レポート26:「初めての仕事の結果」

「初めての仕事の結果」



ちゅんちゅん……。


そんな鳥の声が森の中に響く。

ここは不帰の森ではなく、町から一時間ほど離れた場所にある森だ。

大きさに関しては確認していないが、キアオさんの情報では外周を回るならば1日ぐらいで終わる小さな森とのこと。

うん、徒歩とはいえ外周を回るだけで一日ってものすごく大きな気がするが、それは日本の感覚だろうな。

ジャングルとか出られない数か月レベルだし、日本だって山で遭難すると簡単には出られないっていうから、人が死ぬには十分な大きさがあるのだろう。

それに加えて……。


「しっかし、薬草よりも先にゴブリンが出てくるとは思わなかったよね~」

「おかげで楽に仕事は終わったからいいけど」

「まあな」


そう魔物の存在だ。

俺たちが薬草を取りに行く道中でゴブリンの群れと遭遇。

群れといっても3匹と4匹、最後に5匹の群れが出てきただけだ。

簡単にいうが一応鈍器を持っている子供サイズだったので命の危険はあったのだが、それでも見た目通りの力強さだったので、俺たちの前では特に障害になりえなかった。

ソードニードルリザードとはえらい違いだ。

その合計12匹から5匹に魔石が確認でき、その採取にも成功した。


「あとは、薬草を見つければいいんだが、絵だけじゃな……」


キアオさんに採取する薬草の姿についてはイラストを見せてもらったが、どうにもよくわからない。

イラストが下手というわけでもないのだが、知識のない俺からすればどれも同じ草に見える。


「群生地でもあればいいんだけど……」

「無理じゃない? 他の新人冒険者たちも薬草取りには来るって言ってるし、そんなのがあれば取りつくしてるよ」

「そうよねー」


意外と薬草探しは難航している。

確かにほかの商売敵もいるのだから取ってしまうのは当然のこと。

10株引き抜けば1銀貨なんだから、沢山あればそれだけ儲けが出るってことだ。

だから群生地なんて見つければ根こそぎ取っていってしまうだろう。

そこまで考えてあることに思い至る。


「全滅してないよな?」

「「……」」


俺の言葉を否定できない2人は沈黙する。

この文明時代に自然の保護という常識があるとは、申し訳ないが思えない。


「椿、渡した絵をもとに一帯の検索ってできるか?」

『できることはできますが、該当が多い場合と少ない場合があります』

「絵がどこまで正確かって話になるからね」

「でも、やってみた方がいいよね。あるかわからないものをずっと探すよりはましだよ。何よりシスティルちゃんと約束もあるし」

「だな。今後の予定も詰まっているし、頑張って無駄でしたってのは避けるべきだな」


俺たちにはそういう無駄を回避できる技術があるんだから、それを活用するに限る。


「そうね。もうこうして実際時間をかけているんだし、疑われることもないでしょう」


セージの言う通り、ありえない時間帯で仕事をこなしたわけじゃない。

実体験をする予定で道のりや実際の仕事をこなしているので、誰かに疑わることもない。


『わかりました。辺りにサーチをかけますので、少し待ってください。……サーチ中。終わりました、レーダーに表示します』


椿がそういうと視界内のレーダーに青点が輝く。

それも沢山。


「うひゃー。ずいぶんと多いね」

「イラストだけの情報だからね。現物がないのは今後は避けるべきね」


俺たちがイラストだけで行動しているのは、冒険者ギルドに薬草の在庫がなかったせいでもある。

まあ、何も情報なしで来るよりはましだったが。


「とりあえず、一つ一つ調べてみるしかないか」

「だね」

「それしかないわね」


ということで、さっそく行動を開始。

この薬草というのは群生するようなものではなくほかの草、所謂雑草の中にでもポッと生えるモノらしく、青い点が存在している場所を見てもそれらしきものはパッと見てもよくわからない。

