レポート43:「育成計画と拠点」

「育成計画と拠点」



セージが戻ってきて俺たちに見てほしいものがあるといってきたが……。


「俺たちはいいけど、葵ちゃんは帰る時間だ」

「あらそう? ってもうこんな時間ね」

「あの~、私ならまだ大丈夫ですけど?」

「だめだよ。就業時間は守らないと。葵ちゃんのお父さんお母さんとの約束でもあるからね」

「はい。そこはきっちりしてください。ご心配をおかけしますし」

「む~。セージさんが面白いことするんですよね?」


まあ、あの登場をして我慢しろっていうのは酷かもしれないが、小野田さんたちとの約束を守らないわけにもいかない。

なので……。


「明日にする。それでいいだろう? 俺たちも仕事ばかりするつもりはないからな」

「そう? まあ、時間をかけて精度を上げるのもありね。葵ちゃんも心配しなくていいわよ」

「そうですか? なんか、わがまま言ってごめんなさい」

「いやいや、あれはセージが悪いって。気になって当然だよ」

「そうですね。みんなでこういうことはやるべきですし、安心してください」


ということで、葵ちゃんは納得して帰った。

まあ、露骨に仲間外れって感じだからな。


「うーん、悪いことをしたわね」

「セージにしては珍しいな。で、それなりの成果があったってことか、その子供の説明で」

「ええ。思った以上にできたわ。まあ、詳しいことは明日にしましょう。先に教えても葵ちゃんがすねるでしょうし」

「そうだな。頑張って精度を上げてくれ」

「ええ。練習させてもらうわ」


このセージの態度から魔力感知について上手くいったんだろうな。

となると、思いのほか葵ちゃんが惑星調査に行ける日は近いかもしれない。

が、そこで思い出した。


「そういえば、葵ちゃんの惑星調査の訓練って何するんだ?」

「そうですね。今まで得たデータからの複製で同じように戦闘訓練とか、ホログラムでの町の体験とかですね」

「まあ、それがいいよね」

「あー、そういうのもできるんだな」

「はい。それぐらいのシミュレーションはできます」


戦闘だけじゃなくて町の再現もできるのかよ。

いや、まあそれぐらいできるっていうSFドラマはあったけどさ。

本当に未来だなー。


「問題は葵ちゃんが魔物を殺せるかって所だよね」

「いえ、あの世界だと盗賊も出てくるでしょう。そこら辺の練習もしておかないといけませんね。裕也さんも」

「え、俺も?」

「はい。敵対した人を殺せるようになっておかないといけません。この日本とは治安も違えば道徳も違うのです。人の心を捨てろというわけではありませんが、生きるために必要なことです」

「……」


言われていることは分かる。

同じ人だから仲良くできるなんてのは幻想だ。

肌の色が違うだけでというか、日本国内にだっていじめでの自殺なんてのもあるし、強盗殺人なども普通にある。

敵とするべき相手に情けをかけるなってやつだ。

その方法が通報するか、自分でヤルかの違いでしかない。


まあ、精神的負担は自分でヤル方が重いが、それは避けて通れないだろう。

何せあの惑星の文明は地球で言う中世に近い。

つまり、強盗、野盗はもちろん、他国の軍が乱暴狼藉を働くのは当たり前なわけだ。

そこで日本の常識を訴えても唾を吐かれるに決まっている。

だから自分の身は自分で守るしかない。

所謂、自分の常識、世間の非常識ってやつだ。


「わかった」

「はい。流石裕也さんですね。決断が速い」

「でも、実際目の前にするとためらうかもね」

「そりゃするさ。無意味な殺しとかするわけがない。無力化できるならそうするからな」

「はい。無力化でいいときであれば構いません。ですが見せしめが必要な時もあります」

「うん。裕也には殺されないって思ったやつはそこを突いてくるからね」

「おう」


そう短く返すしかない。

甘さは自分に返ってくるってことだ。

だから椿やカカリアは厳しく言ってくるわけだ。

とはいえ、なんというかここまで言われてもやっぱりその時が来るまでは実感がわかないのも事実で、俺は特に深く考えることもなく、その日は普通に食事をして風呂に入って休むことになった。



