レポート23:「宿へ」

「宿へ」



俺たちは今、冒険者ギルドの講習室へと移動していた。

先ほどの戦闘試験の結果、無事に合格をもらえたので、キアオさんから説明を受けているというわけだ。


「冒険者の仕事ですが……」


冒険者の仕事内容を改めて聞かせてもらっているが、大まかに言うと町の便利屋みたいな感じだ。

試験を受からないものは町の中での仕事が主にあっせんされて、その間に訓練を積んで試験に合格すれば魔物退治や盗賊退治などができるようになるらしい。

つまりだ、俺たちは基本的に試験を受けなくても街中での仕事はできたわけだ。

まあ、ゴヅアさんが説明したように俺たちは設定上帰る方法を探すために旅をしているんだから、戦闘試験をと突破できるぐらいの実力がないとどうしようもないだろう。


とはいえ、エイサさんを力余って殺してしまう寸前だったのは冷や汗かいた。

セージの治療で一命をとりとめて、本人は気が付くことなく一瞬気絶したかと思ったようで……。


『うわ~、口の中切ったか? 血でべたべただ。水浴びしてくる』


と、言ってすぐに立ち上がり移動したので、ゴヅアさんやキアオさんに治療のことはばれていないようだった。

反撃できるじゃんと思って普通にやったらあれだけの威力になるなんて思わなかったよな。

本当にこれから活動するときは注意しておかないと、いや、3人に頼んでそういう訓練をする必要があるな。

日本に戻ってうっかり人を殺しちゃったとか洒落にならない。

そう戻ってからの予定を決めつつキアオさんの説明を受ける。


「仕事の受付の際に仕事の内容をキチンと聞く必要があるのですが、ユウヤさんたちは文字が読めるのでその心配はないかと思われます」


文字の読めない冒険者というのも多いらしい。

それでどうやって仕事するんだよと思うが、識字率が高い日本だからこそ言えることか?

まあ、何かをどこで倒せっていう感じの仕事が多いからそこまで難しいことじゃないのか?


「最後に、仕事でのトラブルの際はその場での解決ではなく、冒険者ギルドへの報告をしてください。私たちも介入してちゃんと解決をいたします。無論、これは冒険者側だけでなく依頼人にもその権利があるので、ちゃんと礼儀を守って仕事をしてください」


うん、これも当然だな。

お互い気持ちよく仕事をしようって話だな。

そして問題が起きた際は自分たちで解決するのではなく冒険者ギルドに報告をしてからちゃんと組織として解決すると。

意外とそういう所はしっかりしているんだなと感心した。

失礼な言い方かもしれないが、こういう文明だと休みなしで働くのが普通って感じだし、そういうトラブルは個人で解決してくれてって思ってそうだもんな。

そう思っていると、講習室にゴヅアさんが入ってきて……。


「冒険者のカードができたぞ。説明はどうだ?」

「はい。今一通り説明したところです」

「そうか。ちょうどよかったな」


そういうとゴヅアさんは俺たちにカードを渡す。


「これが冒険者としての身分証ですか」

「ああ、ランクはエイサを倒したんだがDからだ。まだ実際の仕事でどのできるかわからないからな」

「当然ですね」

「ま、エイサを倒したというのは上に伝えているから、普通よりはランクの上がりは早いはずだ。あと、わかっていると思うが、カードはなくすなよ。再度発行はできるが、金がかかるし、一度仕事をした場所じゃないと再登録ができない。ユウヤたちのことを知らないから当然の話だ」


冒険者ギルド内で登録者データの共有などはしていないのか。

まあ、そんな簡単に情報のやり取りができる状況じゃないってことなんだろうな。


「仕事を受ける際にはカードを提示してください。それで受付をします。つまりカードがないと仕事も受けられませんので、紛失には本当にご注意ください。ゴヅアさんの言うように再発行にはちゃんとユウヤ様たちと顔を合わせたものがいないとできないので場合によっては再発行ができないこともあります」

「そうなると、冒険者ギルドの人と交流しておいた方がいいってことですね?」

「はい。そうですね。とはいえ、普通に仕事の受付をしていると特定の誰かにだけ交流するというのは難しいですし、何よりユウヤ様たちはエイサさんを倒していますので、それだけで多少有名になっていますから、問題はないかと。まあ、だからと言ってなくしていいわけではありませんが」


という感じで説明会は終わった。

俺たちは冒険者ギルドの受付に戻り今後のことを話ことになった。


「それで、ユウヤたちはこれからどうするんだ?」

「とりあえず、情報収集の前に買取りと仕事を探して資金集めかな」

「ま、それしかないな。俺は明日に帰る予定だ。それまでに何かあれば、冒険者ギルドに来ると言い。ここの宿舎に泊まっている」

「わかった。ありがとう。って、その前にどこかおすすめの宿はあるか?」

「あ~、それもそうだな。じゃ、換金が終わったら案内してやるよ」


なので俺たちは受付の隣の倉庫、資材倉庫に足を運びソードニードルリザードの棘を買い取ってもらうことになった。

どうやら買取場所は分けているようだ。

いや、よくよく考えれば死体を持ってくることもあるんだから、色々な意味で汚いしくさいだろうから、当然の判断だと思う。

なお、持ち込んだものを見て買取を担当していた、血の付いたエプロンを来たおじさんはモノをみて驚いていた。

それだけソードニードルリザードっていうのは凶悪なんだろうな。


しかし、それだけの強さでCからBランクっていうんだから、Aランクとなんだよと思って聞いてみたら、ドラゴンとか大型ゴーレムとかでどうやって人で倒すんだよってレベルだった。

