レポート47:「拠点について」
「拠点について」
ソノウの町から魔術の道具一式を買いそろえて戻ってきた俺たちはさっそく行動を開始する。
セージは新しい魔術の習得。
カカリアは魔力感知の習得。
俺は現状維持なので椿と葵ちゃんに協力して、拠点の家具配置や畑の今後の育成計画の見直しだ。
葵ちゃんのおかげで茂木さんという農業関係の知り合いはできたから、そこから色々苗を仕入れることを考えないといけない。
「椿、ただいま」
「あ、お帰りなさい。早かったですね」
「意外と道具があっさり買えたんだよ」
「それはよかった。で、セージとカカリアが見当たりませんが?」
「ああ、あの二人はさっそく魔術の習得を始めた。俺は手を出せないから椿と葵ちゃんの手伝いってわけ」
「なるほど。ですが二人とも一声ぐらいかければいいのに」
「それだけ気になっているんだろうさ。それで、拠点の方についてはどうなっている?」
「はい。それですが……」
俺は椿と話ながら居間に戻ると、ミニチュア3Dモデルが展開されていて、色々家具を設置している感じだ。
「カタログから選べるって聞いてたが、しっかりしてるな」
どの家具も安物ではなくちゃんと手の込んだものに見える。
「それはもう。これからそれなりに過ごすことが多くなる場所ですからね。そこらへんはしっかりしますよ」
「確かにそうか」
居心地の悪い拠点なんて嫌だしな。
そこであることに気がつく。
「そういえば、この拠点ってあの惑星の人に開放することってあるのか?」
確かいずれ交流をする可能性はあるという話は聞いていた。
だからそういう場所がいるのではと思ってのことだ。
だが、椿は首を傾げつつ。
「どうでしょう? 裕也さんが招くというのであればあるでしょうが、基本的にここは拠点は拠点ですけど、研究拠点ですからね。人を迎え入れるのであれば、もうちょっとあの惑星に合わせた拠点を用意してもいいかと思いますよ」
「ああ、そうか。別に複数拠点を作ってもいいわけか」
「はい。元々の文化が違いすぎますし、技術力も違います。そんな人たちをいきなり私たちの所へ連れてくると混乱することは必至でしょう。まあ、基礎的な知識がある程度修学できているのであれば大丈夫でしょうが……」
「学校すらなさそうだからな」
「はい。あの町だけなのかは知りませんが、子供たちが学ぶ場所というのは今のところないですね」
つまり、俺たちの文明を受け入れられるだけの下地がないから、こっちの拠点に連れてくると大混乱を起こすということだろう。
「とはいえ、知識がないからこそ受け入れそうな気もするけどな。ほら、現代科学を信奉しているからこそ、頑なになることってあるだろう? 心霊現象はないってさ」
そう、今の技術が絶対ではないのだ。
ただ証明されていないだけなのだが、それを逆手にとって絶対にありえないという人もいる。
それはきっとあっちの世界も同じだろう。
「確かに、そういうこともあるとは思いますが、環境ががらりと変わるのです。そこのストレスを考えると受け入れやすい環境を作る方がいいとは思います」
「そうだよな。それが大事だよな」
運良く受け入れてもらうよりは、受け入れやすい体制を整える方がいい。
とはいえ、こっちに慣れさせる準備もいるけど……。
「ま、先の話か」
「そうですね。そういう場所はまだ先の話です。とりあえず、この拠点をちゃんと充実させるか」
「はい」
ということで、統一しておく家具を決めて、部屋の備品を決めていく。
畑の苗に関しては葵ちゃんが来てから詳しく話を詰めようということになったのだが、そこでちょっと誤解があった。
「あとは葵ちゃんと相談してどんな苗を買って持っていくかだな」
「苗に関しては、宇宙船でコピーしたものを使います」
「え? それって駄目じゃないのか?」
「自然商品とはいえないだけで、ダメではないです。むしろ別の惑星で育つかわからないのに、本物を枯らしてしまうことが問題かと」
「ああ、そういうことか」
確かに、一応土壌のデータとかとって限りなく環境は近づける気で入るが、俺たちが把握していない要因で枯れる可能性だって十分にある。
特に魔物とかだ。
そうなれば、苗を全滅させることになる。
