レポート42:「畑の予定と家の話」
「畑の予定と家の話」
「うーん。正直、お話を聞く限りですけど、今はどの畑を作るっていうより、家庭菜園レベルで色々作って、佐藤さんに渡してどれがいいか決めてもらう方がよくないですか?」
学校を終えてやってきてくれた葵ちゃんに畑の展開を話すと、バッサリ切られてまずは需要を知った方がいいのではと意見がでた。
いや、聞けば当然のことだよな。
「何より、自分の家の畑ならともかく、こっちの畑の土壌はわかってないですからね。一度育ててみないと」
うん、聞けば聞くほど通りだ。
「農家は大地との戦いですからね」
両親が農家をやっている彼女の言葉は重みがある。
まあ、だからこそその農家から出た天才の彼女には良いところで勉強してほしいって気持ちがあるんだろうけどな。
「ひとまず、まだ夏に間に合う野菜は多いですし、ピーマン、キュウリ、枝豆、ミニトマト、シシトウ、オクラ……」
とまあ、葵ちゃんは指折り教えてくれるので、それをメモしてそのままその苗や種を買いに行くことにする。
幸い、この村には苗や種を販売している農協関連のお店があるとのことで、そこも葵ちゃんの案内で向かうことになり。
「おう、葵ちゃんじゃねえか」
「ども、おじさん」
「ん? 偉い別嬪さんたちつれてどうした?」
「あれ? おじさんしらない? この前この村にきた研究者のひとだよ。土壌変化での野菜の違いとかをしらべるんだってさ」
「ああ、そういえば園山さんからそんなこときいたなぁ。となるとだ。兄ちゃんがあの屋敷を買った野田さんかぁ」
「どうも初めまして。ご挨拶が遅れて申し訳ないです」
このお店の人とは顔を合わせたことがない。
一応村の人とは一通りあったと思ったけどな。
まあ、葵ちゃんとかあってない人もいるからそういう感じなんだろうとおもって挨拶をすると……。
「いやいや、おらぁとなり町からこっちに来ているから初めてで当然だよ。茂木っていうんだよろしくな」
「はい。よろしくお願いします。葵ちゃんがいない時も来るかもしれないのでその時はよろしくお願いします」
「おう。何でも聞いてくれ。これでも小野田さん家に負けないぐらいは畑仕事しているからな」
「それは心強い」
そう話をしていると……。
「おじさん。この苗を10個とあっちの……」
「おう、待ってな。じゃ、野田さんのところに会いそうなのを見繕ってやるか」
「お願いします」
ということで、茂木さんと葵ちゃんに選んでもらった苗を買って家に戻り、さっそく畑に植えることになる。
「パワーはあるから楽だよね。クワとか使うのって意外と疲れるんだよ、これなら楽ちんだ」
「実際はもっと大変なんだろうな」
葵ちゃんのいう苦労は体感していないが、意外とクワは重い。
これを使って広大な畑を耕すとか昔の人は本当に大変だったんだろうな。
俺たちは改造によってこれぐらいはなんてことはないが、それでも時間はかかる。
タダ穴を掘ればいいだけって話じゃないからな。
畑を耕して肥料を混ぜて、それから盛り付けたりする。
それを苗の分だけ、適正に作らないといけないから大変だ。
とはいえ、肥料の配分とかも葵ちゃんが教えてくれるから、自分たちで手探りをするよりは圧倒的に早く終わる。
「よし。今日はここまでだな」
「うん。切りよく全部終わった」
葵ちゃんの言う通り何とか日が暮れる前に全部の苗を植え終わった。
それだけ俺たちの力が上がっているということだ。
そして、葵ちゃんの仕事時間も終わり。
「じゃ、葵ちゃんお疲れ様」
「え? これで終わりですか?」
「ああ、仕事時間はあと10分で終了だからもう着替えていいよ」
普通は就業時間には着替えを含まないところが多いが、俺のところはしょせんバイトだしこういうのは甘くしている。
というか正規の雇用でもないからな。
バイトに甘くていいのだ。
「バイトってこういうモノなんですか?」
葵ちゃんはちょっと不思議そうに首をかしげている。
「いや、就業時間までちゃんと働かせるところもあれば、就業時間、契約時間過ぎても残業させるところもあるな。それも人それぞれってやつと同じで会社それぞれってやつだ」
「そういうものですか」
「ああ。そうでもなけりゃブラック企業とかないからな」
「あー確かに。でも、ネットで書かれているような仕事って本当にあるんですか?」
「それはある。誇張じゃない」
「うわー。でもなんでそんなところで働いている人ってやめないんですかね?」
「事情は人それぞれだけど、その仕事で生活している人はなかなかやめられないんだよ。次の就職先が見つかるかわからないし、貯蓄もない、時間もない。次を見つけるための余裕がないんだよ」
「……なんか詳しいですね? 裕也さんってブラック企業務めだったんですか? だからこっちに?」
「いや~。俺が働いていた会社はそういうブラックじゃなかったな。普通に定時だし、そこまでキツイノルマもなかった」
まあ、俺にとってはだが。
そのノルマをこなせなくてやめるやつもいる。
