レポート27:「成果を確認する」
「成果を確認する」
冒険から戻ってカカリアはシスティルちゃんとお話をするために下の食堂にいる。
そして、俺とセージは買ってきたものを確認しながら、冒険の成果についても話している。
「意外と今日は成果があったな」
「そうね。薬草をどう精製しているか、このポーションを見てわかるし、意外とわかることは多かったわ」
そう、俺が売店にいったのは薬草を利用して作った薬を確認するのが一番の目的だった。
成分解析は只今椿に任せているところで、俺はまず料金について確認をする。
「一本、銀貨3枚。つまり3万円ってことだが。原価を考えるとどうなんだろうな?」
「さあ、薬草1株でどれだけ精製できるかにかかってくるけど、在庫を見る限り100本以上はあるようだし、1株で一本ってわけじゃないわね。そうじゃないと採算が合わないわ」
「そうだよな。原価って言っても薬草だけじゃなくて、この木の入れ物に栓、輸送費、精製代とかいろいろあるからな。それで原価銀貨2枚は行きそうだ」
「あとは税金とかも取られるし、1株で3本ぐらいは精製できないときついんじゃないかしら? こういう時代の税金って日本でも良くて四公六民でしょ?」
「ああ、確かにそういう話はあったな。よく知ってるな」
「これでも勉強はするのよ。カカリアみたいに異世界ものを読み漁るなんてことはしないけど」
税金で半分持っていかれることは、珍しいことじゃないと考えるとセージの考えは間違っていないか。
「そういえば、今日の報酬に関しての税金とかってどうなるんだろうな?」
俺は財布から今回の報酬を取りだし、テーブルに金貨がコロっと転がる。
「確か、冒険者、というかギルド所属者はギルドが先に税金を抜いているから問題ないって話よ」
「ああ、会社が税金処理してくれるってやつか」
「そうね。定住もしていないし人頭税っていうのもないわ。定住している人はそういう税金も払わないといけないから大変よね」
「それでよくやっていけるよな」
「やっていけなくて逃げる人もいるみたいだけど、この町に限ってはそこまで税は重くない見たい。あれね。魔物っていう驚異があるから戦力を確保したいんでしょう」
「逃げられちゃ、防戦もできないか」
「ええ」
何とも世知辛い話だ。
どのみち命の危険には変わりないわけだ。
そんなことを考えていると、椿から連絡が届く。
『お待たせいたしました。先ほど送られてきたポーションの解析が終わりました』
そういうなり空中投影に一つの書類が浮かび上がる。
それを目で追って確認すると。
「えーと、なになに……。本当に回復するって書いてあるな」
「そうね。長さ10センチ、深さ2ミリ程度の切り傷なら僅か3秒で完治ね。速度も十分と。まあ、大けがになるとどうなるかわからないけど。使用方法が患部に振りかけることと、服用もあるけど全体的に効果が及ぶからその分遅れるか……」
『はい。効果としては治療と書いてありますが、治癒効果を高めて自然治癒能力が加速するというのが正しいです。足りない栄養、つまり傷口を復元するために必要なエネルギーを回復薬で補うという感じですね』
「普通に言っているけど、この薬が人体の細胞の代わりになるってことよね? どういう理屈よ?」
セージはそう言いながら試験管に移した緑色の液体を見つめている。
確かにあの液体がどうすれば切られた場所の復元に作用するのかさっぱりわからない。
『一種の万能細胞のようです。この世界の文明レベルでは考えられない薬ですね。あのような木の入れ物で変質しないのも驚きです』
「……カカリアがいう魔術のおかげってことかしら?」
『おそらくその可能性は高いかと。佐藤さんからのデータベースで魔術を使った治療行為はこのようなパターンは多いそうです。大事なのは使う側の認識なようで、人体に詳しくなければうまく回復できないこともあるようです』
「つまりそれって、この薬は私たちの意識や知識を読み取っているってこと?」
「なんかすごい話だな」
『いえ、読み取るというわけではないです……いえその通りなのかな? 簡単に言うとその薬は粘土のような性質を持っているようです。つまりその粘土をこねてどう使うかというのは使う側のイメージ次第なのです。読み取るというのは違い、魔力を通して変質させているので、どちらかというと使う人が自分で粘土を傷口に押し付けているという感じでしょうか?』
うーん、言っていることが分かるようなわからないような……。
「なるほどね。イメージ的には傷薬を手に取って自分で治療しているって感じね。それだと読み取っているというわけじゃないわね」
「ああ、そういうことか」
確かにそれは記憶を読み取っているのとは違うかな?
