5-15
「よう、久し振りやな、早乙女」
私がゲートの後ろでローレルの輪乗りをしていると、ダンガンストレイトに騎乗した風早さんが私にそう言った。そして風早さんはダンガンストレイトをローレルの隣まで近付けて、私に向かってにっと笑った。
「お久し振りです、風早さん。あれ、矢吹さんと一緒ではないのですか」
私は風早さんに返事をして、そのまま風早さんにそう尋ねた。
「ああ、あいつな。今話し掛けんなっちゅうオーラ出しとるからそのままにしとるわ。ああいう時のあいつは怖いで。ほんまもんの狩人の目をしとるからな」
風早さんはそう言いながら、ふと視線を別の方向にそらした。私はそれを追って、風早さんの視線の先を確認する。そこには、ロッキーロードに騎乗している矢吹さんの姿があった。だが、それはいつものにこやかな矢吹さんではなかった。風早さんの言う通り、誰も近寄りがたい独特の空気があそこには流れている。
「あいつ、前からローレルの事を相当意識しとったからな。これもしかしたら、お前とローレル、矢吹とロッキーに食われるんとちゃうか」
風早さんは私にそう言った。いつも冗談を言うような風早さんが、この時ばかりは茶化す気など全くないように感じられた。私も噂程度ではあるが、聞いたことがある。ロッキーロードは、強力な相手を一頭決めたら最後、どこまでも追いかけてから一気に交わすという事。そして矢吹さんは、そんなロッキーロードとの相性が抜群であるという事。しかし前走の『スプリングステークス』では、全くそのような雰囲気は感じられなかった。相手がローレル意外だったのか。それともそれ以外の理由があったのかだろうか。
「先に言っとく、あいつにだけは気い付けとけよ」
ふと風早さんが私に向かってそう言った。
「肝に銘じておきます」
私は風早さんにそう答える。
「じゃあ、またな、早乙女。俺もお前には負けへんからな」
風早さんは私にそう言って、ローレルの傍から少しずつ離れていった。
「ええ、いいレースにしましょう」
私は風早さんにそう返事をする。直後、スターターがスタート台に向かって行くのが見えた。
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