第4話

 三回目の練習デートを終えて最寄り駅で翔斗と別れた結二は、家に着くなりベッドに倒れ込み考え事をしていた。

「翔斗ってあんなにカッコよかったっけ……」

 ベッドの上で右へ左へと忙しなく寝返りをうつ結二。

 翔斗と結二は二回目の練習デートで映画を観に行き、三回目はラウンドワンのスポッチャで一日遊んだ。

 翔斗は三回の練習デートでかなりデートに慣れ、普通に接するぶんには過度な緊張はなくなった。

 そして結二のアドバイスを受けそれを翔斗が直すことで、結果的にどんどん結二好みの男へと近づいていく。

 三回目の練習デートを終えたあと、結二はいつからか翔斗に対する恋心を抱いていたことを自覚した。

「翔斗……」

 名前を呼ぶだけで翔斗の笑顔がはっきりと思い浮かべられる結二。そしてその笑顔を今までとは比べ物にならないほどにカッコよく感じている。

 結二の中で翔斗が親友から想い人へと変わった何よりの証拠だった。


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 四回目の練習デートは二学期末のテスト後、七月中頃に決行となった。

 場所は大型ショッピングモール。特に目的のお店を決めているわけではなく、その場で行きたいところに寄るというデートプラン。

 これまでの積み重ねがなかったら緊張で会話が進まずデートどころではないプランだが、翔斗は結二を待ちながら練習デートの効果を実感していた。

 それと同時に、翔斗は練習デートをする中で親友としての結二とデートをしている時の結二とのギャップに惹かれ始めていた。

 しかし、この気持ちは隠さなくてはいけないだろう。

 善意で翔斗のために協力してくれている結二に余計な感情を向けるのは恩知らずだ。

 それに、沙央のことを諦めるつもりはない。今は練習デートに集中しよう、翔斗はそう考えて心を落ち着ける。

「おはよ♪」

 翔斗が心を落ち着かせてすぐ、すっかり慣れた感じの挨拶で結二が到着した。

 今日は夏休み前ということもあり、白のリブニットにミント色のフレアスカートを合わせたフェミニンで涼し気な服装の結二。

「行こっ?」

 いつもなら服の感想を聞いてくる結二だが、今日は何やら、前髪を気にする仕草が多くソワソワとしている。

「体調でも悪いのか?」

「? 元気だよ?」

 結二は「なんで?」と首を傾げている。

 その様子に先ほどまでのソワソワとした感じはなく、もしかするとテストが終わって間もないため早く遊びたいのかもしれない。そう思い直した翔斗は「ごめん、なんでもない」と言って結二と二人で歩き出した。

 遊びたいのならと、翔斗が一番最初に選んだのはショッピングモールの二階にあるゲームセンター。

 翔斗と結二はよくテスト後のストレス発散でカラオケやゲームセンターに行くため、実は翔斗もどこかしらのタイミングで行きたいと思っていたのだ。

 ゲームセンターに着いた翔斗たちは、まずはぐるっと一周してどんな台があるかを見て回る。

「あ、これやろうよ」

 二周目に入り結二が指をさして言ったのは、バスケットボールをシュートして一分間にどれだけゴールに決められるかを競うゲーム。一台で順番にプレイして競うのも良いが、この店舗では二台並んでいるため同時にやることに。

「勝ったらなんでも一つ言うこと聞いてね」

「良いけど……なんでも?」

「うん。なんでも。」

 一瞬『なんでも』の内容を考え、すぐに「いや、なんでもは無理だろ」と思う翔斗だが、結二が有無を言わせないうちにゲームを始めてしまったため、翔斗も十秒ほど遅れて慌ててスタートさせた。

 シュッ、ガコン、シュッ、パサッ。

 時間制限があるため連続でどんどんとシュートを打っていく二人。

「よっ、ふんっ、ぬ!」

「変な掛け声出てるよ」

「集中してるから、ねっ、と!」

 結二は変な掛け声を出しながらぴょんぴょんと跳ねてシュートを打っている。

 結二はカートレースのゲームでも、カーブで体ごと倒す派。「その方が速いから」と、いつも自信満々に言っているが、急カーブでこてんと倒れた時はゲームに文句を言ったりしている。

「ふぅ、二十四本。まあまあかな〜」

 そうこうしているうちに結二は終了。

 翔斗は残り十秒で二十二本。あと三本決めれば翔斗の勝ちだ。

 翔斗が勝ちを確信した瞬間、

「翔斗、今日の服どうかな?」

「いま!?」

 結二が有り得ないタイミングで服の感想を聞いてきた。

 今はデート中、服の感想は言わなくてはいけないだろう。しかしだからと言って、こんな時に……。

「前髪も美容院で整えてもらったんだ~。どうかな〜?」

 翔斗は「ちょっと待って!」と言いながら必死にシュートを打ち続けるが、結二がその場でクルっと回ったり、「じ〜〜」っと見つめてきたりするせいで全く集中できない。

 そんな翔斗のシュートはリングにガコンガコンと当たるものの、ゴールに嫌われ入る気配はゼロ。

「さーん、にーい、いーち、終わり〜!」

 結局翔斗はラスト十秒で一本しか決めることができず、まさかの負け。

 ボールや翔斗に直接触れたわけではないため、完全にズルい手とは言えず、グレーゾーンを突いた結二の作戦勝ちだ。

「はい、私の勝ちね♪」

「……楽しそうでなにより。それで、俺は何をすれば? なんでもって言ってたけど、さすがになんでもはちょっと……」

 結二が常識から外れた命令をするとは思わないが、常識から外れた『練習デート』を考えたのは結二であるため少し不安要素が残る。

 小物を買う、お昼を奢るぐらいであってくれと願う翔斗。

「じゃあ、これから一日、手を繋いで回ろっか♪」

「お断りします」

「だーめっ」

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