レポート30:「悩む学生」

「悩む学生」



現代の科学では、この世の出来事はある程度のことは説明がつくといわれている。

逆に言えばいまだに説明のつかない現象はあるということでもある。

だが、頭の中に声が聞こえたなどと言えばちょっと精神が病んでいると判断するのが世の常識だ。

とはいえ……。

俺たちは惑星調査を行っているわけで、そういう未確認の存在に対しても多少の理解はある。

宇宙で活動している佐藤さんたちにとってもわからないことはあるのだだから、いきなりわけのわからないことを言って来た彼女からとりあえず家に向かいながら話を聞くことにした。


「……なるほど。進路に困っていて神社でとりあえず学力向上を願ってお参りしたわけだ」

「……はい。親からも畑を継ぐにしても色々勉強した方が道が広がるし大学に行けって言われてて」


彼女は小野田葵|(おのだ あおい)。

この夜星村で生まれ育っている子でただいま18歳の初夏を迎えているわけだ。

容姿はスポーティーって感じで黒い長い髪をポニーテールにしている子だ。


「葵さんは大学行くのは嫌なんですか?」

「うーん、嫌ってわけじゃないんですけど。勉強のモチベーションが上がらないっていうか……。何がやりたいかっていうか……」


葵ちゃんが言ってる気持ちはよくわかる。


「俺も学生の時は困ったよ。これからの人生考えろって言われるとな」

「……はい。何が正しいかとか、迷惑にならないかとか、考えるとよくわからなくて。貯蓄だって、今までのお小遣い貯めたのがちょこっとあるだけで、勝手になにかできるわけでもないんです」


これから大人の社会に踏み出すことになる。

それに気持ちが追い付かないのだ。

まあ義務教育は中学生までではあるが、今の世の中、高校生までが当たり前。

大学もなるべく出た方がいいといわれる時代だ。

とはいえ、将来を考えてもなにも見えてこない。

大人でさえ、自分が何に向いているかなんてわからないんだ。

葵ちゃんが未来をビシッと決めている方が驚きだ。


「うんうん。何かとびぬけたものがあるわけでもないし、やりたいことがあるわけでもない。だから、勉強も身が入らないし、就職しても集中できない」


まあ、やりたいことに関してはあるにはあるが、食っていけるかというと違うので意味がない。

あくまでも趣味レベルだしな。


「だから気分転換に神社に来たと」

「昔から神社ではよく遊んでいたので、少し気持ちを落ち着けたくて」

「で、ついでにお参りをしたら、なんか天啓が下りたと」


脳内メッセージが。

今までは青春物語だったが、いきなりSFかホラーになってきたな。

いや、俺たちの存在がSFではあるけどさ。


「うっ。で、でも、本当に……」

「大丈夫ですよ。嘘を言っているとは思っていませんから。そうですよね裕也さん」

「ああ、そう言う声が聞こえたっていうのは事実なんだろうさ」


葵ちゃんにとってはと言わなかったのは俺の配慮だ。

若い10代ひょんな言葉からどう動くからわからないからな。

そこらへんは気を付ける。


「だからこうして話を聞いている。まあ、神様が何か感じて俺たちを紹介したみたいだしな」


俺としても今までの不可思議体験もあるから絶対葵ちゃんの夢という風に言い切るつもりはない。

何せ俺たちに何かあるのは間違いないからだ。

その点は怪しいとは思う。

そんなことを考えていると、俺たちは自宅へと戻ってくる。


「え? ここって空き家じゃ?」

「ああ、葵ちゃんは知らなかったのか。俺がここを買い取ったんだよ」

「そうだったんですか。そういえばお兄さんやお姉さんは見たことないから、観光客かなって思ってました。でも、時期じゃないしちょっと不思議でしたけど、ここに移住なんて珍しいですね」