俺たちを信頼して売ってくれた茂木さんには申し訳ないし、実際に育てている場所を見せるわけにもいかないからちょっと問題になる。
つまり、そういうことを考えると宇宙船でのコピー機能で作った苗で試すのが一番というわけだ。
とまあ、そんなことを相談しているうちに葵ちゃんがやってきた。
俺たちは朝からいままでのことを説明して……。
「あー、なるほど。確かにうかつに大量に買って植えていないとかまずいですね」
意外に葵ちゃんは買った苗をこちらで植えないことに難しい顔をしていた。
理由としては俺と同じように信頼して売ってくれていた茂木さんのこともあるんだが……。
「こういう田舎って周りの視線がありますからね。大量に買ったのに他所にもっていくっていうのは、あまりよろしくないんですよ。他国に作物の種とか持っていくのも禁止ですし」
「あー、生産者を守るってやつか」
「はい。私たちがやろうとしていることはそれとあまり変わりはありませんから。でも、宇宙だしグレーゾーンではあるんですけど、明らかにたくさん買ったのに行方が知らないなんてうわさが流れると……」
「私たちの信用問題や今後の活動にも支障がでそうですね」
記憶を消せばなんてことは言わない。
まあ、礼儀の問題でもあるからな。
だが……。
「じゃあ、向こうの惑星で育てる場合はコピー苗でしかないってことか?」
「いえ、普通にこっちで作った作物から苗を作ったらいいんですよ」
「あ、そうか」
葵ちゃんは迷いなくそういった。
すっかり失念していた。
そうだ、作物ができたらすべて消費するわけじゃない。
それを種として育てればいいか。
って……。
「種をどこかのホームセンターで買ってもいいのか」
「ええ。そういうのも手ですね。まあ、割高だとは思いますけど。そっちならあとは追われないと思います。大量販売前提ですから」
「だよな。というかホームセンターで種買ってきて植えるっていうのも手か」
「普通にリンゴの木とか、ぶどうの木そういうのも売ってますね」
「あ、そういうのって植えているだけでいいよな」
「いえ、ちゃんと手入れしないとだめですよ。でも、実がなるのは数年後だと思います。若木ですからね」
なるほどな。
確かに売ってはいるんだが、ちゃんと育つまでは時間が掛かるってことか。
そういう手間を省けるのが農協関連ってことなんだろう。
農家から譲ってもらうとかそういう交渉も含めてやってくれるからありがたいんだろうな。
「そう簡単にはいかないのが農業ですね」
「そうです。大地との戦いです。まずは土づくりからですから。と、私の部屋ってここでいいんですか?」
「ああ、そこは自由にしていい。まあ、いつ実際に行けるかはわからないけど」
「そういえば、セージさんとカカリアは?」
「2人は今魔術の取得していてるはずです。今朝予定通り裕也さんたちがソノウの町にいって魔術道具関連を買ってきましたから」
「一応順調なんですか?」
そう首を傾げて聞いてくる葵ちゃんだが、俺もそれには首を傾げざるを得ない。
何せ、俺も魔術にかんしては完全にノータッチなのだ。
一応昨日はセージがそこまで問題ないとは言っていたが、カカリアもすぐに習得できるからは不明だ。
「本人たちに聞いてみないとな。俺もその手の道具はさっぱり手を出してないし」
「あの人形もあまり触ってないんですか?」
「ああ」
視線は床の間に置かれている人形に集まる。
「軽く埃を払っているぐらいですね。動くのは見ていますし、埃まみれなのはかわいそうですし」
「椿さん優しいですね」
あのワープしてきた人形のお世話は基本的に椿が行っている。
俺も見ることはあるが、特に動きはない。
「はぁー、じゃあ、この家のお掃除も待ったってことですよね」
「そうだな。また変なのが出てこないとも限らないし、セージとカカリアが上手く魔力関係を解明してくれるといいんだけど……」
そう思っていると……。
「そうね。意外と待つのは短いかもしれないわよ」
「おまたせー」
そう言ってセージとカカリアが居間に入って来た。
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