レポート32:「お互いのお話」
「お互いのお話」
俺は葵ちゃんとの会話を終えた後は、そのままテレビを見つつ勝手に動く人形を視界にいれてセージたちの帰りを待っていた。
幸い、椿が仕事中で一人の時に勝手に動き出すようなことはなく、ちょっとトイレに行っても問題はなかったので、この人形がワープしてきたのは宇宙船の誤作動じゃないかと思って、帰ってきたセージに言うと……。
「そんなことあるわけないじゃない」
「うん。ありえないよ。誤作動でワープ装置が動くとか危険極まりないじゃん」
と、ばっさり否定された。
言われていることはわかる。
ワープ装置が勝手に動くようなザルシステムなら死亡事故は山ほどあるだろう。
とはいえ……。
「じゃ、心霊以外の可能性で人形があの宇宙船からこっちにやってきた原因は考えられるか?」
「「……」」
俺の質問に答えられずに沈黙する2人。
だが、少し沈黙したあとセージがゆっくり口を開く。
「偶然ワームホールが出現して人形だけを運んだ。これなら誤作動じゃないから問題ないわ」
「それが起こる確率ってどのぐらいだ?」
「えーと、そういうので宇宙船が巻き込まれる事故がむかーしにあったから、そういうのは回避するようになってるし、システムを搔い潜って事故が起こる確率は宇宙船の販売メーカーのカタログスペック的には10億分の1だって」
「それが偶然俺たちのところに起こって、偶然俺の家にもどったと?」
「……無理があるわね」
「だねー。って、別に心霊的でいいじゃん。すごい人形ってことだよ」
「やっぱり、俺たちの知らない力が働いたって考えるか……」
「裕也さんは信じたくないみたいですね」
椿はそういいつつお茶を俺たちの前においてくれる。
俺はそのお茶を飲んで……。
「なんというか、超常現象ありきな考えはよくないと思っただけだよ。それで当たり前を忘れるのはどうかと思った」
「ま、言っていることはわかるわ。何でも超常現象なんて言ってたら科学の意味とかなくなるものね。気安くそういっていいとは思わないわ」
「まあねー。でも、今回に限ってはそっちの可能性が高いでしょ」
「ですね。どう見てもそちらの可能性が高いかと。まあ、それもこれから経過観察が必要となりますが。それでこの人形はどうするのでしょうか?」
現在話題の人形は俺たちが囲んでいるテーブルの上に立っている。
特に動く様子は見えない。
本当にただの日本人形にしか見えないが、これが勝手にワープしてきた問題の人形なのだ。
これをどうするのかと言われて俺は……。
「このままでいいだろう」
「このままってこのままテーブルの上に?」
「ああ。だってワープするなら宇宙船に連れ帰っても無駄だろう?」
「そりゃそうだよね~。でもなんでテーブルの上?」
「いや、今日現れた時この部屋をのぞき込むような感じだったからな。なあ、椿」
「はい。確かにこの部屋をのぞき込むように廊下にいました」
「だから、俺たちに興味があるのか、それともこの部屋に興味があるのかって話だが……」
「裕也が住む前よりこの家にいた人形が、今更この居間に執着しているとは思えないわね。それならずっとこの居間にいないといけないし、そうなると私たちってことね」
「そういうこと。ここで俺たちと一緒にいれば動かないかなってな」
「でも、仕事の時とか、寝る時とかどうするの?」
「別にこのままでいいと思う。一緒に寝たいなら止めないぞ?」
「それはいいや」
速攻添い寝は拒否するカカリア。
まあ、人形を抱いて寝たいとかは子供のころぐらいだしな。
いや、呪いの人形の可能性がある以上寝首をかかれたくないっていうのが強いか?
