。美紀さんも同じ気持ちだったんでしょ?」


雅人が美紀の手を掴んで見つめてきた。

美紀は内心、雅人が押し切って、せまってきてくれると信じて拒んでいた。これがうまくいったことに対する嬉しさで、ほころびかけた笑みをこらえながら目を閉じた。


そしてそこへ唇を重ねる雅人であった。

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