5-17

「いやあ、ほんまに見事やった。風花ちゃん、ありがとう。ほんまにありがとう」

 口取り式からの帰り道、加古川社長は私にそう言った。検量室前で、カコノローレルを囲むように加古川社長、私、それから馬場先生が立ち、ローレルの左隣にはリードを持った優介さんが立っている。

「いえ、私はローレルに勝たせてもらっただけです。勝ったのはローレルの実力あってこそですよ」

 私は加古川社長にそう答える。

「いやいや、風花ちゃんが乗ってくれへんかったら、ローレルもここまで強い馬にならんかったで」

 加古川社長は私にそう言った。

「勿体無い程のお言葉、感謝致します」

 私は加古川社長に、小さく礼をしながらそう答える。

「確かに、『皐月賞』を制する事が出来たのは大きな一歩と言えるでしょう。しかし大きな一歩ではあっても、それはまだ通過点でしかありませんよ。私達にはまだ、超えるべき大きな壁が残っていますから」

 馬場先生は加古川社長にそう言った。

「先生、ローレルの次走がもう決まったんですか」

 優介さんは馬場先生にそう尋ねた。

「ああ。加古川社長からも『それで行こう』と言われている」

 馬場先生は優介さんにそう答えた。

「もしかして、『日本ダービー』ですか」

 私はふと馬場先生にそう尋ねた。

「へ」

 優介さんはそう言って、驚きながら私の方に振り向いた。

「その通りだ。休み明けの火曜日から、『日本ダービー』に向けてローレルの調整を行う」

 馬場先生は私と優介さんに向かってそう言った。

「折角ここまで来たんや。夢を見なけりゃ競馬やないやろ」

 加古川社長は私と優介さんにそう言った。

「その為にも、まずは目の前の事から集中していかなければならない。そしてそれは今日、この瞬間からだ」

 馬場先生は私達に向かってそう言った。

「はい」

 私と優介さんは馬場先生にそう返事をする。

「よかろう。では風花は検量室で準備をして来い。そろそろ次のレースが始まる時間だ。優介はそのままローレルを厩舎まで返すように。俺は大野おおの社長に挨拶して来る」

 馬場先生は私と優介さんにそれぞれそう言った。

「はい」

 私と優介さんは同時に返事をする。馬場先生は、私が次のレースで騎乗するダイヤンスパークルの馬主のところへ向かうつもりだ。

「ほな、俺もそろそろお暇するで」

 加古川社長は私たちにそう言った。そして社長は私の方に振り向き、にこにことした表情になる。

「頑張ってな、風花ちゃん」

 加古川社長は私にそう言った。

「はい。ありがとうございます」

 私は加古川社長にそう返事をする。そして私は小さく礼をしてから検量室の中へと向かった。

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