7-12

「おうおう、お熱いねえ。お二人さん」

 俺は一緒に歩いていた矢吹と早乙女の後ろからそう声をかける。

「びっくりしたあ。いるんだったら言ってよ、風早」

 矢吹が驚きながら俺にそう言った。

「悪い悪い。目の前にカップルがいたらイジりたくなるんや、俺」

 俺がニヤニヤしながらそう言うと、

「だからそんなんじゃないって。それに僕、結婚願望ないし」

 と、矢吹がそう言った。

「私もです。今のところ結婚願望はありません」

 と、早乙女も続けてそう言った。

「チェ、つまんねえヤツら」

 俺は思わずそうつぶやいた。

「……お父さんの葬儀、行けなくてゴメンね」

 ふと矢吹がそんなことを言った。

「ええって、別に。親父と関係のあるヤツしか呼ばないって、ウチのお袋の方針やったから」

 俺がそう言うと、矢吹はただ、

「そっか」

 とだけつぶやいた。

「お父さまの突然の不幸、お悔やみ申し上げます」

 早乙女は頭を下げながら俺にそう言った。

「ありがとう。でももうええんや。それより今はダービーやろ? 俺イヤやで、こんな空気のままダンスに騎乗すんの」

 俺は笑いながらそう言った。

「そうだね。今はダービーに集中しないと」

 矢吹がそう言うと、

「そうですね。私も負けるわけにはいきませんので」

 と、早乙女も続けてそう言った。

「言っとくけど、早乙女にばかりいい思いはさせないからね。イチバン強いのはロッキーだってこと、僕が証明してみせる」

 矢吹は早乙女にそう言った。

「ええ、望むところです」

 と、早乙女がそれに答える。

「……なあ、お前ら。俺って、ダービージョッキーになれると思うか」

 ふと俺はそんなことをつぶやいていた。

「どうしたの、急に」

 矢吹が俺にそう尋ねる。

「いや、やっぱ何も言わなくてええわ。わかっとる。俺の中での答えは、もう出たから」

 俺は必死にそんな言い訳をする。

「はあ……」

 矢吹はフシギそうな顔をしながらそう返事をした。

「風早さん、なんかいつもと違いますね」

 早乙女が俺にそう言った。

「そうか? 俺はこの通り通常運転やで。その証拠に、さっきお前らと会ったときの冗談もまるで通じなかったしな」

「それ自分で言って悲しくならない?」

 俺の言葉に矢吹がそうツッコんだ。

「じゃあお前らもっとオモロい反応せえや」

 俺は思わず矢吹にツッコミ返す。

「え、なんか、ごめん……」

 そう言って、矢吹はシュンとなってしまった。

「あ、怒ってないで、俺」

 俺は思わずオーバーなリアクションでそう言った。

 クスクスと早乙女が笑ったような気がした。

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