まあ、簡潔に言えば便利な薬って所だろう。
「まあ、これからも分析は続けることだし、薬の件はここらへんでってことで、あとはゴブリンの方はどうだ?」
『ゴブリンと呼ばれた生物の解析も終わっています』
同じようにデータが空中に投影される。
あれだ解体新書を写真で再現している感じだ。
正直グロい。
『ゴブリンは骨格的には小型の人です。とはいえ遺伝子配列などは人とは違いますが、特徴的なのはその繁殖に関することです。彼らの精子を確認したところ、同じ人型であれば受精させることができ相手を同種辱で限定する必要がないということが分かりました。つまり人の女性でもゴブリンを出産するということになります。異常に繁殖能力が高い生物ですね』
椿が特に恥じらいもなく説明をする。
まあ、科学的な意見だからそういうもんだろう。
セージも特にそういう面を見せることなく……。
「また厄介ね。というか、漫画のお約束みたいな生態。だからこそ常時討伐依頼を出しているんだと思うけど。こんなのがいたら女性は迂闊に外に出歩けないわ」
「確かにな。しかも、こういう魔物は自然発生するんだろう。なんだよこの世界」
最初はファンタジーすげーって思ってたけど、至るところで魔物が出現する可能性がある世界って怖すぎると実感した。
だが、そこである違和感が出てくる。
「なんで町とか村の真ん中に魔物が出てこないんだろうな?」
「それは私も不思議に思ったわ。でも、今のところそういうのは分からないわね」
『一応、惑星調査のデータでは魔力が一定の蓄積をもって魔物が出現するということは証明されています。それがこの惑星にどこまで適応されるかはわかりませんが、人がいる場所ではそういう蓄積がないのかもしれません』
「ほかの惑星でもこういう現象はあるのか」
「ま、世界は広いのよ」
『そうですね。世界が広いのは助かります。こうして初めてかと思う事柄に対して、ある程度予測が立てられますから。先人の知恵に感謝です』
確かに、誰も何も知らないことに挑むよりははるかにマシか。
佐藤さんたちの今までの頑張りに本当に感謝だ。
「あ、それとゴブリンから摘出した魔石についてはどうだ?」
『こちらは調査しているのですが、おそらく魔力の結晶かと』
「そりゃ、魔石だものね」
「まあ、魔道具の燃料になるっていうのは聞いてたしな」
此方が知っている情報を提供されてちょっと拍子抜けしてしまう。
『とはいえ、やはり計測はできないのです。ほかの惑星で存在が証明された魔術とはやはり性質が違うようです』
「なるほど。データ上に該当するものはないってことね。やっぱりこれはこの惑星特有なことが証明されたと」
『はい。そうなります』
なるほどな。
やっぱり、特定の誰かにしか見えないものっていうのはこの惑星が初めてってことか。
凄いことだとは思う反面、不安が出てくるのも事実だが……。
「結局、証明する方法ってなんだろうな?」
「そうね。とりあえず、また佐藤さんに来てもらって現物を見てもらうしかないと思うわ」
『はい。それが良いかと思います。まあ、外にも対象がいればいいんですが。そう都合よくいるわけでもないですし』
「条件が不思議でいまだにわからないからな。と、そういえばどの人形を触ればわかるっていうのも調べないといけないよな。やっぱり地元で協力者を探す必要があるか?」
「どのレベルの協力者を呼び寄せるかって話にもなるわよね。こちらのことを説明せずに来てもらうっていうのもあるけど……」
「今後を考えるとしっかり協力してもらいっていうのもあるよな。そういう採用に関しては佐藤さんは何て言ってるんだ?」
『必要人員に関しては佐藤さんに一度報告して許可がもらえれば裕也さんの判断で加入を認められます』
「現地採用の人がさらに採用していいのか」
なんつーでたらめな。
とは思うが、支店の写真を集めるために現地で人を雇うのは当たり前のことか。
「とりあえず、宿代はそれなりに確保できたし、あとは商業ギルドに塩と胡椒を下ろしに行ってみるか?」
「それすぐに必要かしら? いったん冒険に出るってことで人を集めた方がいいんじゃない?」
「んー。遠出をするほど経験を積んでいるように見えるかな? 実際どこに行ってたのか聞かれるだろう? それなら町で情報を集めてたって体を取った方がよくないか?」
「むう。そういわれるとそうね。下手に冒険にでたっていうのは無理があるわね」
「こっちの町に残って情報を集める側と、家に戻って追加の人員を探すってことで別れていいんじゃないか?」
「んー。そうね。ある程度場所は落ち着いたし、二手に分かれるのも手か」
そんな感じで、俺たちは今後の予定について話し合っていくのだった。
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