レポート35:「彼女の決断」

「彼女の決断」



葵ちゃんの雇用がほぼ決まった夜、俺たちは今度の予定を考えていた。


「葵ちゃんがくるのはいいけどさ。実際どういうことさせるの? どこまで教えるの?」


カカリアが言ったことが俺たちが考えている本題だ。

俺たちの本当の仕事は惑星調査。

もちろんそれに付随して農業もしているんだが、メインというわけじゃない。

何より葵ちゃんは農業のためというよりもむしろ……。


「次来たときに、洗いざらい教えていいんじゃないかしら? それでいいならそのままで、だめなら記憶をいじって普通に農業の手伝い。どのみち、人形に触らせて石が見えるようになるかのサンプルにはちょうどいいわ」

「セージ。その言い方はあまりよろしくないですよ。葵ちゃんはいい子です。協力者であることを忘れないでください」

「わかってるわよ。言い方が悪かったわ。でも様子見をする必要性は感じないわ。信頼が大事っていうけど、私たちは惑星調査もあるんだしこの場所を開けることもしばしば。誤魔化せないことはないけど、それをするぐらいなら、最初から説明をした方がよくないかしら?」

「まあねー。毎度毎度口裏合わせるのも面倒ではあるよね。どう思う裕也?」


そこで俺に振られる話。


「あー、これってやっぱり俺の判断か?」

「はい。雇用者に関することですし、同じ人です」

「とはいえ、性別も年齢も違うんだがな」

「それを言ったら、私たちは厳密にいうと種族すら違うわね」

「そうそうって。そういえば僕たちのことは全然質問してなかったね」

「あれだろ。雇用に関してのことを優先したんだろう。職員のことについて根掘り葉掘り聞くのは雇用したあとでいいし」

「確かにそっか。で、どうするの?」


うーん、葵ちゃんに俺たちのことを説明するかどうかか……。

確かにセージの言うようにだめだったら記憶をぴかっとやってしまえばいいんだが、倫理的にどうなのかというのもある。

しかし、信頼なんて目に見えるわけがないし、時間を重ねたから大丈夫ということでもない。

何より……。


「話そう。彼女の頭の中に語り掛けてきたっていう話も気になる。その存在は俺たちのことに気が付いている可能性だってあるからな。詳しい話を早い段階で聞いておくのは大事だと思う」


俺がそう判断を下すと3人とも素直に頷いてくれる。


「では、葵ちゃんに関してはそのように。明日来るときにはセージとカカリアも同席してください」

「わかったわ」

「任せて~」

「信じてくれるのかどうか……」


俺はそうつぶやくとなぜか3人は驚いたように……。


「別に信じさせる方法は特に問題ないでしょう」

「そうね。宇宙船に乗せるなり、ビームソードを見せるなり、超人の様子を見せるなり何でもできるでしょ」

「うん。惑星に連れて行ってもいいしね」


あっさりと解決方法を言うのだが、逆に俺は驚いて。


「そこまでやっていいのか?」

「いいですよ。というかそういう本物を見せないでどう信じさせるのですか?」

「言葉だけで信じる相手って逆に信用できないわよ」

「だね。まあ、裕也としてはそういうのはダメだと思っていたんだろうけどね。さっきも言ったようにだめなら記憶をぱっと消せばいいんだから問題ないんだよ。というか佐藤さんに説得された時は宇宙船で宇宙に行ったって聞いたけど?」

