レポート40:「魔術師ギルド」

「魔術師ギルド」



久々に立つ異世界の地。

とはいえ、視界に入るのは日本のビジネスホテルすらにも劣る部屋。

だが、それでもいい部屋というのが悲しいところか。

最初は初めての宿とかでテンション上がっていたが、改めて見るとここでずっと生活っていうのはつらいな。

どこかで自分たちの拠点を構える方がいいという佐藤さんの意見はこういうことだったのかと実感する。


「あと、すごく眠い」

「まあ、徹夜だしね」

「ふぁ~。とりあえず仕事終わらせて眠ろうよ。もたない」


カカリアの言う通りだ。

昨日の監視作業もあって非常に眠い。

無理をするにしても、さっさと仕事を終らせて眠るに限る。

というか……。


「セージは平気そうだな」

「まあ、そこらへんは平気なようにナノマシンを調整しているわよ。裕也もできるわよ?」

「そうなのか? なら……」


やってみようと思ったがカカリアが手を挙げて俺の言葉を遮る。


「やめといたほうがいいよ。疲労は蓄積されてるから、眠いっていうのを無理やり押し込めてるだけ。ナノマシンの治療行為で体に無理させてるだけ。あまりいいことじゃない。そのままハイになってまた徹夜とかなるだけだから」

「まあ、その可能性は否定できないわね」

「セージは大丈夫なのか?」

「私はちゃんと寝るもの。でも、ゲームや動画で夜更かしが大好きなカカリアとかはダメというのはわかるわ」


あー、そういうことか。

じゃ、俺もやめておこう。


「俺もそういう性質あるし、交渉はセージに任せていいか?」

「いいわよ。そういうことも予想して眠気飛ばしているんだし。と、その前にドスアンさんとシスティルちゃんにあいさつしときましょ。裕也はかれこれ3日ほど別行動取っていることになっているからね」

「ああ、そういうことになってるのか。挨拶しておかないと怪しまれるか」

「そういうこと」


んー、本当にこういう時拠点がないのって面倒だな。

出入りですら怪しまれるってことだよな。

いや、当然だよな。

宿取っておいていきなり3日開けるとか。


「むにゃ。別に気にすることないよ。冒険者が別行動なんてよくあることだし。色町にでも行ってたってことにすればいいよ」

「いろまち? ああ、売春のことか」


えらく古い言い方だなと思っていると……。


「こっちじゃそういうらしいよ。ということで、そこで遊んでたっていえば問題なし。まあ、飲み屋も兼ねてるし」

「わかった」


言い訳もできたことで、宿のフロントに向かうとドスアンさんが立っていて。


「おう。いつの間に戻ってきてた?」

「ついさっきですね。色町でちょっと遊んでました」

「なるほどな。情報収集か。間違いじゃねえが、せめて女の臭いをつけて来いよ」

「え?」


あっさり俺は嘘がバレてしまい驚いていたのだが、ドスアンさんは視線を横にやり。


「あそこの女の香りとお前の香りは違いすぎる。まあ、隣の嬢ちゃんたちを見てれば当然だとは思うがな」

「ありゃ、ドスアンさんにはバレバレだったか」

「ほめてもらって悪い気はしないわ」


なるほど。

色町に女はいてもこの2人には及ばないってことか。

確かに俺はそういう風俗に行こうとは思わない。

性病とかこっちでも怖いし。

寝首をかかれると椿たちからしつこく言われていたからな。

さて、嘘がバレてしまったがそれなら素直に聞くことにしようと思い。


「じゃ、その情報収集のついでなんですが、魔術に関することを聞くならどこがいいですか? やっぱりギルドですか?」

「ん? なんか覚えたい魔術とか魔道具があるのか?」

「覚えたいというか、こちら独自の魔術や道具がないかって調べたいですね。帰る方法につながるかもしれないですし」

「あーそういうことなら、やっぱり情報を持っている魔術師ギルドがいいだろうな」

「そうですか。じゃ、ギルドの人から話を聞くのは難しいですかね。気難しそうな人が多いイメージですが?」

「その認識は間違っちゃねーな。魔術師ギルドは魔術を教えたり魔道具を販売することで成り立っている。つまりあっちも冒険者ギルドと同じで実力主義みたいなもんがある。そして俺たちみたいな冒険者を馬鹿にする連中も少なからずいるが、もちろん話ができるやつもいる。持ちつ持たれつだからな」

「じゃ、相談する相手は選べってことですか」

「そういうことだ。ま、俺の名前を出せば多少は話を聞いてくれるだろう」

「名前使っていいんですか?」

「別に俺の名前を出したからって優遇されるわけじゃない。ただ信用はある程度できると思われるぐらいだ。あとはお前たち次第だな」


ということで、俺たちはドスアンさんからの情報を受けて魔術師ギルドに向かう。

魔術師ギルドは冒険者ギルドからそこまで離れておらず、同じ通りに存在していた。

まあ、持ちつ持たれつっていってたから近くても問題ないのかな?