でもなー動くならどうしようもないし、そこら辺の労力をわざわざ使いたくない。
「あ、それでこの人形に興味を示した子が来たって話は? バイト候補なんでしょう?」
「ああ、そういえばそうだった」
あまりにも人形がSF的行動をしていたからそっちに集中してしまったが、葵ちゃんのことも話さないといけない。
「椿、調べは終わってるか?」
「はい。データ送りますね」
そういうと視界に葵ちゃんのデータが表示される。
「小野田葵ちゃんね。身長は164センチ、体重は52キロ、ちょっと痩せ気味だけど女の子だしこんなものかしら?」
「身長がたかいね~。僕よりも高いよ~。あとおっぱいも大きいよ~。椿と同じぐらい?」
「私の方が少し大きいですね」
と、普通に身長体重、スタイルに言及する女性陣。
まあ、女性からの意見だからセクハラにならないんだろうが、俺がこの情報を知る必要はあったのだろうが……。
いや、これは忘れることにしてほかの項目に目を向けるが……。
「特に問題はなしか。あえて言うなら生粋の夜星村の一族ってことか」
「はい。彼女自身には特に問題はありません。学校や近所の評判も上々、明るい性格で人気はあるようです。特に学業については学校始まって以来の天才ともいわれているようですね」
「全国模試21位だしな」
俺からすれば途方もない数字だ。
都道府県の数よりも少ないし、期待の星であるのは間違いないだろう。
まあ、だからこそ自分のやりたいことをするのに疑問を持っていたんだろうな。
大学に行ってもっと勉強しろ。私たちを助けるのはそのあとでいいって。
だが、そこら辺の問題は俺たちと話して解消されたようだ。
勉強をしつつ自分のやりたいことをやっていいんだといったしな。
彼女にとって勉強っていうのはいい成績をとって親を安心させるものでしかなかったのだ。
将来と言われてもピンと来なくて迷っていた。
そこに今日の会話で決心がついたようだ。
「そんな子が人形を調べたいってね~。ま、昔からこの村にいるなら土壌についてとか詳しそうだし、僕はいいと思うけどね」
「私も賛成ね。ほかに人がいるわけでもないし、まずは協力者がいたってことを喜ぶべきだと思うわ。条件としてもこれ以上ないってくらいの子だし。人形に触って呪われても喜びそうじゃない?」
「喜ぶかどうかはわかりませんけど、好ましい性格ではありましたね。裕也さんはどう思いますか?」
「俺も雇っていいと思ってる」
「じゃ、全員さんせーってことだね!」
ということで、小野田葵ちゃんの採用が決定したわけだが……。
「まあ、明日親御さんに説明に行かないといけないけどな。ちゃんと研究室の名刺とかあるのか?」
「はい。ありますよ。私たちは身分は佐藤さんがきっちりと用意してくれましたから」
「ちゃんと説明もできるわよ。もともと野菜とかの生産も予定していたんだし計画書もあるわ」
「一応僕たちがいた大学もあるしね。そこら辺の記憶もちょちょっといじってもらってるし」
どうやら、怪しまれるようなことはないぐらいに準備はしているようだ。
まあ、確かに少し調べただけで粗が出るような身分を用意したりはしないだろうなと納得する。
「じゃ、明日のことはいいとして、セージとカカリアは町の調査はどうだった?」
俺たちのことは準備が整っていると確認できれば今度はセージとカカリアの話を聞かないといけない。
何せ、塩と胡椒を売りに行ったっていう話だしな。
「ああ、無事に塩も胡椒も売れたわよ」
「うん。びっくりだよね。あれで大金貨5枚と金貨5枚だってさ」
「たった2キロで55万円分かよ。適正なのかちょっとわからないな」
「ドスアンさんに販売するときお礼として胡椒を分けた時に聞いたけど、大体適正価格より少し高いぐらいね。塩は精製率が良いって言われたわ。まあ、胡椒に関しては見知った形じゃなかったから少し不思議だったみたいね」
「見知った形じゃないって?」
「あそこまで細かく砕いたっていうのは珍しいのよ。こっちじゃ実そのままで売買しているみたいだし」
「ああ、胡椒の実そのままで、ミルで砕くってことか」
「保存方法を考えるとそっちの方がいいからねー。だから適正価格がよくわからなかったみたいだよ」
「なるほどな。それで出所とか聞かれなかったか?」
「もちろん。聞かれたわよ。だからゴヅアさんやドスアンさんに説明したのと同じ事故でこっちに来たから当面の資金がいるって言ったわ。そしたら素直に納得してくれて、故郷と連絡が取れたら是非教えてくれって」
「お金儲けには聡いよね~」
塩と胡椒を買い取りたいってことだろうな。
まあ、塩と胡椒合わせて2キロで55万とかびっくりだしな。
ざっくりで1キロ22万ぐらいで、100グラム当たり2万2千円。
めちゃくちゃ高いな。
こりゃ黒い宝石と言われただけはある。
「今の時期は仕入れに出ているから価格が高騰しているらしいのよ。倍ぐらいって言ってたわ」
「それでも10万か。まあ、塩コショウとかそこまで使う料理もないか?」
「普通味付け程度だと使っても数グラムね。少し料理の価格は上がるけど、使わないってわけじゃないみたいよ」
「なるほどな」
「今後は干した実を持っていくといいかもね」
「だな」
と、そんなことを話しながら、俺たちは明日に備えて休むのだった。
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