レポート36:「どこかで見たことのある光景」

「どこかで見たことのある光景」



俺たちは只今大気圏離脱中だ。

以前佐藤さんに演出してもらったときのことをそのままやっている。

そして、その対象となっている小野田葵ちゃんだが……。


「うわっー!! すっごーい! 地球は青かった!!」


そんなことを言いながら、宇宙船の中から目の前に広がる光景に対して興奮していた。

いや、まあ、実際に宇宙から地球を見ることになれば誰だってそうなるよな。

なにせ、いまだにこの経験をしているのは地球で600人いるかいないかだ。

しかも、宇宙から地球を見るという経験のために必要な勉強、技術などは並大抵で取得できるものではない。

それを今自分が経験していると思えばその興奮は当然だともいえる。


ちなみに、葵ちゃんがこの宇宙船にいるということを考えればわかることだが、彼女はあっさりと俺たちの秘密を知るという選択をした。

彼女が神社で聞いたという運命の出会いはまさにその通りだったわけだ。

当初は宇宙を探索するクルーだと言ってもあまり反応はよろしくなく、飾ってある人形に視線を移して……。


『霊能者とか、陰陽師とかじゃなくて?』


と、聞かれてこちらも苦笑いするしかなかった。

まあ、あの出会いを考えればそっち系だと思うだろうな。

だが、実際は真逆ともいえる組織だ。

そんなことを考えているうちに大気圏離脱は終わり周回軌道……よりも遠目に到着する。

ココがほかの衛星に補足されにくい場所なのだ。

もともとそういうジャミングはしているので見つからないのだが、念には念をというやつだ。

さて、そろそろいいかな。

ということで、興奮している葵ちゃんに話しかけることにする。


「どうだい。俺たちが言っていたことが嘘じゃないってわかったかな?」

「はい! はい! すごいですよ! 宇宙人って本当にいたんですね! でも椿さんやセージさんカカリアさんがそうだとは全然見えませんけど」

「生体アンドロイドですよ。作られた命ですが、ちゃんと人権は認められています」

「そして地球人になじみやすいように容姿も合わせているってわけ」

「うんうん。だから普通に結婚もできるんだよ~」

「はぇ~。そういう所でも進んでるんですね~」

「ああ、ロボットたちの反乱とかは既に起こっていて、自我があるモノたちは人権が認められるらしい」

「つまり、世界の破滅は起きないわけですね。人は不要だーって」

「意外とSF好きなのか?」

「映画とかはよく見ますよ。というかその手の話ってよくあることでしょう?」

「確かにな。で、俺たちがその惑星を調査している仕事についているっていう話は信じてもらえたと思う」


俺は本題に戻ることにする。

葵ちゃんも落ち着いてきたようだしな。


「はい。それは信じられます。こうして宇宙にいるんですから」

「それはよかった。それで葵ちゃんは選ぶことができる。このまま宇宙に対して食べ物を輸出する農業に専念するか、それかある程度の訓練や命の危険を冒して、俺と同じ惑星調査員になるかだ。もちろん、全部忘れてしまってただのバイトになってもいい」

「むむむ。詳しく内容を聞かせてもらっていいですか?」

「ああ」


本人はすぐに答えは出さずに詳細を聞くことを選択した。

ここら辺、即決するとちょっと心配だったが、そういう注意はあるようだ。

ということで準備しておいた話をする。

とはいえ、佐藤さんに説明されたことをそのままするだけなんだがな。

だが、内容はそれなりにあるので時間はかかったが……。



「意外と地球は宇宙人から侵略されているってことですか?」

「保護されているっていうのが正しいと思うぞ。宇宙戦争のことを聞けば惑星ごと吹き飛ばしてもいいんだし」

「確かにそうですね。……うん。私惑星調査員になります。肉体の改造っていっても遺伝子的には人のままのようですし、それなら問題なしです。なによりこんな誰も経験してないようなことを不意にするのは惜しいです。運命っていうのが分かりましたよ!」


