レポート25:「町でのお仕事」
「町でのお仕事」
冒険者ギルド。
それは、よくあるファンタジーの定番であり、多くのイベントが起こるところでもある。
まあ、そりゃ町や近隣の村の何でも屋だ。
イベントが起こるのは当然。
それをイベントと認識するのか、日常と認識するのかで代わってくるだろう。
あれだよな。
特別な仕事に就いたと思っている当初は何でも新鮮だが、あとはルーチンワークになるわけだ。
まあ、何事も日常に置換されるってわけだ。
だからこそ、人死にが沢山出ているはずの冒険者という職業も忌諱されることなく、そういうものだと認識されているからな。
人の命が安いって言い方は悪いが、そういうものだ。
現代社会でもそういうことはあるしな。
だが、それでも定番の絡みもないのは意外だった。
俺はともかくセージは美人でカカリアは小さい。
絡まれる要素はこれでもかとあると思ったんだが、それもない。
というか、むしろ冒険者の人々が気を使ってくれているような気がする。
本日の仕事を張っている掲示板にセージたちが近づくと道を開けるぐらいだ。
こういう仕事って取り合いになるんじゃないのか?
そう首を傾げていると……。
「あ、みなさん。おはようございます」
キアオさんが声をかけてくれた。
「どうもおはようございます。あの、ちょっと仕事について相談に乗ってくれますか?」
俺はとりあえず確保した仕事の依頼書をもって見せる。
「はい。大丈夫ですよ。こちらにどうぞ」
ということで、俺たちはキアオさんがいるカウンターへと向かう。
「それで、相談というのは?」
「えーと、こちらの仕事についてなんですが、概要を聞いておきたいなと思いまして」
俺はそう言って、セージたちと相談して確保した3枚依頼書を見せる。
「拝見いたしますね。内容は、町のおばあさんの荷物動かし、薬草取り、ゴブリン退治ですね」
「ええ。どちらも抽象的なんで詳しく聞かせてもらいたくて」
そう貼ってあった依頼書は具体的な数字が記載されていなかったのだ。
いや、依頼料は書いてあった町中の仕事が銅貨5枚、薬草取りが10株で銀貨1枚、ゴブリン退治が5体で1枚って記載はあるのだが、時間制限とか状態とか、何が証明になるとかがないのだ。
その旨を確認すると……。
「ああ、もちろんそういうのはありますけど、表現が難しいですね。まあ、一番最初の町の仕事に関しては大体半日程度までの拘束時間で、量は一部屋分ぐらいでしょうか? もちろん露骨に無理な量を頼まれればこちらに報告してかまいません。薬草の状態に関しては、根から回収していただけると助かります。萎びたりは程度ですが、枯れたりしていると効果が薄れるので一株1銅貨の価格が半額の鉄貨5枚以下になる可能性があります。ゴブリン退治の証明部位は左耳になっています。薬草とゴブリンの時間については特に制限はありませんが、先ほどいった薬草に関しては状態が大事になりますので、大体1日がいい程度でしょう」
「なるほど。そういう感じになるんですね」
特に不自然な点はないか。
あとは……。
「薬草取りやゴブリン退治の額を考えると基本的に1日で終わるものなんですよね?」
「はい。余程運が悪くなければ終わる程度の仕事です。そうでもないと新人さんが夜の森や街道で野宿する羽目になりますからね。それは危険なので」
確かにそうか。
新人向けって書いてあったからそういう条件じゃないと死亡率は高くなるよな。
冒険者ギルドとしても仕事ができる人を増やして収入を増やしたいってのもあるだろうし。
あ、それとさっきの女性を避けているような気がすることにちょっと聞いてみよう。
「あの、そういえば先ほど仕事を調べようとしているときにセージやカカリアが近づいたら道を開けてくれたんですが、あれが普通なんでしょうか?」
「え? ああ、なるほど。セージさんやカカリアさんはもちろんユウヤさんも身なりが整っていますから、やんごとなき身分の人と思われたのでしょう。そういう人も実際にいますから」
「あーつまり不敬を働いてってやつでしょうか?」
「はい。そうですね。そういうのは誰でも避けたいものですから」
女性だからというわけではなく、俺たちの後ろにあるモノを想像して道を開けたってことか。
まあ、それでトラブルを避けられるのはいいことか?
付き合いにもちょっと問題が出てくるかもしれないが、ドスアンさんとかゴヅアさんたちには普通に話しかけられたし、人によりけりって所か?