「そうだった」


そこでだめなら記憶を消して戻すだけです。って言われてたわ。


「じゃ、信じるかどうかってことは問題なしか。あとは、葵ちゃん次第ってことか?」

「いえ、そうでもありません。会話の運びというのがあります。例えば、いきなり自分の死を前提とした契約書を出されたらどう思いますか?」

「そりゃ、絶対拒否だな。そういえば、佐藤さんもちゃんと安全だっていうのは強調していたな。契約書類に治療に関しても色々書いてて驚いたけど」

「そうよ。まずは仕事が安全だということを教え込まないといけないの。葵ちゃんに興味があっても、命の危険があると考えれば関わろうとは思わないかもしれない」

「でも、契約書のちょっと書いてあるだけで説明無しもだめだからね。それはそれで隠していたってことであとで不信につながるから。ちゃんと危険性も説明しないといけない」

「確かにな」


契約書には書いているからっていうのは、読まない方がダメではあるが、説明の義務を怠ったということでもある。

何より、仕事には信頼が大事。

そこをおろそかにするわけにはいかないか。


「あと問題となるのは、肉体と精神の改造ですね」

「あ~、女性は特に心配しそうだよな」

「そこはどうしても強制はできないからね。それこそ葵ちゃん次第でしょ」

「僕はそこは心配ないと思うけどな~」


なぜかカカリアは葵ちゃんは大丈夫だという自信があるようだ。

そうなると話は早くていいんだけどな。

まあ、そういうことで話はまとまり、俺たちはどういう風に説明するのかを考えて眠りについた。



「おはよーございます!」


本日は日曜日。

連絡はもらってたとはいえ、朝9時に元気なあいさつを受けると若さの違いを感じてしまう。

会社で言えば就業時間だし、俺たちは農業を仮にもやっているので、起きてはいるのだが、あれだ。

若い子の挨拶の声量っていうのか、パワーが違うのだ。


「おはよう」

「おはようございます」

「おはよう。よく来たわね」

「おはよー。早く上がって上がって」


俺たちは普通に挨拶を返して、葵ちゃんを迎え入れる。

本日はご両親の姿はない。

それをちょっと疑問に思って聞いてみると。


「今日からは私が一人で頑張りなさいって言われました。もちろん、みなさんにわからないことは素直に聞けとは言われていますが」

「なるほど。ご両親の信頼にこたえないとな」

「はい。あれ? 私に頑張れとかは?」

「まあ、それは大事だが、ここにいられるのはご両親が俺たちのことを信頼してくれたからってのが大きい。葵ちゃんもそこは忘れないようにな」

「はい」


素直に頷く葵ちゃん。

擦れていないのがまぶしい。

そんなことを話しつつ居間に戻ると、さっそく葵ちゃんが昨日出した契約書や必要書類を渡してくる。


「確認させていただきます」


そういってすぐに椿が確認に入る。

枚数は多くはないので、すぐに終わり……。


「はい。確認いたしました。問題ありません」

「ほっ。よかった~」

「では、さっそく必要な備品、作業着などの発注がありますので、計測をしますが、その前に……」


椿は間髪入れずに予定通り、俺たちの秘密について話始める。


「葵ちゃんは真実を知りたいですか?」

「真実ですか? それはどういう?」

「そのままの意味です。もちろん研究をしていることは間違いありませんが、それは世間の目を欺くために利用しているにすぎません」

「はぁ……」


なんの話かついていけない葵ちゃんは首をかしげているが……。


「私と裕也さんと出会ったときに言ったこと。実は私たちには心当たりがあるのです」

「え? 運命の出会いってことですか?」

「そうです。小野田葵さん。あなたが望むのであれば、その正体を私たちは証、その運命だと思えることをご説明いたします」

「……えーと、裕也さん。ほんと?」


椿の強い視線に耐えられなかったのか、それとも信じられないからなのか俺に視線を向けて確認を取る。


「本当だ。まあ、強く言ってはいるが後戻りはできるからそこまで心配しなくてもいい」

「後戻りできるんだ。こういうのって戻れないのがパターンかと思ってた」

「思うよね。でもできるんだよ。だからさ、聞くだけ聞いてみない?」

「葵ちゃんの望む答えかどうかはわからないけどね」


と、俺たちも援護射撃をすると葵ちゃんは考えるそぶりをすることもなく。


「教えてください!」


家全体に響くような声で返事をしてくれたのだった。

これが若さか。


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