そう思いつつ、ギルドのドアを開けて中に入ると、そこは冒険者ギルドとは違って、物静かな空間が広がっていた。

なんというか、緊張感みたいなものを感じる。

学校の職員室、あるいはなんかお役所みたいな、公的な場所って感じだな。


「あら、いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」


俺たちが中に入って固まっているのを見てカウンターに座っているお姉さんが話しかけてきた。

冒険者ギルドの受付のキアオさんと違ってお姉さんという感じのタイプだ。

キアオさんはどちらかというとかわいらしいってタイプだったからな。


「えーと、ちょっと魔術に興味がありまして。調べものをしているんです。あー、なんといえばいいのか、とりあえずドスアンさんの紹介です」


言いたいことが纏まらない。

いや、なんといえば伝わるのかって話だよな。

魔力についての説明が聞きたいんだよな。

あの見えない石、魔石について何か情報があればと思うが……。


「ドスアンさんの? つまりあなたたちは冒険者ってことでいいかしら?」

「ええ。そうです。ちょっとした事情がありまして」

「事情? ああ、調べものって言ってたわね。とりあえず話してみて」


そう言われたので、俺たちは素直に設定である転移のトラップで飛ばされたことと、そして帰るためにトラップを探す魔石から作る魔道、具体的に言うと魔力を測る方法を探していると。


「ふーん。なるほど、また珍しいトラップね。とはいっても現物は貴方たちがいた国だから調べようもないと。だから同じトラップがないか探せる道具が必要ってわけね」

「はい。同じところに飛ばされるかはわかりませんが、見つければ解析できるんじゃないかと」

「うーん。言っていることは分かるわ。でも、そんな便利な道具はないわね。……いえ、ちょとまって。魔力感知とか魔力無効とかの道具ならあるわね」

「それはどういう?」

「文字通り、魔力を感じることができるのよ。これは魔術の一種ね。魔力無効っていうのは薬品。一帯にまけば魔術が行使できなくなる。つまり、魔力系のトラップなら動作をさせないようにできるかも……」


なんともまあ、らしい方法があるもんだと思ったのだが、お姉さんの話しぶりからするとあまり使っていないような感じがする。


「すみません。えーと、お名前はどうおよびすれば?」

「ああ、レイナでいいわ」

「では、レイナさん。今お話ししてくれた魔力感知、魔力無効の薬品に関してですが、あまり歯切れのよい回答ではなかった気がするのですが? あまり使うことがないのでしょうか?」

「そうね。あまり使い勝手がよくないのよ。魔力感知は魔術で隠ぺいされた扉とか道の捜索。戦闘とかじゃ時間がかかりすぎるのよね。そして魔力無効って薬品は粉末であたりにまき散らすことで魔力を一時的に使えなくするの。とはいえこれも粉がある程度散布されてないといけないし、風で吹き散らされれば終わり。上手く使えばいいんだけど。これも戦闘じゃ意味ないのよ」

「なるほど」


用途が限定的過ぎるってことか。

しかし、そこであることに気が付いた。


「すいません。魔力無効と言い切るのはなんでですか? 魔術無効というべきは?」

「あら、意外と頭が回るのね。とはいえ、そこまで難しいことじゃないのよ。これ何かわかる?」


そういって、手のひらぐらいの石を取り出した。

それは最近見たことがある。


「魔石ですか?」

「そうよ。これはゴブリンの魔石ね。まあ、魔石って基本的にサイズで換算されることが多いんだけど、これを……」


そういって、今度は取り出した袋の中から粉を魔石にかけると、魔石が黒く変色する。


「これが魔力が枯渇した状態ね。通常こうなった魔石は溶けてなくなるの」

「溶けて?」

「あら? 魔道具は使ったことがないのかしら?」

「ええ。向こうの国ではそういうのはなかったもので」

「ふうん。珍しいところなのね。まあいいわ、それでそろそろかしら」


レイナさんがそういうと石の色がもとの素朴な石の色に戻る。


「これが魔力無効と言われる理由。魔術はもちろん行使はできないけど、魔力を持つはずの石ですらこういう状況になるから、限りなく魔力をゼロにする。無効にするんじゃないかって言われているわね」

「なるほど」


ちゃんとこういった背景があるのか。

しかし、魔石が消滅していないことから絶対にゼロというわけでもないようだ。


「どう、お眼鏡にかなったかしら?」

「そう、ですね。何もないよりはましだと思います。この粉は売ってもらえますか?」

「いいわよ。魔力感知はどうするかしら? これもそこまで珍しい物じゃないというか、まあ基礎みたいな物だから、高くはないわよ?」


そういってスクロールを出してくる。

多分取得方法がのっているのだろう。


「いくらですか?」

「そうね。粉は1袋銅貨3枚、スクロールは金貨1枚ってところね」


高いのか安いのかさっぽりわからないので、セージに視線を向けると頷いてくれる。

そこで俺じゃなくてセージが話をするっていってたけどよかったのかなと思いつつ。

俺はその条件で道具を購入した。


「毎度あり。何かあればまた来て頂戴」


そんなお世辞を聞いて俺たちは魔術師ギルドを出て行った。

騙されていたのならそれだけの話だしな。

とりあえず、成果をもって帰って試すのが先だ。


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