しかし、それを倒せる冒険者もいるし、軍が動けば被害はでるが倒せるって話だからこの世界の人たちも侮れないと思う。


さらに上の魔物もいるようだが、そういうのは過ぎ去るのを待つしかないという話。

いや、どこのゴジ〇だよ。

そういう危険生物がいるなら注意しないとな。

そんなことを考えていると、お金をトレーに入れておじさんが戻ってきた。


「今だと金貨2枚ってところだ。これでいいなら受領サインを頼む」


そういってペンを渡してくるが、どれぐらいの額が適正なのかは俺にはさっぱりなのでゴヅアさんに視線を向けると。


「適正金額だから問題ない。ソードニードルリザードの本体とか金貨100枚はくだらないからな。それを考えると少し少ないか?」

「そりゃ棘が二本だけだしな。そんなもんだよ」


ゴヅアさんが問題ないっていうなら俺も気にしないのでサインをしてお金を受け取る。


「おう。また何か手に入れてら持ってきてくれ。捌くのが苦手ならこっちで引き受けるぞ。金はいただくがな」


気持ちのいいおじさんだ。

何かあれば相談も乗ってくれそうだなと思いつつ、俺たちは宿へと足を運ぶ。

場所はそこまで冒険者ギルドから離れておらず、ものの数分で着く。


「ここが小鳥の宿だ。冒険者が多く利用しているし、冒険者ギルドともつながりがあるからそうそう問題も起きない。なにより……」

「いらっしゃい。って、ゴヅアか」


そういってカウンターの奥から出てきたのはゴヅアさんを超える巨漢の髭もじゃの男性。

え? 小鳥? どこか?


「あ、ゴヅアのおじさんいらっしゃーい!」


するとその巨漢の下から声が下と思ったら、片手で数えられそうな小さな女の子がいた。


「久しぶりです。ドスアンさん。元気そうだな、システィル」


ゴヅアさんが頭を下げて挨拶をしたということはかなりの人なんだろう。

いや、そんなことは見ればわかる。

あの巨漢から出てくる威圧は半端ない。


「このドスアンさんがいるのに問題を起こす馬鹿がいると思うか? これでも元Bランクまで言った冒険者だからな。俺の先輩でもある」

「ん? 見たところ新人の案内か?」

「ああ。今日冒険者になったばかりのユウヤ、セージ、カカリアだ。試験ではエイサを倒して、体力は俺よりも上。とはいえ、こんな感じだ」

「どうも、お世話になります」

「よろしくお願いするわ」

「よろしくねー」

「ほう。珍しいな。それだけ実力があるのに丸いってのは」

「あはは、礼儀正しくあれって教えだったんで。今日からお世話になります」


俺は改めて挨拶をすると、ドスアンさんはガハハと笑って。


「おう。お前さんたちのような連中なら面倒がなくて楽だし、何より……」

「ねえ。お姉ちゃんたちお話しよ~」


システィルちゃんがセージとカカリアの手を取って楽しそうにしている。


「最近は厳つい男ばかりだからな。システィルも喜ぶから歓迎だ。とはいえ、あまり迷惑なら追い返していいからな」

「いえ、大丈夫ですよ。システィルだったかしら。よろしくね、私はセージっていうの」

「僕はカカリアだよ」

「うん。私はシスティル。よろしく~! ねえ、あっちでお話しよう!」


そういって手を引っ張って行ってしまう。


「元気なお子さんですね」

「そうだろう。と、それで何泊の予定だ? この宿は1日1食つきで銀貨1枚。3人だから3枚だな」

「えーと、申し訳ないですが、この町に来たばかりで金貨と銀貨の価値がよくわかっていないんですが、これで何泊できますか?」


金貨をとりあえず1枚差し出すと……。


「ん? そんな遠くから来たのか?」

「どうやら転移トラップに引っかかって遠くから来たみたいなんだよ」

「ほう、まだそんなトラップがのこってたか、というかよく生きてたな」

「自覚はないんですけどね。話を聞く限り幸運でした。それで……」

「ああ、金貨は銀貨10枚分だ。その上に大金貨が金貨の10枚分、さらにその上に白金貨っていうのが存在している。つまり、3泊分だな」

「なるほど。じゃあ3泊分でお願いします」


つまり一人であれば金貨1枚で10日は泊まれるわけか。

日本で考えると宿って一泊5千円から1万円前後が基本的な額だから……高く見積もって1万円として、金貨1枚は10万円の価値があるってわけか。

実際は金の含有率の問題があるから、どれだけの額になるかはわからないけが。


とりあえずこうして宿の確保に成功するのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る