レポート29:「人材を探す」
「人材を探す」
ちゅんちゅん……。
のんびりとした鳥の声が空に響く。
俺と椿は、佐藤さんと話を終えたあととりあえず近所を散歩してみることにした。
「人を雇うか……。ここは田舎で人がいなさ過ぎて無理か」
「そうですね。家が近いですから、泊りがけの仕事っていうのは説明し辛いですし。影武者のコピーを送り込めないことはないですが……」
「そこまでしてやるかって話だもんな」
『難しいのはわかるけど、まずは許可をもらえたことを喜んだ方がいいわよ』
『だね~。というか、田舎がだめなら都会に行けばいいじゃん。そういう所じゃ仕事探している人って多いでしょ』
「確かにな。そうだ、職業安定所に登録してみるか?」
「えーと、私たちは特に会社を立ち上げているわけじゃないですし業務の虚偽に当たるので難しいと」
『ならバイト感覚でいいんじゃないかしら? それなら個人に声をかけてもおかしくないし』
『え~、それって怪しいバイトだよ。死体洗いとかさ~』
どっかで聞いた都市伝説の話だな。
とはいえ、怪しさは満点なのは間違いない。
俺も頭がおかしい勧誘としか思えないしな。
それに……。
「バイトだと長期の雇用は難しいよな。まあ、それをきっかけにってことだろうが……」
『そうよ。まずはやってみないとわからないんだから。話を聞いてもらえる状況を作るためにまずはバイトで勧誘してみるの。まずは畑仕事募集とかで』
「なるほど。畑の研究の手伝いってことですね」
『そういうこと。別に宇宙に行くかどうかってことじゃないしね。目的は石を見れるようになる条件を探すことだし』
『あー、そっか。別に惑星調査に来てもらう必要はないのか』
ああ、そういう考え方もありだな。
俺たちが知りたいの石の条件確認だし、別に惑星調査員として雇う必要はないわけだ。
だが……。
「畑仕事のバイトで誰がくるんだよ」
「あんまり聞く話ではないですね。こういう仕事は身内を集めると聞きますし」
『まあ、作物を育てることだしね。大規模な農場ならちゃんとしたところを通して雇うでしょうけど、私たちはまだそういう段階でもないし』
『知り合いに話すしかないよね~。というか近くに農業学校とかないの? そういう所から引き抜けない?』
「農業学校の生徒は暇じゃないからな。勉強に学校の農作物を育てるのが優先だ」
農業をなめてはいけない。
自分だけが生きていくためならともかく、世に販売するための商品を育てようとすれば、相応の苦労が伴う。
楽な仕事なと世の中には存在しないのだ。
『そっかー。ま、そっちはそっちで頑張って僕たちは商業ギルドで塩、胡椒売ってくるからさ』
『とりあえず、1キロ袋を1つずついくらになるか楽しみね。詰め替えが大変だったし』
そう、カカリアとセージは本日商業ギルドに塩と胡椒を売りに言っている。
仕事は昨日経験したから、次は日本の物資を売ることができるかって話だ。
事前に冒険者ギルドのキアオさんからは塩や胡椒の買取なら商業ギルドがいいと話は聞いていたから、あとは実際に交渉するだけになるが……。
「あんまり下に見るようなら断っていいからな」
『うん。そういうやつとは交渉しないよ』
『そうね。相場については冒険者ギルドから書類ももらっているし、それを提示すれば最低限の確保はできると思うわ』
こういう時に大事なのは相手と交渉する力だ。
日本だと定価が当たり前と考えがちだが、それは店舗、つまり小売店。
俺たちが買い物をする場所にかぎる。
これが直売店、わかりやすいところで言うと八百屋などは仲買などが存在しないから、その場で値引きなどもしてくれる。
その人が値引く価値を認めてくれるということだ。
だからその価値を引き出せるかが、カカリア、セージに求められるというわけだ。
騙している、騙されたと思う人もいるかもしれないが、これは立派な交渉である。
まあ、露骨に不当な交渉をしようとすると今後没交渉になるから、そういう見極めも必要だが。
「よし、異世界のことはセージたちに任せるとして、問題は俺たちの方だ。というかそもそもバイトでも雇用契約の一種だしな、ちゃんとした会社じゃないと知り合いに声をかけるしかないよな?」
「ですね。知り合いでもないのにお金出すから手伝ってっていうのは相手も信用できないでしょう。反故にされる可能性もあるんですし」