合うか合わないかって話だよな。
「じゃあ、なんでこの村に?」
「のんびりしたくなったんだよな。それ以上のことは分からない。気分ってやつだ」
「いいですかそんな適当で?」
「どうだろうな。適当だって怒る人もいるだろうし、それもいいんじゃないかって人もいる。無理をしてブラック企業で心をすり減らす人もいるよな」
「うーん。働くって難しいですね」
「自分に合うかどうかだからな」
働くっていうのは簡単でもあり、難しくもある。
「ま、こうして珍しい仕事に付けたからそれはいいことだと思っている」
「はい。それは私もそう思います」
宇宙に関わる仕事ができているんだからそれは間違いない。
生きていくために働くんじゃなく、自分が未知に挑むワクワクを補えるっていうのが楽しくてたまらない。
「あ、そういえば、私が異世界に行くのっていつになるんですか?」
「あーそれはちょっと今調整中だ」
「調整中ですか?」
「まだ訓練が終わったわけじゃないからな。今日は畑仕事を手伝ってもらったから進んでないけど、そこら辺の勉強をしてから、惑星調査をして貰うことになる」
「なんか色々あるんですね」
「ああ。ほら、それにあの人形と石の件もあるからな」
「そうでした。で、結局何が原因で石が見えたっていうのはわかったんですか?」
「それは今調べているところ。まあ、どれぐらい時間がかかるかはまだわからないけどな」
「それって、私がいつ異世界行くかわからないってことですか?」
「うーん。あまり時間がかかりすぎるなら別の手掛かりを求めてっていうのはあるだろうけどな。とりあえず今は待ってくれ」
俺はそういうしかない。
葵ちゃんは惑星調査に行きたいようだが、そう簡単に連れていくわけにもいかない状況なんだよね。
「わかりました。まあ、昨日の今日ですもんね」
「まあな。ああ、そういえば昨日は何もなかったんだよな?」
昨日は葵ちゃんに人形を触ってもらったのだ。
俺たちの監視上は何もなかったように見えたが……。
「はい。ぐっすり眠れましたよ。悪夢とかも見ることもなく」
「そうか。まあ、俺たちもそうだったしな」
「あの人形ってホントにいわくつきなんですか?」
「いや、いわくつきとかもない」
「え? どういうことですか? だって宇宙船からこの家までワープしてきたんですよね?」
「それは事実だけど、この人形に関することはさっぱりわかっていない。ただこの屋敷にあったってことぐらいだ」
そう、別にあの人形にまつわる怖い話や不思議な話があるわけではないのだ。
「葵ちゃんもこの屋敷についての話は何も知らないんだろう?」
「はい。普通に空き家になっているぐらいで」
「ねぇ、葵ちゃん。この家ってどれぐらい前から空き家になってたの?」
「えーと、詳しいことは知らないですけど、私が子供のころ。そうですね、確か小学生のころには人が出入りしているところは見たことがないです」
「葵ちゃんが子供のころっていうと7、8年は空き家だったってことか」
「それにしては埃は溜まっていませんでしたが?」
「ああ、それは俺がある程度簡単には掃除したからな」
「って、それおかしくない? 不動産屋から買ったんだよね? そこら辺の掃除ぐらいしておくもんじゃない?」
「まあ、安い理由が家具とか部屋の掃除はしないそのままでの引き渡しだったしな」
「「あやしー」」
と、声をそろえてカカリアと葵ちゃんは言う。
確かに言われてみるとおかしくは感じるが……。
「ただ単に掃除をする時間や片付ける時間と費用がなかっただけでは? ここを取り壊すにしても費用が掛かりますし、売れるとわからなければこういう家屋はそのままでキープになるのでは?」
「ああ、俺はそういわれたな。それが安く売れる理由とも。ついでに業者の紹介はされたけどな」
「ちゃんとそういうフォローはしてたんだ。まあ、関係者ではあるんだろうけど」
「どういうことですか?」
「そういう業者は後ろでつながって利益を分けるんだよ。ほかの業者に仕事を持っていかれるよりはましだしな。そういう伝手がない人もいるから、親切でもあるんだけどな」
「はぇ~、そういうもんなんですね。大人って大変だな~」
「待ってるだけじゃ仕事は来ないからな。とりに行くんだよ。って、そこはいいとして曰くとかも特に聞いてないからな。心理的瑕疵ありってわけでもないらしい」
「しんりてきかし? なんですかそれ?」
「所謂、事故物件ってことだ。人が死んでいるって話な」
「ああ、そういう言い方確かに聞いたことがあるような……」
事故物件って呼び方が浸透しているからな。
心理的瑕疵ってなんで現場での呼び方と一般的な呼び方が違うのかが不思議ではあるが。
と、そんな風に葵ちゃんを交えて雑談をしていると……。
「あら、全員揃っているわね。ちょうどいいわ」
そういってセージが現れたのであった。
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