レポート37:「慣らし中」

「慣らし中」



ズドーン。


そんな爆音が俺が購入している土地の中で響く。

これ本当に周りの人にばれてないよなと心配になっていると……。


「大丈夫よ。裕也の時も同じだったし」


隣で一緒に様子を見ていたセージは特に動揺もせずにそういう。

俺としては耳の痛いことで……。


「あんな感じだったのか」

「ええ。まあ、仕方ないわよ。漫画のヒーローみたいな力を手に入れたんだから。女の子としてマジカルパワーの方がよかったかもしれないけどね」

「どうだろうな」


俺はそう返事をしつつ、爆音がしている所、葵ちゃんに視線を向けると。


「私、サイ○人になってる! 強い強い! はっー!!」


どこからどう見てもそのパワーを満喫しているように見える。

しかもリアルドラゴンボー○ごっこだから、シャレにならんと思っていたが。


ガキン!


「甘いよ!」

「カカリアちゃん! 強いね!」

「いくよ!」

「うん!」


その場で拳の応酬が始まり、ぶつかり合いの音が響き渡る。

本当に楽しそうだな。

だが、カカリアが押さえてくれるから大丈夫か。

そこで椿がいないのに気がつく。


「そういえば椿は? 一緒に訓練に付き合っていたはずだろう?」

「そろそろ後ろにって来たわよ」


そう言われて視線を葵ちゃんに戻すといきなり後ろに現れた椿に足払いをされてバランスを崩している。

あ、あれもなんか記憶がある。

そこからはカカリアが引いて椿が調子に乗っているであろう葵ちゃんを滅多打ちにしていく。


「うわわわわ!?」

「自分が優位に立っているなどとは思わないことです。それを忘れてしまうからこうなるんですよ」


普通にしゃべりつつも痛打を入れて、葵ちゃんを地面にたたきつける。

その衝撃で地面も一緒に凹んでしまう。

本当に漫画のような光景で。


「げふっ!?」


とても女の子には似つかわしくない声を上げる葵ちゃん。

傍から見ると、死んだだろうと思うような光景なんだが……。


「ま、まだまだぁ!」


そう声を出した葵ちゃんは即座に飛び上がって、今度は椿に殴りかかっていくが、そう簡単に反撃できるわけもなく。


「甘いです」

「うひゃっ!?」


拳を受け流されてそのまま一回転をしてすっころぶ葵ちゃん。

それからも若さ故というべきか、何度も立ち上がって椿とカカリアに向かっては返り討ちに合うを繰り返しているのを見て、まあ大丈夫だろうということになって、セージと一緒に家に引っ込んで今後の予定を考えることになる。


ドーン、ズン。


そんな爆音が響くのは一切無視してだ。

これが本当にお隣さんに聞こえていないとか不思議極まりないが、実際園山さんが苦情を入れてないから聞こえていないんだろうが。


「それで、葵ちゃんはこれからどうするんだ?」

「そうね。朝の9時から2時間カプセル入れて、座学を1時間した後、お昼を入れてただいま慣らし中。まあ、かれこれまだ30分ぐらいしかたってないけど、あとせいぜい30分ぐらいよね。そしてあの運動の後だから休憩も一時間はいるわよね」

「だな」


あんな激しい運動をした後すぐに仕事の話とか俺もつらい。

休憩は必須だ。

だが、少し気になることがある。


「昨日と今日連休だったけど、明日から平日だよな?」

「そうね」

「つまり、葵ちゃんは明日から普通に学校に行くわけだ」

「ええ」

「動けるよな?」

「そこらへんはちゃんと治療はするし、問題がありそうならこっちに来るように言うわよ。まあ、若いから大丈夫でしょ」


と、セージは普通に言う。

回復できるからOKって考えはどんなものかと思うが、かといって訓練の手を緩めるのはよくないとも思う。

……ちょっと悩むが、このまま行こうと思う。

だが、筋肉痛などが出れば連絡をするように強く言っておこう。

俺は起きれなくなったしな。


「それで、休憩が終われば大体3時ぐらいだけど。そこからはどうする?」

「どうするって?」

「人形のことよ」

「ああ……。急いだほうがいいか?」

「急ぐことはないと思うけど、正直学校に行くし、次の機会は来週よね」

「放課後来てもらったときにしてもらっていいんじゃないか?」


ただ人形を触って石が見れるかを確認するだけだ。

と、思っていたのだが……。


「裕也はあまりそういうのは気にしてないのね。葵ちゃんは頭の中に変な声が聞こえてきたっていう子よ? 人形に触れて私たちと同じように何もなくで済むって保証はあるの?」

