レポート24:「町での今後の予定」

「町での今後の予定」



夜のとばりが落ちて静まり返った小鳥の宿。

その一室で俺たちは今後のことを話し合っていた。


「とりあえず3日分ね。残りのお金を考えても6日分。ずいぶんと厳しいわね」

「もっと安い宿もあるってゴヅアさんは言ってたけど、汚いとかご飯でないとか、治安悪いとかいってたよねー」

「そういうのは避けたいな。安全だとわかっていても、そういう状況に身を置きたくはない」


俺がそういうと2人も頷く。

正直に言えば小鳥の宿も日本のビジネスホテル以下なんだよな。

まあ、比べるだけ間違いなんだけど。


『そうなると当面はお金を稼ぐ必要がありますね。まあ、正直お金を払って泊まる必要性はないんですが』

「それは最後の手段にしておきましょう。今のところゴヅアさんやドスアンさん、エイサさんとかに知り合いになっているし、気にかけられているからうかつにそういうことはできないわ」

「お金がないのにどうやって生活しているのかって疑われるもんね。とりあえず明日冒険者ギルドで仕事を確認してみようよ」

「そうだな。とはいえ、一日一人当たり1万円って結構な額だよな。それだけ稼げるか正直心配だ」


意外と小鳥の宿は高いような気がする。

まあ、それだけ安全面や衛生管理ができているってことなんだが、今の財布の中身を考えるとな。

そう思っていると……。


『それでしたら、塩コショウなどを売却してはどうですか?」

「ああ、そういえばそっちの価値は聞いてなかったものね」

「こういう所だと高値で買ってくれるかもしれないしね」

「そうか。それがあったか。でも、変な奴に目を付けられないか?」

『可能性はありますが、先に立つものがないですし、仕事で賄えない場合は仕方ないかと』

「そうね。もともと調査を目的に来たんだから、それがおろそかになるならそういう方法でお金は稼いだ方がいいわ」

「だね。本末転倒になるのはダメだよ」


確かにな、調査のために来ているのに日銭を稼ぐのに精いっぱいっていうのはおかしいよな。


「調査で思い出したが、魔物を討伐した際の魔石って話覚えているか?」


そう、今日キアオさんから説明された魔物の剥ぎ取り部位に関してだ。


「ええ。覚えているわ。魔石、魔物の心臓部についているって話ね。でも大きさがおかしかったわ」

「うん。確か小指ほどの大きさがあるって。それがゴブリンとか動物型の魔物に多いって。強力な魔物になると拳の大きさから人の頭ほどって言ってたね」


魔石。

それは冒険者ギルドが最優先で買い取っているものだ。

魔物の魔力が凝縮して固まったもので、魔術道具を作る時にも必要であるし、動かす燃料にもなるものらしい。

そのおかげで夜は室内であれば意外と明るい。

魔術ランプというものがあって、火を使うことなくあたりを照らせるからだ。

とはいえ、ランプ自体も高い物ではあるのでこういう高めの宿とか余裕がある家ぐらいしか置いてない。

ゴヅアさんの家ではランプが出てきたがあまり使用している感じはなかった。

まあ、夜は眠るものだしな。


『あのソードニードルリザードでしたか? 意外と弱いのはありえないですから、魔石が少ないタイプだったのでは?』

「その可能性はあるな。確か、同じ魔物でも魔石を持っている魔物と持っていない魔物がいるらしいから、何かしら原因があるんだろうな」


そう魔石に関しては魔物を倒せば必ず手に入る物ではないらしい。

だからこそ魔石の買取は高騰するし魔術道具は高くなるわけだ。

とはいえ、高いというぐらいで済む程度で、大金持ちしか持てないわけではないから魔石の取得率もそこまで低くはないんだろうと推察はできる。

そうなると……。


「明日からは魔物討伐を受けた方がいいのか?」

「ん~。明日一日はお手伝い系をして町の人から話を聞くことにした方がいいんじゃないかしら?」

「僕としてはどっちをやるにしても事前の情報収集は大事だと思うよ」

「確かにカカリアの言う通りだな。魔物退治系でもお手伝い系でも割に合わない仕事もあるだろうしな」

「そうね。報酬金額の兼ね合いもあるし、情報が最優先か」

