5-16

 ファンファーレが鳴り響いた。ゲート後方で周回していた三歳馬たちが、一頭ずつゲートへと誘導されて行く。最初に奇数番の各馬がゲートに収まって行った。そして偶数番の各馬の枠入りが始まった。ローレルは4番ゲートへと引かれて行く。後ろのゲートが閉じられ、ローレルを引いていた係員がゲートから離れた。

「そして最後に18番ユウショウオリオン。ゲートに収まりまして、係員が離れます」

 そしてゲートが開かれた。

「スタートしました」という実況と共に、十八頭の三歳馬が一斉に走り出す。中山競馬場第十一レース、芝コース二〇〇〇メートルのGⅠ競走、『皐月賞』の火蓋が今、切って落とされた。

「あっと、一頭出遅れました。16番キャプテンポラリス、大きく離れて最後方からの競馬となりました」

 そんな実況が響く中、私はローレルを最内に寄せる。ローレルはいつも通り、最初から先頭に躍り出た。

「やはり先頭に立ちました4番カコノローレル。その後ろには二馬身離れて3番のポケモーターですが、ここで早くもロッキーロードが仕掛けた。9番ロッキーロード、大外からポケモーターを捲って行く勢いだ。そして半馬身程離れて、二頭の間から1番リュウセイライナー。早くも三頭の二番手争いだ」

 私は思わず振り返る。すると、ロッキーロードは確かに、ローレルのすぐ後ろにいた。まるでローレルにぴったりと貼り付いているようにも見える。成程、これが矢吹さんの本気か。正直な事を言うと、私は噂程度にしか聞かなかった矢吹さんの本気を、少々侮っていた。でも、ローレルの瞬発力なら、ロッキーロードが仕掛けてからでも遅くはない。だから大丈夫、このままで行こう。

「さあ正面スタンド前、各馬一度目の坂を越えて、これから第一コーナーへと向かって行きます。そして4番カコノローレル、既に第二コーナーへと差し掛かろうという所。四馬身程離れて、9番ロッキーロードがそれを追う形となりました。三番手には二頭が並んでいる。外から3番ポケモーター、内には1番リュウセイライナーが続いています。

 そのすぐ後ろには先行集団。三頭並んで、大外8番セトナイトブラック。真ん中には12番コガラシイチゴウがいて、内から10番ダイヤンフライヤーがこれと並走。ここで一頭大外から捲って来た。16番キャプテンポラリスがこの三頭を交わした。そのまま三番手まで追い上げる勢いだ。

 ここで先頭が一〇〇〇メートルを通過。タイムは五七秒二と表示されました。かなりのハイペースです。後続は付いて来られるのか。

 そして中団は混戦模様。内に5番のシノノメアルタイルがいて、真ん中から7番ヤタノポートレイト。真ん中にもう一頭、13番のレジェンドビギナーです。それから大外11番スカイキャンバスがいて、14番ヨゾラノムコウもこれに追いすがる。

 後方には二頭並んだ。大外2番マイベストフレンド。内では6番マナーメイクスマンが並んで、二馬身離れてまた二頭が並んでいる。内から15番ダンガンストレイト、外から17番ロックスカッシュがこれと並走。最後方に18番のユウショウオリオン、今日は最後方からの競馬となりました。

 先頭から殿までは二十馬身以上、しかしその差が徐々に徐々に狭まって来た。各馬第三コーナーに突入。残り六〇〇メートルを標識を通過」

 ローレルは未だ先頭を走っている。しかし、他馬の足音が、少しずつ確実に近づいてきているのが解った。ローレルまでは三馬身差、いや、そろそろ二馬身差にまで迫っているだろうか。

 よし、今だ。

 そう思った私は、手綱を強く扱く。ローレルはそれを合図に加速を始めた。ローレルは今いる位置から、さらに後続との差を離しに掛かった。第四コーナーの終盤、残り四〇〇メートルの標識が肉眼で確認できる位置まで来た。

「ここで一気に大外からキャプテンポラリス、単独二番手のロッキーロードと並んだ。ポケモーターとリュウセイライナーもその差を詰めて来た。その外からユウショウオリオン、最後方から捲って来た。ダンガンストレイトも内から先行集団に迫って来る。残り四〇〇メートルの標識を通過。さあ、各馬最終コーナーへと向かった」

 私はローレルの右腹に一発鞭を入れる。少しして手綱を扱いてから、今度は左腹に一発鞭を入れる。ローレルが再び後続を突き放す加速をして行くのが解った。

 その時、私はローレルと共に一陣の風となれた。

「残り二〇〇メートル。先頭は依然カコノローレルだ。先頭は誰にも譲らない。意地でも譲らない。三馬身、いや四馬身だ。またまたその差が開いて行く。ここで二番手にユウショウオリオンが上がって来た。内からポケモーター、大外からリュウセイライナーも迫って来る。しかしカコノローレルだ。これはもう間違い無い。カコノローレル、そのまま一着で今、ゴールイン。

 七十四年振りの快挙達成。クラシック最初の一冠は、紅一点のカコノローレルが掴み取りました。長らく牝馬が獲れなかった『皐月賞』の冠、それから七十四年、ついにカコノローレルが夢を掴みました。その勝ちタイム、何と一分五六秒八。これは文句無しのレースレコード。

 そのカコノローレルから五馬身離れて、二着に18番のユウショウオリオン、ローレルへの三度目の正直とはなりませんでした。そして三着に3番ポケモーター、四着1番リュウセイライナーです。五着は写真判定となりましたが、リプレイを確認する限りでは最内10番ダイヤンフライヤーがやや優勢か。しかし大外7番ヤタノポートレイトと際どい勝負だ。五着、六着は写真判定です。確定までお手持ちの勝馬投票券をお持ちのままでお待ち下さい。

 以上、中山競馬第十一レース、三歳クラシックGⅠ競走『第82回皐月賞』の模様をお伝えいたしました」

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