「俺も色々あったんだよ」


いや、ただ何となくここに決めただけだが、ある意味妙な力が働いていたと言われても否定できないが。

家に上がりつつ話を続ける。


「葵ちゃんの話を聞く限り結構の間あの家って空き家だったんだな。園山さんから空き家だったねーぐらいしか聞いてないからな」

「あはは、園山さんってもうお年で、時間間隔があれですから。私もあってもつい最近までは小さかったのにって言われますし」

「あるあるだな」


年寄りから見れば俺たちなんて子供も同然ってことだ。

俺も地元に帰ればじい様ばあ様から大きくなったねとよく言われる。

いまだに健在のじい様ばあ様がすごいとは思うが、どれだけ年をとっても追いつけないなと思う。

そのままリビングに行って、お茶を出す。


「立派なお屋敷ですね~」

「値段は格安だったけどな」

「え? ここって出るんですか!?」


俺は多少怖がらせるつもりでそういったんだが、なぜか食いついてきた。

目が光っている気がする。

それは椿も気が付いたようで。


「えーと、葵さんはそういうお話が好きなんですか?」

「あ、えーと、はい。そういう話は好きです。ほら、なんか夢があるっていうか、知らない世界があるってワクワクして」

「怖いとかはないのか? 幽霊話って恐怖体験がほとんどだろ?」

「それはありますけど、それよりも好奇心が勝るっていうか。ほら、夜星村にもそういう話があるじゃないですか」

「え? そんなのがあるのか?」

「知らないんですか? えーと、どちらかというと妖怪のたぐいみたいな話ですけど……」


と、葵ちゃんは前置きをした話始める。

内容に関してはかなり前、戦国時代ぐらいのことで夜星村も今ほど人がおらず飢饉に見舞われたときに、ある旅の僧侶の話で子供を霊山のところへ生贄にしたらしい。

その後、飢饉は回避されその行為は正しいことと認識され、今後飢饉になれば子供を捧げて持ち直していたとか。


「いや、一種の姥捨て山、口減らしの話じゃないのか?」

「はい。そういう側面もあると思います。でも、話はそれで終わりじゃないんですよ。これが前提の話です」


確かに今のところ妖怪はできてきてないな。

ということで話を聞くことにする。


「それでですね。時折その霊山。まあ、ただの夜星山ですけどそこに登山に行く観光客とか散歩をしているじい様ばあ様が時折、偉いボロボロの和服をまとった子供見るっていうんですよ。でも、これじゃ妖怪じゃなくて幽霊話ですねよね。実はその子供には顔がなくて呼び止めた人たちがびっくりしている間に姿を消すっていう話なんです」

「のっぺらぼうかよ。狸が犯人じゃなかったか?」

「狢って当時は言われてましたね。って意外と知っているんですね」

「いや、これぐらいは大学出てたからな。そっち系の学部だったし」

「民俗学ですか!?」

「まあ、そんなもんだな。というかサークルでもそういうのはあるし」

「サークル!」


なんというか見た目スポーティな快活少女は怖い物好きというのはギャップがすごいな。

いや、元気いっぱいなのは間違いないからイメージからはずれていないのか?

というか、今の様子をみるに……。


「普通にその趣味を極めるために大学行けばいいんじゃないか?」

「えーと、そういうのっていいんですか?」

「別にいいだろ。別にいい大学に出たところで就職できるかっていうと今の時代不透明だしな」


有名大学をでてニートって紹介される番組があるほどだ。

学歴社会とか言いつつ、無学の人が有名になることも多くなってきたので、大事なのはやる気だと俺は思う。


「あるいは、上手く論文とかできるならそのまま院生になって教授とか目指してもいいだろうけどな」


民俗学の教授とか給与なんてそこまで多くはないだろうとは思うが。

いや、所属している大学とか次第か?


「はぁ、教授ですか。そういうのは考えてなかったですね」

「簡単じゃないぞ。ちゃんと勉強して成果を出さないといけないしな。それに狭い世界でもあるから面倒なこともあるが、まあそれはどの社会でも同じともいえるな。まあ、それを見極めるための大学生活でもあるんだけどな。あ、それとも農学部にでも行けって言われてるのか?」

「いえ、そういうのは言われてません。とにかく大学に行けって」

「それなら親御さんは葵ちゃんに好きに生きてほしいんだろうな。大学に行けばそれだけ視野が広がるし」

「視野ですか?」

「大学に入ると活動範囲がかなり広がるしな。今までは近所の都会とかだけど、他県にも出ていくこともよくあることになる。まあ、付き合い次第だけど、そこで見る風景も色々あるだろうさ。葵ちゃんってこの夜星村からでて生活したことってあるか?」

「いえ、それはあまり。家族との旅行ぐらいで……」

「ならその機会が増えるってことだ。まあ、勝手な外泊はダメだからちゃんと報告しておけよ」

「いえ、まだ大学に入ってもないですけどね」


と言ってお茶を飲む俺たち。

そして一息ついた後。


「よかったですね。やりたいことあったんですから、これから大学を目指せます」


椿が笑顔でそういうと……。


「はい。これで勉強に身が入りそうです。そうか、民俗学で幽霊って調べられるんだ」

「あー、まあ、調べるにしても方向性があれだけどな」


民俗学的に調べる幽霊関連は文献から時代考察をして、どういう理屈で生まれたかって話になる。

幽霊の実証関連は超常現象研究とか理系になるんじゃないか?

だが、俺はその時点であることも思い出して聞いてみることにする。


「聞き辛い話だが、今から行きたい大学探して、勉強って間に合うのか?」


大学受験なんて簡単に一夜漬けで受かるようなものじゃない。

基本的に高校の2年時から絞って勉強をしてようやくという人が多い。

3年の夏前にエンジン始動っていうのはよほど勉強ができないと、いい大学は狙えないはずだが……。


「あ、勉強は大丈夫です。この前の全国模試は21位でしたから」


漫画とか映画なら1位とか2位なんだろうが、それでも21位は凄い。

普通にいい大学を目指せるだろう。

いや、トップの大学を目指せるレベルだ。


「勉強できるんですね」

「というか、それで勉強に身が入らないってどういうことだよ」

「そのままの意味ですよ。なんで勉強しているのかわからなくて」

「お金を稼ぎたいなら医学部も目指せるだろうに」

「お金のためにお医者さんはどうもなーって思ってるんです。お父さんお母さんは苦笑いでしたけど」


そりゃ、医者を目指せる逸材なんだから大学行けっていうわな。


コトン……。


不意にそんな音がリビング、居間に響く。

なんか落としたかなと思って視線を向けるとそこには……。


「あ、日本人形ですね。かわいい。どこからか倒れたのかな?」


そう葵ちゃんがいうが、俺と椿はありえない事態に顔を真っ青にしつつ、葵ちゃんを引きずって距離を取るのであった。


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