そんなことを考えているとキアオさんが……。
「それでどういたしますか? 仕事を受けられますか?」
「あー、セージたちとちょっと考えます」
「はい。そういう相談はしっかりした方がいいです」
ということで、いったんカウンターを離れてセージとカカリアで仕事の相談を始める。
「特に落とし穴みたいなのは無かったが、まあトラブルが起きれば一日潰れるっていうのは間違いなさそうだ」
「そういうのはどこでも起こりうるもよね。あとはどの仕事を受けるか。金銭面や調査に関しては薬草とゴブリン退治がいいとは思うけど……」
確かにこれからの生活費や調査のことを考えると薬草取りとゴブリン退治をして魔石の有無を確かめるのが大事だとは思う。
「町のお手伝いがどの程度のものかって知っときたいってのもあるな~。ほら、この惑星で色々調査するんでしょ? この町があるいみ足がかりなんだし、住んでいる人のお話が聞けるって貴重だとおもうけど?」
だが、カカリアのいうことも一理ある。
確かに目に見えない石の解明はするべきだが、それで惑星の調査が終わりというわけじゃない。
この町の人々との交流が色々な情報をもたらす可能性もまたある。
『どちらの意見もわかります。あとは裕也さんの判断かと』
「俺の?」
「そりゃそうよ。どれも決定打に欠けるんだから。あとはリーダーの裕也の判断になるわ」
「だね。そこはビシッと決めてみよう」
「わかった。そうだな……」
少し俺は目を閉じて……。
「よし、じゃ、まずはお婆さん家の荷物移動だ。3人でやれば早くできるだろう? それから時間が余っているなら3人で薬草探しとゴブリン退治だ。間に合わなければ明日に回せばいいし。どうだろう?」
「いいと思うわ」
「そうだね。それでおっけー」
ということで、仕事が決まったので受付をするためにキアオさんの所へ戻り受付をして貰ったのだが……。
「はい。受付はおばあさんの荷物移動だけでいいですよ。ほかの二つは恒常依頼なんで、品物を持ってくればそれで依頼達成とみなします」
「そうなんですか」
「ええ。ですからこの町のでの初仕事頑張ってください。あ、場所ってわかりますか?」
「いえ。教えていただけますか?」
おれがそういうと、キアオさんは町の地図を持ってきて、ある場所にバツを付けてくれた。
「ここが今いる冒険者ギルドで、こちらが依頼のおばあさんの家です」
「今行っても大丈夫なんでしょうか?」
「ええ。家で仕事をしているというお話ですから、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
依頼人がいることを確認して、俺たちは冒険者ギルドを出て、さっそく仕事に行くことにする。
昨日とは違う道を通るので、さらに町の様子がうかがえる。
主に石造りの家が多い。
木で作られている家もあるが、どちからというとやっぱり石が多い。
あと、臭いが相変わらずキツイ。
いや、住宅街の方に行けば行くほど臭いは強烈になっていく。
下水道の発明っていうのは偉大だったんだなーと実感する。
「うげー……」
「……正直気分は良くないわね。これ、町の仕事って今後は避けた方がいいかも」
「だな……」
とりあえず、仕事を受けてしまったのだら、そこはちゃんとこなそうという義務感で俺たちは臭い道を歩いて目的地到着した。
そこは木造りの家だった。
「すみません。冒険者ギルドで仕事を受けたものです」
と、ドアを叩きながら自己紹介をすると、ちょっと間があってからドアが開いて……。
「どうも、依頼を出したゾナと申します」
そうおばあさんが出てきた。
文字通りおばあさんって感じですでに髪は白髪になっていて、ケープを肩から掛けている。
そのまんまのおばあさんって恰好だった。
「どうも。冒険者のユウヤと申します。こちらはセージとカカリア」
俺が紹介をするとおばあさんは少し驚いたようで。
「あら、3人も来て下さったんですね。それでも依頼料は同じですが?」
「はい。それは承知の上です。3人でやった方が早く終わって次の仕事にもかかれるかと思いました」
「なるほど。そうですね。では、こちらに」
そう言われて案内された部屋には色々荷物が散乱していて誇りが積もっている。
「ここは物置でね。使わなくなったものを置いているんだけど、結局再利用をしようとは思えなくてね。何よりこんな体だから。だから、この荷物たち、家具を外に出してほしいの。家具屋に買取を頼んでいるんだけど、家から出すのは別料金だって言われてね。それも銀貨1枚っていうから」
「なるほど」
良くある話だ。
無料引き取りとか言っておいて、実は細々料金がかかるシステム。
色々問題になっているがこういう時代からあるのか。
いや、事前に料金を言っているからまだましかもな。
量にかんしては、まあそれなりに多い。
重くて一人で動かすには苦労しそうだが……。
「じゃ、やりましょうか」
「うん。パパッと終わらせよう」
「だな」
3人でやれば早いものだし、掃除も含めてものの小一時間で終わってしまった。
3人で銅貨5枚、日本円で5000円程度だが、一人当たり1600円の時給と考えれば十分だろう。
おばあさんも喜んでくれ、引き取り業者も今日中に来てくれるという話になったようで何よりだ。
じゃ、あとは、薬草取りとゴブリン退治か。
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