『はい。まずは情報を集めてから仕事を受けてみるというのはいいでしょう』


そんな感じで予定を決めて、いったん家に戻りお風呂に入ってから宿で休む。

あれだ。流石に2日も風呂に入らないって俺でもつらいからな。

セージとカカリアも入って長湯していたから、気にしてたんだろうな。

入浴の文化がないっていうのは色々つらいな。

とはいえ、ゴヅアさんと離れたおかげでこうしてこっそり戻ることはできるようになったから多少は行動制限が緩和されてきた。

あとは、いかにして情報をあつめるかだな。

などと考えていると、あっという間に眠りについた。



「……ん?」


気がつけば朝陽が登っている。

肉体的にはそこまで負担がないとはいえ、精神的には色々なことが合って疲れていたんだろうな。

そんなことを考えつつ体を起こして周囲を見ると、セージやカカリアはまだ寝ているようだ。

腕時計を確認すると6時を少し過ぎたころ。

日本でならまだ朝は早すぎるという時間帯だが、宿の外ではもう人がかなり出歩いている。

昔の人は日の出とともに起きて活動するっていうから、これが普通なんだろうな。

いや、地球の電気という明かりがあるからできる限り働けっていうのが無茶だよな。

自然に逆らった夜更かしはいけないと思う。

ゲームとかの遊びは別として。

そんなことを考えていると、下の階からカランカランと重厚な鈴の音が聞こえてくる。

なんだったけ? 

ドスアンさんから説明を受けたような……と思っていると。


『ぱんがやけました~』


とシスティルのかわいい声が宿に響く。

そうだ、パンが焼けた合図だったか。

つまり、宿の食事はいまからだ。

なんだか遅くないかと思いがちだが、冒険者ギルドで仕事を受け付けてきてから食事をしてもいいし、実際余程の予定でもない限り、この時間はまだ動き始めなのでそこまで遅くもないらしい。

そんなことを考えていると……。


「焼きたてパン!」

「……もうそんな時間?」


カカリアはがばっと、セージは眠たそうにしつつも体を起こした。


「おはよう。朝食に行くか?」

「行く!」

「……そうね」


俺たちは多少身なりを整えたあと宿の一階にある食堂へ赴くと……。


「「「……」」」


もくもくと朝ごはんを食べている男たちが存在していた。

朝から騒がれてもあれだが、こうも静かなのもどうなんだろうか?

いや、まあ、わざわざ話すこともなればこういうもんか?

そう思いつつ、どこに座ったものかとあたりを見回していると……。


「あ、カカリアちゃん! みんな~!」


そんな声が聞こえて振り返ると、システィルちゃんとドスアンさんがパンをもって立っている。


「おはようございます」

「おう。おはよう。今パンが焼けたところだ。スープはあっち。隣に焼いた肉」

「ありがとうございます。じゃ、座って食べようか」

「ねぇ。お父さん、カカリアちゃんたちと食べていい?」

「ああ、いいぞ。3人ともシスティルをお願いできるか?」

「はい。大丈夫ですよ」

「問題ないわ」

「まっかせてよ。じゃ、システィルあっちで食べようか」

「うん!」


カカリアとシスティルが開いている席に仲良く手を繋いで歩いていく。

周りは男しかいないから、同じ女でサイズが近いから気を許しているんだろうな。

セージと顔を見合わせてちょっと苦笑いしながら俺たち朝食を始める。


「それで、カカリアちゃんたちは今日はどうするの?」

「今日はお仕事探しかな」

「そっかー。遊べないかー」

「ごめんねー。時間が空いたら遊べるんだけどね」


システィルちゃんはカカリアと遊べないのが残念なようでしょんぼりとしている。

まあ、周りがこんなのだからな。


「なら、今日帰ったら遊ぼうか」

「いいの?」

「そうね。そこまで気合を入れて仕事をするつもりは今日はないし」

「やったー!」

「「なんでカカリアが喜ぶんだよ」」


と、2人でツッコミ入れつつ、俺たちはシスティルとの約束を果たすために朝食を食べた後冒険者ギルドに行くのであった。


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