レポート50:「炎の玉」

「炎の玉」



ファイアーボール。


それはRPGとかの魔法技では初級のモノ。

そしてすごくわかりやすいものだ。

炎の玉を相手にぶつける。

単純でそして威力があるとわかる。


具体的にいうなれば、ドラゴンクエス○でいうとメ○、ファイナルファンタ○ーでいうとファイ○。


しかして、それは魔法という地球の人からみれば未知の技。

その習得には果てのない修行、つまり努力の積み重ねが必要でそう簡単に習得できるとは思っていなかったのだが……。


習得方法:炎を思い浮かべよ。球体を思い浮かべよ。それを浮かばせ目標にぶつけることを思い浮かべよ。さすれば発動する。声に出すと意識が集中しやすいだろう。


あまりにも単純で豪快な説明に意識が暗転しそうになるが辛うじてこらえる。


「いや、魔力感知もこんな感じだったから予想はしていたがな」


そう、魔力感知についても同じぐらいの説明のようで説明になっていない習得方法だった。


「豪快というか、適当というか……」


葵ちゃんも同じ気持ちなのか、苦笑いしている。


「……カカリアはこれで覚えられたということですよね?」


椿はカカリアに確かめるように聞くと。


「うん。できたよ」

「「「……」」」


できたという言葉に何も返すことができなかった。

いや、どれだけ言葉を積み重ねられても理解できるかといわれると違うだろうが、これは違うと思ってしまう。

人って難しい、ワガママだなと思っている。

だが、こうしていても仕方がない。


「とりあえず、やってみるか」

「ですね。やりましょう」

「やるしかありませんね」

「がんばれー」


カカリアの軽い応援を受けて、俺たちはとりあえずファイアーボールの習得を始める。

一応場所は訓練場、具体的に言うのであれば学校のグラウンドのような場所だ。

そこで……。


「ふぁ、ふぁいあーぼーる」

「ふぁいあーぼーる」

「ファイアーボール」


俺と葵ちゃんは恥ずかしく、へにゃへにゃな掛け声になったが、椿はしっかりと発音していて……。


ボッ。


そんな音を立てて、椿の手のひらから炎の玉が出て奥にある目標の案山子に飛んでいく。


「「「おー」」」


カカリアも含めて俺たちは驚きつつ拍手をする。


「で、何が違ったんだ?」

「発音でしょうか? 恥ずかしがっちゃったし」

「いやいや、2人とも意識してなかったでしょ?」


と、椿からではなくカカリアからツッコミが入った。


「意識?」

「どういうことですか?」

「魔力感知使ってみてたけどさ。特に手のひらの先に魔力が集まってなかったよ。ただ言っただけ。椿はちゃんと意識して魔力を集めて言ってたからイメージに魔力が反応したんじゃないかな」

「「あー」」


確かにその通りだ、どこの中二病だよと思って意識どころじゃなかった。


「あーじゃないです。ちゃんとやってください」

「「ごめんなさい」」


椿に叱られて即座に謝る。

仕事における安全確認の声掛けは恥ずかしいことではない。

当然のことだ。

仕事を覚えない方が恥ずかしいのだ。

俺はそう心で言い聞かせて、今度はちゃんと魔力を意識して……。


「ファイアーボール」


そういうと、椿と同じように火球がでて、案山子にぶつかった。

出来るのかよ……。

びっくりはしたが、こんな簡単でいいのかと困惑気味だ。


「おー。裕也もできたね。あとは葵ちゃんだね」

「わ、わかりました」


そして葵ちゃんにかかるプレッシャーは大きくなってしまったことに気がついた。

椿、俺と簡単にやってしまったのだ。

これで葵ちゃんができないのは、相対的に見て葵ちゃんに問題があると考えるだろう。

とはいえ、出来なくても俺は攻めるような真似はしないが。

そんなことを考えつつ、葵ちゃんの姿をカカリアが言ったように魔力感知を発動しながら見てみる。


「い、行きます」


葵ちゃんの宣言から、体内魔力が動いていて手先……じゃなくて、手から離れた空間に集まっているのが分かる。


「ファ、ファイアーボール!」


なんかやけくそ気味に言っている気がするが、ちゃんと魔力は集まっているので成功するだろうと思っていると……。


ドンッ! 


