レポート44:「拠点の設計」
「拠点の設計」
拠点を作るということを決めて、俺たちは早速行動を開始した。
具体的に言うと、ソノウの町からの移動だ。
ドスアンさんや、キアオさん、エイサさんに自分たちが飛んできた場所を調べに戻るといって、宿を引き払った。
怪しくないように、食料品は必需品などの買い込みはした。
もちろん、みんな無理はするなと言ってくれたので、頷いてはおいた。
町を出てからは見えない距離まで走ったあと、宇宙船に回収してもらって、そのまま拠点地点にすぐに飛ばしてもらう。
便利だよな~と思いつつ、予定地を簡単に確認した後、また宇宙船にもどり地形データを読み取った3D空中投影モデルを利用して、ミニチュアを置く感覚で建物を決めていったのだが……。
「意外と大きくないか?」
「拠点って言っても生活するだけじゃないからこんなもんじゃない?」
「そうですね。畑とかも必要ですし、拡張することも考えないといけないです」
そう、俺は生活拠点だけだと思っていたが、作物生産や研究場所もあるので、大体学校ぐらいの広さになっているのだ。
建物も4階建て。
本当に学校のような装いになっている。
コンクリートっぽいつくりなので丈夫なのは間違いないと言い切れるし、その外周を高い壁を覆っているので、何かが登ってくることは……ないのか?
「この壁で大丈夫なのか? あのソードニードルリザードだっけ? あれだと壁に刺して上ってきそうだけど……」
「ああ、それは大丈夫よ。壁に沿ってさらに上空に円形状のエネルギーフィールド、バリアーが張ってあるから、入ってこれないようになっていると」
セージがそういうと、壁の上にさらに透明の壁みたいなのが出てきて、拠点を半球状に覆った。
なるほど、そういうシステムか。
まあ、あんな怪物がいるんだからこれぐらいは当然か。
そう納得して拠点の映像を眺めていると、今まで沈黙していたカカリアがようやく口を開いた。
「あのさ、この端っこのテントって本気?」
彼女が言う視線の先には、ちゃんとした建物の中、畑の中にあるビニールハウスの隣に希望通りのテントが立っているのが見える。
「本気も何も、そっちの希望でしょ?」
「ええ。言ってましたよね。キャンプしたいって」
俺はこのテントの設置には関わっていない。
流石に意地悪だろうと思っていたのがだ、2人は意外と真面目に言っているように見える。
「大自然の中でのテントがいいの。横に構造物があってテントが立てるとか、駄目じゃん!」
「でも、そういうテントを立てていい場所って普通に近くに調理場があって、管理小屋があるわよね?」
「ええ。勝手にテントを立てるのは駄目なんですよ」
「いや、それ日本の話でしょ?」
確かに、カカリアの言うように日本の話だよな。
外国のキャンプ動画とか適当に立てているし。
「ま、建物の中にカカリアの部屋あるんだし、気分転換の時に利用するってことで良いんじゃないか?」
「そうそう。別にそっちで過ごせって言ってるわけじゃないわ」
「はい。カカリアは好きな時にこっちで過ごしていいんですよ」
「だから、大自然の……」
「中よね」
「中ですね」
「ぬぐぐ……」
という、ひと悶着はありつつも、東京ドームぐらいの範囲を拠点として活用することになる。
まあ、実際建物があるのは5分の1程度で、外は畑と、訓練場所、宇宙船の離発着場所でしかない。
それでも建物は大きいんだけどな。
で、細部を決めていると……。
「おはようございま~す!」
と言って、葵ちゃんがやって来た。
意外と長く話し合っていたようだ。
「いらっしゃい。どう葵。問題はなさそう? 勉強も夜も」
「はい。どっちとも絶好調っていうのはおかしいのかな? 問題なしです」
「ならよかったです。葵ちゃんはコーヒーでよかったですよね?」
「はい。お願いします椿さん」
「ねえ、聞いてよ葵~」
「どうしたのカカリア?」
いつの間にか葵ちゃんとカカリアは呼び捨てにする仲になっている。
まあ、傍から見れば身長的にカカリアの方が妹に見られるからいいのか?
