5-10
「二〇〇メートルの通過タイムが十一秒六か」
馬場先生は、先程終えたばかりのローレルの調教記録を見ながらそう呟いた。私と平坂先輩は、本日分の全ての調教を終えた後に馬場先生に調教スタンドに呼び出された。そして私と平坂先輩は、馬場先生の向かい側に座り、次走の打ち合わせを行っている。
「確か、ローレルは今回先頭ではなく番手を走らせる追切でしたよね」
平坂先輩が馬場先生にそう尋ねた。
「ああ」
馬場先生が平坂先輩にそう答えた。
「それでここまで速く走れるのか」
平坂先輩はそう呟いた。
「確かにいい動きだ。先頭を交わす位置もタイミングも悪くない。走り終わったローレルも、まだ体力に余裕があるように見える。だが、これではまだ本番には不向きだな」
馬場先生は私たち二人を見ながらそう言った。
「どうしてです」
平坂先輩は馬場先生にそう尋ねた。
「直線の伸びが甘い。実際のレースでは、最後の直線で先頭に立てればいいという訳ではない。先頭になった上で、他の猛追を振り切りながら、ゴール直前の坂を登る必要がある。それは
馬場先生は、平坂先輩に答えるように、私たち二人に向かってそう言った。
「どこまでやれば、番手での出走を認めてくれますか」
私はふと、馬場先生にそう尋ねる。
「それを自分で考えてこそ、一流の騎手というものだ。だがそうだな、番手で十一秒五を切るようになったら、考えてやらんでもない」
馬場先生は私にそう答えた。
「解りました」
私は馬場先生にそう返事をする。
「それから風花、念の為に言っておこう。迷ったら、馬が信じる自分を信じろ」
馬場先生は私にそう言った。
「肝に銘じておきます」
私は馬場先生にそう返事をする。
「よかろう。では次はモーターの追切に関してだ。光輝」
馬場先生はそう言って、平坂先輩の方に向き直った。
「はい」
平坂先輩は馬場先生にそう返事をした。一流になるために、私が出来る事。私はその事に気を取られてしまったせいか、その後の打ち合わせの内容を、殆ど覚えていなかった。
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