そういってあっさり惑星調査員として希望をだしてきた。


「それに自分が知らないところで命運を握られるのは嫌ですし、少しでも自分の力っていうのを上げたいです」

「ああ、そういうことか」


いつそういうことに巻き込まれ死ぬかもしれないっていう恐怖心もあるか。

それを回避するには当事者になるしかない。

俺は相手の規模が大きすぎてそういうのは考えるだけ無駄だと思っていた。

前向きな考え方、若いからこそって感じかな。


「いいと思います。自己を高みへというのは素晴らしいことです」

「そうね。自堕落を目指すなんてものよりもいいと思うわ」

「だよね。強くなれるんだからそういう願望はあってもいいと思うよ。裕也はそういうところ少ないから」

「裕也さんは強くなるとかは嫌だったんですか?」


カカリアの言葉が気になったのかそう聞いてくる葵ちゃん。

俺としては言葉を濁すべきか悩んだが、これから持つ力を考えれば素直に教えるべきだと判断した。


「強くなる、力があるとできることが増えるから、やらないとって思いがちなんだよ。とはいえ、惑星調査員として動かなくちゃいけない。ルールがあるんだ。日本のどこかで事件が起こっても俺たちが解決に向かうわけにはいかない。そういうのはわかるか?」

「あ、はい。それはなんとなく……」

「それは日本だけじゃなく惑星調査でも同じだ。露骨に力をふるい続けると目立つだけで済めばいいけど、排除しようってことも増えてくるだろう。まあ、社会の嫌なところだな。考えが違うから当然のことではあるんだけどな」

「あー、いじめとかですね」

「そうだな。学校の環境とはまた違うがそういう関係が存在している。だからと言って力をもってねじ伏せるのかというと……」

「それはダメですよね」

「だめだな。だから俺たちは力に溺れないように、常に冷静でいないといけないんだ。相手から見れば俺たちは理不尽な暴力を持っている存在だからな。意見を通しやすい立場なんだ。まあ、もちろんそういうのを抑えるためにも椿たちがいるんだけどな」


俺がそういって椿たちに視線を向けると彼女たちは頷く。


「そういうサポートはしますからご心配なく。葵ちゃんが暴走しそうになれば一発でダウンですよ」

「ええ。きついのを一発見舞ってあげるわ」

「達人の技ってやつだね」

「あはは。その時は遠慮なくお願いします。誰かを虐げるなんて御免ですから」


葵ちゃんもその時は止めてくれと言って頷く。

まあ、その時になってみないとわからないよな。

とりあえず、これからのことを話すとしよう。


「じゃ、家に戻ってこれからのことを説明しようと思うけどどうだろう?」

「はい。お願いします」



ということで、俺はちゃんと大気圏突入を見せて自宅まで戻ってきた。


「それで、さっそくだけど。惑星調査員の詳しい基礎知識とか体力に関してはすぐに入ってもらおうと思う」

「え? いきなりですか?」

「まあ、気持ちの整理に時間がいるなら待つけど。惑星調査員にはまずこれからなんだよ。そうしないと次に行けない。ほら未知の病気とかもあるし、向こうで活動できるように知識や力を身に着けないとな」

「うーん。それって痛いですか?」


こういう時に考えることは同じらしい。


「痛みはないですよ。精々2時間くらいです」

「裕也はその後の慣らしで暴走して筋肉痛になってたけどね」

「それは限界を知るためって言ってただろう?」

「まあね。でも、女の子にそういうのはどうかな―って思って言ってみた」

「あはは。それぐらいならいいですよ。じゃ、さっそく入ります!」


危険性がないのを理解して葵ちゃんは素直にカプセルに入る。

まあ、それはいいんだけど明日の訓練で暴走しないといいんだけどな。

ちなみに、本日と明日は連休で葵ちゃんは連続で来ることになっているが……。

筋肉痛の治療日が足りないよな。

そこらへんどうするか。

と、考えてしまうのであった。


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