第3話 渚メイクと渚ポイント
新米ロマンス詐欺師のマートと直接会うこととなった当日。
美紀は鏡台の前に座りながら考えていた
(あまりメイクに力入れても本気に見られたら困るしな。最終的には説得して詐欺から足を洗ってもらう方向に持っていきたいから、やはりナチュラルメイクで行くべきだろうか。
いや待てよ。万が一、万が一いい感じなってキスするなんてことになったら、接近するわけで。私の肌が荒れてることに気づかれたら冷めてしまうなんてことが、、、
ダメだダメだ。更生第一、初志貫徹。よこしまな心は封印封印!)
結局、ナチュラルと本気の間メイクで、待ち合わせ場所である「いけふくろう」とチェリーロードの間に立つ、美紀であった。
相手が詐欺師だと分かっていても、ネットで知り合った人と会うことが初めてで、内心ドキドキしていた美紀。
美紀は自分の目印として、ラッコの缶バッヂをカバンにつけて、その時を待った。
目線の先からやってくる、マートの目印である赤い帽子の男性が近づいてくると、さらに心拍数が上がった。
「みーつけた」
その男性はやはりマートだった。見た目はとても若く、美紀は自分よりも10歳以上も年下ではないかと思った。
無邪気に笑って話しかけてきた彼に、美紀も笑顔で答えると、マートは美紀の手を引いて池袋駅の地下から地上へ出る階段を登り始めた。
差し込んでくる眩しい日の光が、階段を上がるごとに強くなる。それと同時に鼓動と意気も上がっていくことを、美紀は抑え込むことはできなかった。
二人は公園のベンチに座りながらソフトクリームを食べて雑談をしていると、鼻にクリームが付いたマートを見て、美紀が笑いながらハンカチを取り出して、拭きあげた。
その後、美紀は、ヨレヨレのシャツを着ていたマートに、路面店が歩道に陳列していたセール品のシャツを買ってあげた。とても喜んでいるマートを見て、
(あれ?やっぱりこれも騙されたうちに入るのかな?まあいいや。でも、このまま続くと本気になってしまいそうだ。もうこのあたりで終わらせよう。)
芝居は続けられないと正気に戻った美紀は、近くにあったカフェへ誘い、マートに話しかけた。
「君が詐欺師であることはわかっているぞ」
マートは一瞬、虚をつかれた表情を見せたが、二呼吸して話し始めた。
「ごめんなさい!ビキさんの言うとおり、騙そうとしていた事は確かだけど、ビキさんが本当にいい人で、、、なかなか言い出せなくて、詐欺を止めようとしていたんです」
「まぁいいわ。正直、私は私で楽しませてもらっていたし。君にもいろいろと事情はあるだろうし。これも何かの縁だ。何か困ったことがあったら、お姉さんでよければ相談に乗るぞ。ちなみに私の本当の名前は美紀。あらためてよろしくね」
「僕は
そして二人は、それぞれの帰路についた。
それから二日間、雅人から連絡がない。美紀は、彼がどうしているか心配になって、聞いていた電話番号へ連絡してみた。
呼び出しはしているが出てくれない。着信は残したから、しばらくすれば折り返しあるだろうと、スマホを置いた美紀。
しかし、気になって5分ごとにスマホの着信ランプを確認するようになっていた。
この時、返信がないことへのイラダチと、彼の身を案ずる心配がピークに達していた時、雅人から電話が来た。
「美紀さん、連絡できなくてごめんなさい。実は、妹が交通事故で入院してしまって。ずっと付き添っていたんです」
「そ、そう」(あれ?ロマンス詐欺継続してるの?)
「あー、でもお金が欲しくて連絡したんじゃないんです。僕には肉親が妹しかいなくて、とても大切で心配で一緒にいたんです。きっと僕が詐欺なんか働こうとしたから、バチが当たったんじゃないかと思って」
「大変だったのね」
「もしよかったら今から会えますか?まだもう少し妹のそばにいてあげたいから、病院でよければ来てください」
美紀は、この二日間、雅人のことばかりを考えていたせいで、彼に会えるのであれば場所はどこでも構わないと思っていた。
「わかったわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます