7-9
「最後のお別れやから、いつものように
友人代表の弔辞は、親父と漫才コンビを組んでいた相方の三宅さんに読んでもらうことになった。
三宅さんは鼻をすする。
「大輔が亡くなったと聞いたのは、いつものように朝の生放送を終えた直後でした。頭が真っ白になった。心ここにあらずって、こういうことを言うんだなと思うくらい、今でも夢見心地な気分です。そのくらい実感がわきません。
『漫才で一緒にテッペンとろう』って言って誘ってくれたのは、大輔の方からやったな。あのときのことを、今でも昨日のことのように思い出します。
大輔、覚えとるか? 俺たちがまだ下積みだったころ、お前何を血迷ったのか競馬に全財産賭けて、結局そのまま一文無しになって帰ってきたこと、あったよな。あのとき『一生のお願い』って言われて貸した五万円、いつになったら返してくれるん? 利子が数倍どころの話やないで」
それを聞いて、俺は思わず、
「ブフッ」
と吹き出してしまった。
告別式の会場にも、笑い声があちらこちらから聞こえた。
「そんなお前の息子が競馬のジョッキーになるって言ったとき、お前メチャクチャ嬉しそうにしてたよな。
『息子がダービーをとるまでは死ねない』って言ってたお前が、今はもうこの世にいないんだと思うと、ただただ悲しくて、むなしくてたまりません」
三宅さんはそこで涙をこぼした。それでも三宅さんは、右手で涙をぬぐいながら続ける。
「でも、泣いたところで帰ってこないよな、お前は。だから俺はこれから、大輔がいなくなったこの世界を受け入れて、大輔の分まで生きていこうと思います。そして
それから五万円の件やけど、俺たち二人よりも息子の颯也くんの方が稼いでるだろうから、そっちの方に請求したいと思います」
また会場が笑いに包まれた。
――いやいや、冗談キツいって、それは。
「まあ、冗談はさておき、これからは大輔の子どもたちを、自分の子どものように見守っていくつもりです。だから安心して、今は安らかにお眠りください。
風早 大輔の一生の相棒、
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