とはいえ、カカリアの名義は技術者という成人なので、小野田さんご両親の前ではちゃんと呼ばないと怒られるかもな。
そう考えている間に、葵ちゃんも拠点の建設計画に加わっていた。
「はぁ~。つまり、このミニチュアがそのまま作れるってことですか?」
「そうらしい」
「宇宙の技術ってすごいですね~」
「まあ、星間航行できるぐらいだしな」
葵ちゃんの反応を見て、これが普通なんだよな~と実感する。
地球の技術レベルだとびっくりってやつだ。
まさに、過ぎた技術は魔法と変わらないってやつだな。
「で、葵の希望とかはないかしら? 畑に関しては私は素人だし、そこら辺の意見が欲しいのよね」
「えーと、土地の広さについては問題ないです。私たちで育てるならこれぐらいでいいと思いますけど、土壌についてはさっぱり」
「まあ、確かにそうだよな」
土があるからって作物が育つわけじゃない。
ちゃんと整った土壌があるからこそ美味しい作物ができる。
「あ、そういえば、土壌で思い出したんだけど、葵のお父さんとお母さんにご相談したいことがあるのよ」
「なにをでしょうか?」
「土壌、つまり土を採取させてほしいの。数値だけじゃないとは思うけど、数値だけでも似せることはできるからね、あと、作物を育てるときに気を付けていることとか。もちろん企業秘密な点はあると思うけど、教えていただけることがあればお願いしますって。もちろん謝礼もお支払するって言ってほしいの」
「わかりました」
「許可がもらえれば書面に残すから教えてね」
「はい」
あー、そうか。
最近は土壌の成分を調べて同じように整えるとかあるな。
そっか、よその惑星でも土を持ち込めば、あるいは調合すれば同じよなものが出来るかもしれないってことか。
そういう方法もあるんだな。
そう思っていると、今度は椿が葵ちゃんに話しかける。
「葵ちゃん。ほかには何か変更点や疑問点はありませんか?」
「そうですねぇ~。私が畑仕事を手伝っている時に思うのは、作物の保管場所が遠いことかな? いつも軽トラに積んで、保管庫で選別して、農協に運んでるからな~」
「あ、直売所とかじゃないのか」
「うーん、やっていることはやってるんだけど。そこはやっぱり少数なんだよね。個人で小さくやっているならともかく、販売ルートや機械のメンテとかそういう伝手があるから、家みたいに大量生産しているとことは多少安くても農協を頼るんだ」
なるほど。
やっぱりそういう集まりは集まりでメリットがあるわけだ。
とはいえ個人でやる分には直売所と契約をした方がいいっていうレベルか。
ん? ちょっとまてよ。
「なあ、俺たちが育てた野菜とかの引き取り基準とかは決まってるのか?」
「いえ、それはまだ決まってないわね。どの程度のものが出来るかもわかっていないんだし」
「あ、確かにそうか」
「ですが、地球のように選別などは宇宙船の機能でオートでできるので問題ありません。保管に関しても劣化を最低限抑える保管庫を近くに用意しましょう」
「そんなのあるんですか!」
「あるよ。そうでもしないと宇宙戦争の時とか食料の補給とか大変だしね。まあ、あの時は味のしないゼリーメインだったみたいだけど」
「味のしないゼリー?」
ああ、そういえば葵ちゃんはあの宇宙食を知らなかったな。
ということで、俺がいうまでもなくカカリアがすぐに用意して食べさせると……。
「?」
一度口を付けて首を傾げ、さらに口に含んで……。
「え、水ゼリー?」
「そうよ。それで水分も栄養も補給できる。素晴らしいでしょ?」
「そ、そんなわけないですよ!? 宇宙戦争で惑星ぶっ壊したあとこれを食べて生きてたんですか!?」
「データによると、凡そ300年は……」
「さっ!?」
「ああ、でも金額はかなり高くなりますが、ちゃんと育てた食物を食べる機会はあったようです。1年に一度ぐらいと」
「一年に一度!?」
葵ちゃんは水ゼリーをもってわなわなと震えている。
まあ、それだけ恐怖の食生活ってやつだよな。
「う、宇宙の食生活を絶対改善します!」
なにか葵ちゃんの中で決まったことがあったようで、高らかにそう宣言した。
いや、俺たちは地球の食品食べていいんだよ?
あ、宇宙にも美味しいものを誰にでも食べてほしいって?
うん、そういうのはいいと思うよ。
ということで、畑は増築も考えつつ、とりあえず今の規模のままで建築することになった。
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