あれ? 効果音が違う、というかサイズが違う。

俺と椿のサイズがサッカーボールぐらいだったんだが、3倍ぐらいは大きい。

あれだな、バランスボールぐらい?

そして、発射速度も俺と椿の倍以上の速さで飛んでいって……。


ズドーン!!


案山子を燃やすだけじゃなくて、根元から吹き飛ばした。

燃やすだけじゃなくて爆風も追加されているようだ。

煙が晴れた場所を見てみれば、かなり窪んでいる。

爆心地というべき状態だ。


「ほー、2人に比べて魔力を多めに込めていたと思ったけど、こんな火力になるんだ」

「そうみたいですね」


カカリアと椿は特に驚くこともなく爆心地に近づいていく。


「あ、あわ、あわわわ……」


そして葵ちゃんは自分から出た魔術の威力に驚いてわなわな震えている。

まあ、手からミサイルが出たようなもんだからな。

自分が遊び半分とは言わないが、そこまで危険意識のなかったものがここまでの威力を発揮して驚いているのだろう。

こういうフォローは一応上司である俺がするべきなんだろうな。

そう思いながら。


「葵ちゃん落ち着いて」

「で、でも……」

「魔術は確かに危険だが、その前に葵ちゃんの身体能力も危険だぞ」

「……」


葵ちゃんは「あっ」って感じになったかと思うと、すぐにジト目になって……。


「それ、慰めになってないですよ。私自身が全身凶器ってことですよね?」

「そうか? 人って気持ち次第だろ。棒を持って人を殴ればそれだけで人を殺せる」

「……まあ、確かに」

「未知の技術だからその分不安があるんだろうさ。体のことなら調整が効くっていうのは葵ちゃんはこの前体感しただろうし。魔術もこれから慣れていけばいい。多分、俺たちに負けないようにって気合を入れたのが問題だろうな」

「そう、なんですか?」

「カカリアが俺や椿より魔力を多く注ぎこんでいたって言ってた。つまり燃料を投入しすぎたんだろうな。あと、イメ―ジもあるだろうが。こうなったらやけくそだーって感じに見えたけどどう?」

「はい、恥ずかしくて、私だけできないのが悔しくて色々まざっちゃって……」


やっぱりか。

となると魔術はやはり感情に左右されるってことになる。

結構面倒なことだな。

いや、そうでもないのか?

感情を抑えて行動するなんてのは大人なら当然のことだ。

そんなことを考えていると、カカリアと椿がこちらにやって来た。


「いやー、魔力量のせいかな? それともイメージ?」

「普通に考えるならどちらもでしょう。必要に応じでコストがかかるのは当然ですし」

「爆心地どうだった? 放射能とか危険性はなかったか?」


俺は、とりあえず葵ちゃんが放った魔術の結果を聞くことにする。


「そういうのは無いよ。でも熱量はかなりあったみたいで今でも何も対処なしじゃ近寄れないね」

「そうですね。魔術による炎というのは保温性も高いようです。あと、爆発したのはイメージなんですか?」

「え? いや、その、やけくそな感じで……」

「なるほどねー。まあ、ほかのみんなができたし、焦ったって感じかな」

「明確なイメージがなくてもああいう風になるというのは面白いですね。今日はほかの魔術を覚えるのは後回しにして、応用ができないか試してみましょうか」


応用ね。

言っているとことは分かるけど……。


「例えば?」

「んー。とりあえず、葵ちゃんがやってたボールの肥大化、大きくするとか、槍みたいにするとかどう?」

「鉄板の技って感じだな。でも、それしかないか」

「わかりました。やってみましょう」


ということで、俺たちはファイアーボールをイメージでどこまで変化できるかを試すことになった。


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