レポート33:「出迎え準備」

「出迎え準備」




一応、葵ちゃんには明日には準備ができるとは言っていたが、正直もっとかかると思っていた。

最悪、俺たちから説明をしっかりしないといけないって泣きつかれるんじゃないかとも思っていたんだが……。


『おはようございます! 今日の夕方、学校から帰ったらお伺いしてもいいですか?』

「え? そっちからくるのか? 俺たちの方から伺うけど?」

『何言ってるんですか、バイトとして雇ってもらうんですからこっちから挨拶に行くのが当たり前ですよ。お父さんもお母さんも言ってたし』

「あー、そうか。なら詳しい時間が分かったら教えてくれ」


多分、親御さんはこっちの状況も把握したいんだろうなと思う。

まあ当然だよな。

若い娘が女性がいるとはいえ、男もいるような場所に出入りすることになるんだから、直接見に来るよな。


『あ、ごめんなさい。時間は6時半ぐらいになります。遅れそうなら連絡をします』

「わかった。じゃ、待ってる」


そう言って、電話を切ると椿がこちらを見てきていた。

ちなみにセージとカカリアは惑星調査に行っている。

葵ちゃんとの雇用のさいには戻ってこれるように町の中での情報収集だけにしてもらっている。


「こちらにこられると?」


どうやら電話から音が漏れていたようで椿にも聞こえたようだ。


「ああ。まあ、親御さんから見たら、ちゃんと雇ってくれるか、人柄的に信頼できるか心配だろうからな」

「当然のお話ですね。怪しいバイトに丸め込められているって可能性もありますし」


椿も納得したようにうなずいている。


「そうなると、説明の用意はしているとはいえ、少しでも家を綺麗にするか」

「そうですね。でも、あまり家の物はいじれないのでは?」

「そこは玄関回りと居間の周りぐらいでいいだろう。あとは、草むしりか?」


庭はそこまで手入れをしていないのだ。

いや、庭から畑の境界があいまいだからな~。

まあ、見栄えは悪いしそこら辺の気合入れよう。

椿も俺の言っていることわかっているようで頷いて。


「そうですね。せめてそこらへんはしっかり掃除をしましょう」


そういってお互い立ち上がるが、不意にテーブルの上にたたずむ日本人形に視線が集まる。


「彼女、どうしますか? 話し合いの席にも同じ場所に置いておくんですか?」

「いや、それはあれだから、床の間に飾っておこう」


俺は居間の角にある床の間に人形を飾る。

そこには同じように木彫りの馬の置物があるが、それを横によけて仲良く並べる。

いや、床の間が普通にあるからこの家って本当に立派だよなーと今更思う。

そして、改めて飾った人形に向かって一言言っておこう。


「これからお客さんを迎えるための準備をするから動くなよ。昨日きた葵ちゃんの雇用に関わることだからな」


なんて、ことを言ってみる。

この人形が意思をもっているのであれば、多少こちらの気を使ってくれという意味で。

傍から見ればお人形に話しかける痛いおじさんであることは目を瞑りたい。

なにせ宇宙船からワープしてくるアグレッシブな人形だしこれぐらいはな……。

そしてその様子を見ていた椿も。


「そうですね。葵ちゃんのご両親を安心させるためにも、動いたり悪戯するのは控えていただけるといいですね」


そう人形に言う。

だが、人形が答えるわけもない。


「とりあえず、大事なことは伝えたし、掃除始めるか。あ、セージとカカリアに連絡は?」

「それはもう済ませています。掃除をするので午前中には情報収集を終えてこちらに戻ってほしいと」

「ありがとう。じゃ、俺たちも始めるか、えーと普通は俺が屋外っていうべきなんだろうが……」

「妙なものがあるかもしれないですからね。私が外をするのが賢明でしょう。室内の掃除をお願いします」

「ああ頼む。屋内の掃除は椿たちが適度にやってくれてるから、そこまで時間が掛からないはずだ」

「はい。草とかはゴミ袋にまとめていいんですか?」

「いや、一か所にまとめておいて枯らせる。その後燃やす」


近辺に燃やして毒を出すような草木はないからな。

乾燥させた後は燃やす方が、灰も肥料として利用出来て便利だ。

焼き芋でもついでに焼けば一石二鳥になる。


「焼き畑農業ですか?」

「良く知ってるな。そうそう。それと同じ」

「知識だけですが、勉強はしています。確かに除草作業もできて一石二鳥ですね」

「だけど、ちゃんと管理をしないと一帯に燃え広がるから意外と難しい方法だからな。俺たちができるのは集めた草木を燃やすぐらいだな」

「ですね。そこらへんはちゃんと研究を重ねてからですね。では、掃除にかかります」

「うん。頑張ろう」


ということで、俺たちは掃除を開始することになる。

水の入ったバケツを持って雑巾を握り縁側の廊下に立つ。


「うーん。廊下掃除か。張り切って雑巾を持って来たが、お掃除シートとワイパーで良かったんじゃないか?」


今どき濡れ雑巾で拭くよりも、簡易な掃除道具が販売されている。

なんというか、俺も年寄りみたいな考え方してるなーと思いつつも、準備したのだからとりあえず雑巾で拭くことにする。

腰を落とし、廊下に雑巾を置いてそれを両手で押さえつけて走りだす。

いつかやった掃除の仕方だ。

今の学校とかこういうのはやるのだろうか?

