3-10
「お知らせいたします。東京競馬第十一レースは、5番ジャックジャッカル、及び11番イコマエクスプレスの馬体検査を行うため、発走時刻が遅れます。発走まで、もうしばらくお待ちください」
そんなアナウンスが、東京競馬場の場内に響いた。パドックで周回していた時以上のどよめきが起こる。そんな中、僕はロッキーを第二コーナー付近の待避所まで走らせていた。
本馬場入場を終え、それぞれが返し馬をしようとした時にそれは起こった。
突然、イコマエクスプレスがまた嘶いたかと思うと、今度は後ろ脚だけで立ち上がりながら、斜行するように斜めに飛び上がった。
その影響で騎手が一回飛び降りると、空馬になったイコマエクスプレスは、卓馬さんが騎乗するジャックジャッカルに後ろから突進。
ジャックジャッカルは自分の身を守るために、後ろ脚でイコマエクスプレスを蹴り上げるような態勢になった。
その時、卓馬さんがその勢いにこらえきれず落馬。
同じく空馬になったジャックジャッカルは、イコマエクスプレスから逃げるように、スタートとは反対方向へと逃げてしまった。
それをイコマエクスプレスが追いかけるのかと思いきや、今度はロッキーの方へと全速で突進してきた。
それをかわすために、僕はイコマエクスプレスとの間合いを見て、ロッキーをその場で小さく一回転させる。
そしてもう一度、イコマエクスプレスがロッキーに近付いてくる。
避ける間合いを見極めるために僕が睨みを利かせていると、突然、ロッキーの目の前でイコマエクスプレスが急停止した。
そしてそのまま、何事もなかったかのごとく歩き去っていく。
その途中で、イコマエクスプレスは係員にリードで捕獲されていた。
これが事の顛末だった。
騎手や係員でもどうすることも出来ない混乱を引きずったまま、とりあえずはレースに向けての準備が行われるようだった。しかし、これに巻き込まれたロッキーも、そして他の馬たちのことも少し心配だ。ロッキーも冷静とはいえ、驚かなかったわけではない。今回は重賞制覇を狙いに来たけれど、今回のこの混乱なら、最後まで走り切れればそれでいい。
でも、何でイコマエクスプレスはあの時、ロッキーの前で急に冷静になったのだろうか。
そんなことを思いながら、待避所でロッキーを周回させながら歩かせていると、突然、場内放送のチャイムが流れた。
「お知らせいたします。東京競馬第十一レースの、5番ジャックジャッカル、及び11番イコマエクスプレスの馬体検査を行ったところ、異常が確認されませんでした。よって、5番ジャックジャッカル、及び11番イコマエクスプレスは、予定通り発走いたします。また発走時刻は、十分遅れて、十五時五十五分といたします」
良かった。
僕は思わずほっと息をつく。でも、そう思えたのも束の間のことだった。
「なお、5番ジャックジャッカルは、落馬の際、騎手に身体の異常を確認したため、急遽、
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