近寄って草をかき分けて……。


「これか?」


俺は疑問を持ちつつもその草を採取する。


『スキャンをしてください。新種でもありますから。そこから成分調査ができます。それで多少判断ができるかと。こちらの認識できることであればですが』

「わかった。やらないよりはましだろう」


ということで、スキャン装置でスキャンをする。

解析が終了するまで俺は別の青点の方へ向かう。


「しかし、あちこちにあるな。同じものとは限らないが」


俺はそうつぶやきつつ、次の青点を見つけると同じように採取する。

その草と先ほど採取した草との差異は認められないから同じものだろう。

そんな感じで、採取を続けて気が付けば30株ほど採取していた。

ちなみに見つけた種類は2種類だ。

どちらもパット見た目は同じだが、茎の長さに違いがある。

そして茎の長い方が数は少なく10株程度だ。


『成分解析終了しました。一応、どちらも人体に対して薬効は存在します。なのでどちらとも持っていけばいいかと』

「わかった。じゃ、これぐらいだな。セージ、カカリアの方はどうだ?」


と、俺が分散して薬草を探していた二人に話を振ると。


「私も同じね。2種類で合計25株ってところ」

「僕は40株」


別の種類が見つかったわけでもないようだが、数はそれなりに取っている。

はずれで無ければ、十分宿代は稼いでいることになる。


「じゃ、帰るか」

「ええ」

「うん」


なので俺たちは特に悩むことなく、その場を離れて町に戻ることにする。

このまま粘っても時間の無駄と判断したわけだ。

そして、小一時間ほどかけて俺たちは町に戻り冒険者ギルドへ成果を報告したのだが……。



「わぁ、薬草だけじゃなくて、上薬草もこんなに。群生地でも見つけましたか?」


キアオさんは思った以上に俺たちの持ってきた草について驚いていた。


「えーと、これは薬草じゃないんですか?」


茎の長い方を取って確認をする。

名前からして薬草の上位互換のように聞こえるが、確認は必要だ。


「はい。そちらは薬草よりも効果が高く上薬草と言われるものです。あまりここ周辺で採取できる数は多くないです」

「なるほど。じゃ、こちらは仕事にはならないということですか?」

「いえ。上薬草も常時採取依頼を出していますよ。5株で銀貨3枚です」


マジか。10株で銀貨1枚の薬草と比べると上薬草は5株で実に60株分の価値があるということ。

つまり、俺たちは今回の採取で薬草を60株、上薬草を35株ということで、銀貨41枚、つまり金貨4枚と銀貨1枚という破格の収入を得たことになる。


「あとは、ゴブリンの退治も確認しました。こちらは12匹分ですね。なのでこちらの清算は銀貨2枚と銅貨3枚となります」


端数のゴブリンは銅貨1枚と鉄貨5枚ぶんの扱いになるようだ。

5匹セットで銀貨1枚になるようだ。


「最後におばあさんの荷物運びに関しても終了証の確認をいたしました。こちらは銅貨5枚ですね。合わせて金貨4枚、銀貨3枚、銅貨3枚ですね。確認ください」


トレーに差し出されたお金を確認してから受け取り書類にサインをする。

すると、その様子を見ていたキアオさんが笑顔で……。


「やっぱりユウヤさんたちはちゃんと計算もできるんですね」

「あ、ええ。それぐらいは」

「ふつう、そんなに早く計算ができる人なんてそんなにいないんですよ。ずいぶんと数字と慣れ親しんでいるんですね」

「そういう環境だったんで」

「確か、遠くの場所からトラップで飛ばされたとか」

「ええ。だから、こちらとは環境が違うのよ。それぐらいの計算はできないと社会貢献できないからね」

「まあ、勉強ばかりで面倒なんだけどね」

「なるほど。勉強ができるにはそれなりの事情があるというわけですね」


キアオさんは納得してくれたようだ。

しかし、少し暗算ができるぐらいで驚かれるとか、教育水準の低さがわかる話だ。

まあ、その教育に関してもここ100年前後で地球も発展してきたんだから、あまり人のことは馬鹿にできないか。

と、そこはいいとしてちょっと聞きたいことを聞いてみることにする。


「そういえば、薬草ということは、傷をすぐに治療したりするポーションや傷薬みたいなものはこちらでは売っているんですか?」


ミラクル回復薬。

冒険者の定番ともいえる薬があるのか確認してみると……。


「はい。ありますよ。あちらの売店で消耗品に関しては販売しています。ああ、それと解毒薬に関しては毒によって種類が色々ありますので錬金ギルドか、薬事ギルドに行かれる方がいいですよ」

「なるほど。細かいことになると専門へということですね」

「はい。全部が全部冒険者ギルドでやるわけにもいかないので」


確かに冒険者ギルドが生産業をやるわけにもいかないだろう。

冒険者ギルドが素材を回収して、ほかのギルドで生産を請け負うってことか。


「ありがとうございます。ちょっと在庫が厳しいんで覗いてみます」


そういって俺たちは売店の方へ顔を出す。


「回復薬ね。そんなものがあるのかしら?」

「あるよ。魔術があるんだから回復魔術を応用した薬が」

「……ほんとカカリアはそういう知識ばかりいれているわね」

「ロマンがあるんだよ」


そんなことを言いながら俺たちは売店のおじさんに色々見せてもらうことになった。

これぞ冒険者って感じだな。


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