レポート41:「調査開始と拠点について」
「調査開始と拠点について」
葵ちゃんがやってくるまであと3時間。
意外と町にいた時間が長かった。
あれだシスティルちゃんに見つかって少し雑談をすることになったのだ。
そのついでにドスアンさんにお礼も言っておいた。
どうやらレイナさんは魔術師ギルドでも上の立場らしく運がよかったなとのこと。
あと、興味がないことには無視を決め込むタイプなので、お眼鏡にかなったのだろうと。
うん、それは別の意味で危険な気がしたが、ああいう知的なタイプは知的好奇心を埋めるためにいるから、そこら辺を気を付けておこうということを心の中で決めた。
あとは、買った道具の確認もしたが、普通にあるもので俺の希望を聞いたドスアンさんも妥当じゃないかと言ってきた。
そういう確認もとってきたのでこの時間になったわけだが……。
「持ち帰ってきたのはいいけどさ。これをどう使うわけ?」
「その方法を考えるのよ」
「そうですね。そこをみんなで考えましょう。はい、お茶です」
「ありがとう」
椿からお茶を受け取りつつ、購入してきた魔力感知のスクロール、そして魔力無効の粉が置かれている。
「ま、普通の提案とすれば、魔力感知を覚えて、魔力無効の粉を使ってみる。これだな」
「そうね。両方あって意味がありそうだよね。魔石が黒くなることで見分けはつくだろうけど、魔力感知の視点も欲しいよね」
「ええ。それは必要ね。というか、その技術から魔力を計測できる機械とか作れないかしら?」
「作れるのか?」
「願望よ。どういう風に魔力を認識すればいいのかもまだわかってないんだから」
「確かにそうか」
「では、一体この中から誰が魔力感知を取得するかですね」
椿の言う通り、この中で誰が魔力感知を習得するのか。
「でもさ、読んだからって全員習得できるわけでもないんでしょ?」
「ああ、確かレイナさんは魔力が少なすぎると覚えられないとか言ってたな」
「素養の問題よね。でも、まずは私が一番だと思うわ。研究者だし。あとは、カカリア。技術者って建前でしょ?」
「ああ、そういえばそうだった」
「でも、専門2人がやっていいんでしょうか?」
「いや椿、スペック的には一緒でしょ? だから問題ないわ」
なるほどな。
確かに建前としてはそういう役割をして貰っていはいるが、椿ができないわけじゃない。
だから、セージとカカリアがこの場合最適か。
「わかった。じゃあ、まずはセージ。そしてうまくいかなければカカリアってことで」
「裕也さんがそういうなら」
「了解」
「じゃ、ちゃっちゃとやろうよ」
話がまとまったので、さっそく準備を始める。
簡単に言うとセージのバイタルの確認と記録だ。
「こういう時の記録をしっかりとっておかないとね。魔術の習得前と後で何が変わっているのか」
「僕は普通に知識が増えるだけだと思うけどね。表立った変化はなし」
「ま、俺もそう思うがそれを確かめるためにもってやつだな」
「そうですね。セージ、気分などはどうですか?」
「大丈夫よ。バイタルも正常値。うん。よし行くわよ」
ちょっと気合を入れた後、セージはスクロールを開いて視線を動かす。
声には出さないし、俺たちものぞいたりはしない。
この手の道具は内容を見たり聞いたりしただけで影響が出たりするからな。
所持するだけでアウトっていうのもあるが、そういうのは今回は調べようがないから考慮しない。
で、そんなことを考えているうちに、セージはスクロールを巻いて閉じてしまう。
「あれ? 早かったね」
「それはそうよ。書いている内容は子供の説明なのよ。すぐに読み終わるわ」
「ま、向こうは識字率は高くないしな」
「そうなのですか?」
椿は不思議そうに聞いてくる。
そういえば、椿は異世界の町や村へは言ったことがないんだったな。
「簡単な単語はわかる人は多いけど文章となるとわからない人の方が多いな」
「そうね。冒険者たちも受付の人に読み上げてもらうことが多い様子だったわよ」
「学校とかありそうじゃないもんね~。あの文明だと」
「昔の統治ってそうだったらしいな」
国民に学があるのはダメだっていうのは、この文明だと普通だよな。
現代でも情報統制で国民の意図を操ろうっていうのは当然にあることだし、学がないというのもこれの一種だろう。
で、大事なのはそこではなく……。