「……そういうことか。葵ちゃんに心霊現象が起こるかもか」

「あり得ない話じゃないでしょ? 不可思議なことはいつ起こってもおかしくないけど、こういう状況って関係者が集まっていない時、不意な空白で起こるのがお約束だから」

「それを考えて、なるべく一緒がいいってことか」

「ええ。まあ、映画みたいな通信途絶、時間は経たないっていう感じになると結局は意味がないともいえるけど……」

「そこらへんも含めて話す必要はあるか」

「あるけど、一番気になっているのは伸ばし伸ばしにして気が付かないうちに人形に触られて、こちらの意図から離れて事態が進行すること。色々な意味で予定がパーよ」

「あー……。それは一番避けたいな。そして、今のパワーを持った葵ちゃんなら勝手に動きそうだ」

「そうよね」


俺とセージが見る先には、ぼこぼこにされつつも、どこかの漫画の主人公だと言わんばかりに立ち上がって、バトルを加速させる葵ちゃん。

すると不思議なことが起こった。

普通に加速して殴りかかる葵ちゃん。

あれは椿にあっさりと受け流されると思っていたのだが、椿がそのままパンチを受けて吹っ飛んだのだ。


「「え?」」


俺たちが驚いているうちに次にはカカリアに蹴りが飛んでそれもあっさりクリーンヒットして吹っ飛んでいく。


「何が起こってるの? スピードとかは椿たちが上よ? わざと?」

「いやちょっとまて」


俺は何となく引っ掛かるモノがあってよく見てみると、予備動作が露骨に少なくなっているのに気が付く。

というか、予備動作が少ないときに椿たちは攻撃を食らっている。

つまりあれは……。


「無拍子打ちか」

「むびょうしうち?」

「あ~、カプセルじゃうまく身体強化しかしてないからな。達人になったというわけじゃないだろう?」

「そりゃ経験を積まないと腕があっても意味はないし。そのための慣らしだから、でその無拍子打ちってなにかしら?」

「確か、古武術で使われている動きのはずだ。人が動くには予備動作があるのはわかるよな?」

「ええ。反作用をうまく利用するってやつよね。何かを殴るときや切り付けるときは振りかぶって勢いを増すってやつ」

「そう。だけど無拍子打ちっていうのはそういう動作がないんだ。ほらよく見てみ」


俺はそういってセージに改めて動きを見てみるようにいうと……。


「あ。確かに椿やカカリアが殴られたり蹴られたりするとき、極端に予備動作が少ないわね」

「通常の動きと織り交ぜているから、より反応がしずらいんだろうな」

「なるほど。武器を持っているなら一撃だものね。いかに相手の不意を衝くかってことか。でも、なんで葵ちゃんがそういう動きしってるのよ?」

「そこは知らない。でも、軍隊格闘術とかはそういう予備動作を極端に少なくして動くってことは訓練しているはずだし、どこからか知っていても不思議じゃない」

「ふーん。やぱっりそういう所は不思議よね。武術とかもしっかりデータ集めてみようかしら。って、葵ちゃんまた押され始めたわね。椿とカカリアが無拍子打ちに慣れてきたみたい」

「まあ何度もするもんじゃないしな。と、人形のことは訓練が終わった後に伝えることにしよう。それで触るか触らないかは葵ちゃんの判断に任せるってことで」

「わかったわ」


そう結論を出していると。


「なんでぇぇぇ!?」


無拍子打ちを破られた葵ちゃんが再びぼこぼこにされているのであった。

あと20分ぐらいで終わるかな?

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