「契約書でも用意するか?」
「用意するのは構いませんが、それを信じるのかというのは相手になります。まともな人ならちゃんと求人とかせめて会社の事務所があるかなどを調べますよね?」
「確かにな」
今どき求人も出してなくて会社もないような場所に行くとかありえない。
怪しさ満点だしな。
「つまり、町で勧誘はあまりお勧めできない?」
「ですね。まあ、バイトでの条件を絞ったうえであれば、この田舎……じゃなくて夜星村の方でもいいのではないでしょうか?」
「田舎なのは間違いない。日帰りのバイトとして探すなら夜星村も対象になるか……」
そんなことを話しつつ、いつの間にか家の反対側まで歩いてきていた。
まあ、見えるのは田んぼばかりなんだけどな。
いやー、のどかすぎる。
と、そんなことを考えていると、不意に田んぼ一つ向こうにある神社参道から一人の女性が下りてくるのが見える。
それは椿にも見えているようで……。
「こんな時間に珍しいですね。しかも、学生さんではないでしょうか?」
「え?」
そう言われてちょっと目に力を入れてみてみると、確かに高校から大学生かってぐらいの若い女性だ。
まあ田舎だと進学やめて家の手伝いするってことはままあるから学生である可能性は五分五分ぐらいか?
そんなことを考えていると、女性は参道を出て道路へと出ると辺りをきょろきょろとし始める。
何かを探している感じだが……。
「裕也さん。彼女とは知り合いですか?」
「いや、俺は見たことないな。まあ、町の人全員を知っているってわけじゃないしな」
学生ならなおさらだ。
通常朝から夕方までは学業があるから、俺が接触することなんてめったにない。
そんなことを考えていると、辺りをきょろきょろしていた彼女がこちらに視線を向けてピタッと止まる。
「こちらを見ていますね」
「見ているな。とりあえず、挨拶しておくか」
目が合ったのなら会釈の一つをする。
どうもという言葉も言うが相手には届いてないよなーと思いつつもなぜか言ってしまう。
すると彼女もこちらに対して会釈をしてきた。
とりあえず軽い挨拶は終わった。
「帰るか」
「はい」
ここで立ち止まっていても何かが進むわけもないので、気分転換も終わったので戻ることにする。
町で探すか、村で探すか。
どっちみち面倒でしかないのは間違いないようだ。
佐藤さんは本当にすごいことをしていたんだなーって実感する。
世の社長さんはこういうことをこなしているんだなー。マネジメントってすげー。
家に帰ってネットを見てバイトの採用方法とか探してみるのがいいかもしれないと思っていると。
「あのー!!」
後ろからかなりの大声で呼びかけられて振り返る。
すると、田んぼの間を走って抜けてこちらの道路に飛び出している神社の前にいた女性がいた。
他に誰かいるのかとあたりを見たがこの場所には彼女と俺たちしかいない。
特に逃げる理由もないので、立ち止まって待っているとさほど時間はかからず彼女は俺たちの前に到着した。
「はあ、はあ……」
なんか肩で息をしている。
まあ、距離を考えるとかなり頑張ったんだろうなって言うのは分かる。
でも、それだけ体力を使って走る意味があるのかというと俺にはわからない。
「えーと、初めましてですよね?」
椿もここまでして話しかけられる理由がわからないようで、とりあえず話しかけている。
どこかで会ったかもしれないという疑問を含めて。
「あ、はい。ふぅ……。いきなり呼び止めてすみませんでした」
「いえ、大丈夫ですけど。一体何があったんですか?」
「ああ、随分慌ててたみたいだけど?」
やはり初めてあうようで理由を改めて聞いてみると。
「あの、神社でお参りしてたら、頭の中に外に出ると運命の出会いがあるって言われて……」
「「……」」
俺と椿が沈黙したのは言うまでもない。
「え、えーと、あ、怪しいけど、怪しくないです! 本当です!」
彼女は必死に自分は大丈夫だとアピールをしているが、どこからどう見ても怪しい存在にしか見えない。
ああ、俺がやろうとしていることはこういうことなんだなと改めて思った。
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