「それで、どうなんだ? 使えそうなのか?」
「うーん。読んだら使えるタイプじゃないみたいね。これ所謂教科書みたいなのよ。これを理解して使ってみろって話みたい」
「それで内容が子供の説明? そりゃひどいね~」
「えーと、子供でも分かりやすくというわけではなく?」
「全然。私やカカリアでデータが取れたあとで問題がなければ読んでみるといいわよ。笑いたくなるから」
「楽しみなような、遠慮したいような……」
椿は苦笑いをしている。
まあ、笑いたくなるほどの内容を実行しないといけないセージがここでは一番難儀なんだろうが。
「さて、とりあえず。私は練習してくるから、3人は葵ちゃんと畑の拡張予定とか、農協経由でほしい機械とか考えてて」
「わかった」
確かにそう簡単に終わる話じゃないし、セージが練習している間は畑の拡張予定を考える方が建設的か。
なのでセージが出て行ったあとそのまま居間で今後の予定を立てることにする。
「あー、そっか。葵ちゃんは魔力関係の正体がわからないのに異世界つれていけ……ないの?」
「んー。微妙だよな。変な技術を身に着けてくるとその解明にまた悩むことになるし」
「そうなると、裕也さんやカカリアさんも向こうでの活動はあまりしない方がいいのでは?」
椿の言う通りだ。
これ以上の変化をされると情報を終えなくなる可能性がある。
でもな……。
「というかさ、セージの調査もどれだけかかるかわからないし、全然向こうにも顔を出さないのっていうのもおかしくない?」
「だよな。そこら辺の場合も考えないとな」
「とりあえず、ドスアンさんたちに仕事に行くふり。または冒険者ギルドで薬草取りかゴブリン退治でも受けてこなすぐらいはいいんじゃないですか? そうしないと怪しまれますし」
「んー。確かにそうだよね」
「だな。あとは家でも買う。拠点を構築するかって所だけど。そういえば、前にちらっと聞いた拠点を作るってどの程度の規模なんだ?」
「それは、用途に応じてとしか言いようがないですね。まあ、宇宙船の支援をすれば日本の町ぐらいなら数日でできますよ」
「すごいな」
「それぐらいないと宇宙開発なんて遅々として進みませんから」
まあ、確かに言われてみるとそうだ。
いくつもの惑星を支配して開発しているんだから、家屋はもちろんインフラとかを作る方法は地球より発展しているんだろう。
そうしないと椿の言う通りいつまでたっても終わらないだろうし。
「簡単にできるのは分かったけど、かといって町の隣に作るわけにもいかないよな?」
「それはそうだよ。次の瞬間できるとか向こうの人たちには意味不明だし」
「ですね。作ることでのトラブルはあるでしょうが、トラブル自体は少ないことに越したことはありません。でも、簡単に拠点を作ってもいいものかという話になりますが」
「んー難しいな。あの不帰の森の中に作れば過干渉は避けられるか?」
「情報を集めた限りだと不帰の森の中だとそこまで気にしなくていいだろうけど。逆に町での情報収集とかしにくくなるよ?」
「それとこれとは切り離した方がいいんじゃないか? いなくても拠点に戻っているっていえばいいわけだからさ」
「そうですね。そう考えると拠点を構えるべき利点はあるように思えます。ですが、あの地方のルールは調べた方がいいでしょう」
「だね。あの手の文明って領主があれこれ言ってちょっかい出してくるに決まってるんだから」
カカリアはその手の漫画とか小説読みすぎじゃないかと思ってしまうが、俺もありそうだと思ってしまう。
「まあ、護衛をだすといって税を取る理由になりますからね。とはいえ、私たち3人が不帰の森の中に家屋を立てるだけではそこまでの請求はないでしょう。規模を知らなければ」
「なはは。椿ってば悪い顔してる~。でもさ、どうやって不帰の森の中にって説明するのさ? そこもとぼけるってこと?」
「いや、それは普通に話していいんじゃないか? トラップで飛んできたことになってるし、現地をしらべているってさ」
「ああ、それならいいかも。って、畑の相談全然してないじゃん」
「そうでしたね」
「よし。じゃ、次は畑の相談だ」
ということで、畑の今後の予定を考えるのであった。
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