そんなことを考えつつ、とりあえず往復してから雑巾をめくると、多少なりとも埃がついている。

掃除はしているんだが、やはり汚れるものだよなと思いつつ、これをバケツに入れて洗っても完全に綺麗になるわけじゃないから、やはり使い捨てのお掃除シートを使う方がいいんじゃないかと思ってしまう。


「とりあえず、雑巾はひどい汚れを取るのに使うか……」


あまりにも雑巾を使うメリットがなさ過ぎたので、最初の露払いということにして、それからお掃除シートを使うことにした。

まあ、それも静電気がつく叩きを使い、掃除機をかけてしまった時点で室内のひどい汚れはほとんど落ちてしまう。

それをお掃除シートで終わるので簡単だった。

唯一、玄関周りが泥がついたりで汚れていたが、そこは雑巾ではなくデッキブラシでゴシゴシして大体終わってしまう。

なんてことをしていると大体家の掃除は終わり、椿の所へと向かう。

彼女は玄関周りと庭の除草作業を頼んでいるんだが、どこまでできただろうか?

女性一人日差しが差す中、外で作業させるってどれだけ鬼だよと思いつつ俺は椿の姿を探すと……。


「あ、家の中は終わったんですね」

「ああ。終わったけど……」


俺は当たりを見て驚いていた。

そこまでひどい状態ではなかったが、一見してわかるほど伸びていた草が無くなっている。

というかそれを今椿が掃いて集めている。

その量はたった2時間程度で集められるものではない。

一体どうやったのだろうかと思っていると……。


「これはですね。この前カカリアがやって見せた方法を真似てみたんです」


そういうと椿はビームソードを出して手元でくるんと回して見せる。


「そういうことか」

「はい。まあ地面から生えていると所は手作業ですけど、ほかの所はこれで行けますからね」


草取りとはいえ、全部が全部根こそぎ狩る必要は無かったりする。

だからこそなんでも切れるビームソードは便利というわけだ。

剪定ばさみに力をいれて枝を切る必要もないしな。

重さもさほどないし、長さも調整可能。

これは確かに便利だ。

そう関心していると……。


「えーと、それでこんな感じでいいのでしょうか? あとこの草と木はここでいいんですか?」

「あ、そうだな。もうちょっと場所を移動しよう」


枯らすにしても場所を考えなければ風が吹いてまた散らかってしまうし、燃やす場所も考えてちょっと畑の一角まで運ぶことにする。

とはいえ、それもそこまで時間はかかることなく終わってしまい。

午前中には予定が終わってしまった。


「早く終わったな」

「いいことですね」

「そうだな。あとはセージとカカリアの部屋だけだな」


残すは今調査に出ている二人の所だけだ。

そう思いつつ、お昼休憩で居間で休んでいると……。


「たっだいまー」

「帰ったわ」


噂をすれば影ってやつで、2人が返ってきた。


「おかえり」

「お帰りなさい。とりあえず、手をあらってきてください。お昼にしましょう」

「はーい」

「わかったわ」


2人は予定通りに午前中に情報収集を終えて戻って来たようだ。

そして、一緒にご飯を食べたあと、自分の部屋の掃除をささっと済ませ、汗を流したあとはのんびりしつつ、葵ちゃんの到着を待つことになったので軽く話をしておく。


「それで、俺が話すのは普通に雇用の話だけだよな?」

「はい。とはいえ、説明は私の方が行います。どちらかというと場所を提供してもらっているという立場ですからね」

「そうね。椿が説明して、裕也は横でどっしり構えるって所ね。雇用が違うからってことで良いと思うわ」

「あーそういえばそういう立場だったな」


今言われて思い出したが、俺は佐藤貴金属の社員であり、椿たちは佐藤さんの持っている研究部署の所属だ。

似て非なるところで働いているということになっている。

なので俺が説明をするのは無理だと言えるわけか。


「そうそう。だから裕也は安心してていいよ。まあ、ここに葵ちゃんはここに通うことになるから、親御さんにはしっかり挨拶はしておかないといかねいけどね」

「それはそうだな。しかし、親御さんに挨拶か……。相手が女子高生だしお父さん怒りそうだな……」

「まあ、そこは我慢してもらうしかないかと」

「普通は雇ってもらう方だから怒るとは思わないけど……」

「女の子だし、女子高生だしねー。まあ、そこらへんは少しは多めに見て上げた方がいいかもね」


うん。俺もそう思う。

まあ、そういう修羅場になるかもと思うと少し胃が痛いが……。

俺はそう考えながら葵ちゃんたちが来るのを待つのであった。


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