そして翌朝、昨日葵ちゃんと一緒に作った畑の手入れをした後、本日はどうするのかということで、セージと話し合いになった。


「昨日セージが魔力感知の習得にいった後で話したことなんだが、惑星調査の件で、拠点を作った方がいいんじゃないかってことになってな。意見が欲しい」

「拠点? いきなり急な話ね?」

「別に急でもないよ。昨日魔力感知と魔力無効の粉を買いに行ったときドスアンさんからあっさりいなかったことがバレたじゃん。下手すると門の兵士からの出入りからでもわかりそうだし、もう嘘ついて宿にいるより、不帰の森の中にヒントを探しつつ拠点を設けているって言った方がよくないかって話」

「ああ、なるほど」

「私は実際現場に言ったわけではないですが、どうですか? 拠点ができれば合流できたとでもいいわけが出来そうですが」

「まあ、確かにそうよね。今のままじゃ椿や葵ちゃんを連れて行くときに町の知り合いになんて言えばいいか。下手に私たちを追ってきたって言ってもね」

「どう見ても長旅をしてきたようにふるまうのは無理がありますね。特に葵ちゃんは」


だな。

どう見ても初心者でしかない葵ちゃんが長旅をして俺たちを追いかけてきたっていうのは無理がある。


「とまあ、理由はこんなもんだ。建築とかは宇宙船の技術でできるとは聞いているけど、どれだけリソースがいるとかは聞いてないから、何とも言えないんだが、どう思う?」

「リソースに関しては問題ないわ。レプリケーターを利用しているから、宇宙の塵を集めて作ることもできるし、あの森から資材を確保して再形成すればいいだけだから。そして、拠点を作ることに関しては、私も賛成ね。まあ、最悪放棄しても構わないんだし。何より場所を森の中にするなら下手な干渉もないでしょう」

「やっぱりセージもそこは気にするんだな」

「ええ。だって、あんな文明なのよ? 下手に目立つところに拠点を作れば領地が欲しい連中はこぞってやってくるわ。蹴散らすのは簡単だけど、その分恨みも買うし、死体処置もしないといけない。さらに私たちを頼って人が集まる可能性もある。今の所あの地方で王様やろうって気分じゃないんでしょう?」

「全然」


あんなところといっては何だが、お山の大将をやって苦労を背負う気分にはなれない。

まあ、それだけで満たされるならともかく、俺は惑星調査をしたいんであって、あそこで王様をやりたいわけじゃない。


「まあ、着地点がそのまま拠点になるっていうのは無くもないけどね」

「そうなのか?」

「ベースキャンプを作る感覚よ。元々そこが人気がなくていいと思って選んだんだから、場所的には最適なのよ。まあ、地球のベースキャンプとは違うレベルで作るけどね」

「あんな魔物がいるところで布のテントだけとか俺も嫌だよ」

「でも、地球の人って狂暴な野生動物がいる場所でもテントよね?」

「あれは特殊な訓練を受けた人です」

「あはは~。でも、一度ぐらいはやってみたいかも」

「やめなさい。ああいうのは、野生動物だけじゃなくて虫も気にしないといけないから」

「ですね。卵を植え付けられて、自分で皮膚をえぐることになりますよ」


なんともまあ、椿のいうことはグロイが的確なことをいう。

じっさいジャングルで注意するべきは、猛獣よりも虫による病気や寄生ともいわれている。

気がつかない内にってやつだからだ。


「そこらへんはちゃんとバリア貼っておくから大丈夫だよ」

「何のためのテントですか」

「気分?」


カカリアの気持ちは分からなくもないが、無理にするようなことでもないな。


「まあ、カカリアの趣味は端っこにでも作っておくとして、内容を詳しく決めないとな」

「おーい」

「そうね」

「はい。何が必要でしょうか?」

「ねぇ、なんか僕をポイッとしていない?」

「まずは、居住区は必要だよな?」

「そうね。あとは実験場所とか、運動する場所もいるわね」

「防衛施設とかはどうしますか? 壁をしっかり立てますか?」

「うおーい! 無視するなぁ~!」


とまあ、こんな感じで、不帰の森の中に拠点を作る計画が進んでいくのであった。


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