吸い取った勇気と打つ手 7月23日
7月8日、15日、22日金田に会えなかった。
22日の最後の金田のメッセージにはどうしたらいいのかわからなくてまだ返信していない。
7月23日夕方、【美味しいお酒があるから、飲みに来ないか?】とメッセージをくれたそうたは、家に行くとお酒の味なんてわからないくらいに酔って、珍しく愚痴を言った。直接会うのはお土産を貰いに来てくれたとき以来だ。そのときは玄関で話してすぐ帰っていった。
そうたが好きな人と他の人が上手くいくようにたこパを開いて芝居したと聞いたときは、つい「馬鹿なの?」と言ってしまった。自分は仕事はともかく、金田が他の女性といるところなんて想像さえしたくない。それをわざわさくっつけようとするなんて、正気の沙汰とは思えない。何が彼をそうさせたのだろう。
たこパの写真を見せてもらったが、そこにはそうたから逃れそうとする不機嫌そうなイケメンとそのイケメンの肩を持って満面の笑みのそうた、そして、少し離れたところに困ったように微笑むかわいらしい女の子が映っていた。
この子がそうたの好きな子、少し前まで付き合っていた元彼女。そう思うと心の中に少しもやもやとした感情が浮かぶ。別にそうたには恋愛感情は持ってない。自分が好きなのは金田だ。
だが、無条件に自分を甘やかしてくれるそうたの優先順位では、この子が一番上かと思うと悔しかった。見た感じは小さくて癒し系の彼女は、自分と大分系統が異なっていて、いかにも『守ってあげたい女の子』で羨ましい。
しかも、そんな彼女はそうたの優しさを踏み台にして、このイケメンに今度は愛される。自分は好きな人に会うことさえも叶わないのに。その落差に勝手に嫉妬する。
べろべろに酔っ払ったそうたは、「寂しい」と呟いた。そう思うならそんなことはしなければ良かったのに、優しくて馬鹿な人。
そうたのことは人間として好きだ。悲しむところは見たくない。自分自身も寂しくてこの気持ちを紛らわせたい。だから、こんなこともできる。
タイで『覚悟と割り切り』を身に付けたから。
「っつ、あんり……」
唇を合わせるとそうたは抵抗しなかった。出来なかっただけかもしれない。彼の口からは寂しいお酒の味がした。
「そうた、私も寂しいからキスさせてね」
ケイに教わったキスは今まで杏梨がしてきたものより激しくて深い。脳みそも心も舐めて吸い尽くす。全部絡めとる。
「気持ちいい? 」
そうたが頷くのを見て杏梨の心は少しだけ満たされた。そっと手をとってベッドに移動してもそうたはついてきた。抱き締めてキスを繰り返す。彼の口からお酒の味が消えてもずっと。
ケイ以来の久しぶりの人肌は心地よさと勇気をくれた。
金田に2日遅れて送ったメッセージ。
7/24 9:05
岡野杏梨:
嫌な思いをさせてしまい本当にすみませんでした。金田さんが私の事を嫌いならもう連絡しません。
でも、もしも嫌いじゃないならまた連絡させてください。会えなくてもいいからまだ繋がっていたいです。
相手の好意が負担に感じることもある。金田にそんな思いはさせたくない。
7/24 11:09
金田:
嫌いになんてなる訳がない。
その短い返信が杏梨には何よりも嬉しかった。
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