希望と失望
7月8日の金曜日、金田が来る日。杏梨は仕事を定時で終わらせて、家にいた。万が一食べるかもしれない料理はたんまりと作って冷蔵庫に入れてある。
お風呂に入って、お風呂上りに良い匂いのボディクリームを丁寧に塗り込む。お化粧は見た目には少しだけ、でもかなり時間をかけたすっぴん風メイク。部屋着は少しゆったりとしている柔らかい素材のワンピース。
金田は【少しだけなら寄れるかもしれない】と言っていたのだ。来てくれても短い時間しか会えないだろうし、来れないかもしれない。それでも、杏梨は希望を捨てきれずにいた。金田が自分を求めてくれて、寄りを戻せるかもと。
最後に会ったのは5月3日のたこパをした日。もう2ヶ月もあっていない。新しい髪型も金田は見たことがないし、髪を切ったことさえ知らない。
最近は前よりも男の人からのアプローチが増えた。1人で出掛けることが多くなったからかもしれないが、「生き生きしていて楽しそうだったから、つい声を掛けたくなった」など、容姿ではないところを褒められる事も増えたのだ。そんな自分を金田に見てもらいたい。
19時、金田から連絡はない。
20時、来れないという連絡もない。来れそうにないのであればこのくらいの時間には連絡をくれる筈だ。
21時、もうすぐ行けるよという連絡が来ない。
7/8 22:38
金田:
連絡できなくてすまない。今日は行けない。
寂しさが胸の奥から込み上げて来て、涙に変わって落ちていく。
寂しい寂しい寂しい会いたい会いたい会いたい
かなり楽しみにしていた分、突き落とされた孤独の海は深かった。直ぐには返信出来ない程に。
折角頑張った化粧が全部落ちてしまったのではないかと思える位泣いた後、杏梨はメッセージを打った。
7/8 23:04
岡野杏梨:
お仕事遅くまでお疲れ様です。
待てるだけで嬉しいから、また来れそうな日があれば教えてもらえますか? また来れなくてもいいので、良ければ待たせてください。仕事を頑張ってる金田さんが大好きです。
7/8 23:11
金田:
保証はしないが、来週の金曜日なら
7/8 23:14
岡野杏梨:
ありがとうございます!これで1週間頑張れます。金田さん、無理して来ないで下さいね。お仕事第一で大丈夫です。大好き。おやすみなさい。
本音は寂しかった。今度こそ絶対に来て欲しかった。でも、そんなこと言わない。
樹も必死に『寂しい』を我慢しているのだから。
その後、同じやりとりは2回繰り返されて、杏梨は心がその都度磨り減っていくのを感じた。でも、他で寂しさを満たそうとは思わない。期待できて楽しかった思い出を糧に、寂しさをプラスに還元して何とかメッセージを打つ。
【ごめん。杏梨が良くても俺が嫌だから次の約束はしない。】
そうメッセージが来たときの絶望は深くて、その日は返信出来なかった。
次の打つ手はもう1人じゃ考えられない。
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