レポート22:「戦闘試験」

「戦闘試験」



俺たちは冒険者ギルドの中庭に用意されている訓練場にやってきていた。

そこは意外と広くてちょっと小さいぐらいのグラウンドが存在していて、そこを走っている人たちも見受けられる。


「ここが訓練場だ。冒険者ってのは体が資本で、戦うことがメインになることがおおい。だからここは冒険者たちに開放してこうして訓練をしているのさ」


と、俺たちの試験官であるエイサさんが説明をしてくれる。

まあ、予想通りではある戦うことが多い職業なのに体を動かす場所がないっていうのはちょっとなーって思うし。


「そういえば。エイサさんはゴヅアさんとはどういう関係で?」


セージが俺たちの聞きたかったことを聞いてくれる。


「ん? ゴヅアとは同じパーティーだったんだよ。ヒュイルもな。だからこいつら二人がくっついてパーティーは解散。私もここで働くことにしたってわけだ。今更ほかのパーティーに入るのは面倒だしな。ほれ、私っていい女だろ? 冒険者は男が多いからな襲われかねない」


俺は確かにって思っていたのだが、後ろにいたゴヅアさんは吹き出していた。


「お前が襲われるとか、襲った側を同情しないといけないだろう。攻撃だけなら俺よりも上なんだし」

「体力馬鹿は私の攻撃を受けきるくせに何ってるんだよ」


どうやら彼女はかなりの腕の持ち主なんだろう。

そうでもないと、こうして俺たちの試験役になることはないし。

そんなことを考えていると、グランドの中央に来たと思ったらエイサさんは振り返って……。


「ということで、さっそく試験を始めようか。まずはそこのちっこいのからだ」

「ちっこいっていうな。カカリアだよ」

「悪い悪い。カカリアだな。とはいえ、冒険者は遊びでやっていい職業じゃないんだ。負ければ死は当たり前、女とか特に悲惨な目に合うからな。実力がないと思えばすぐに失格を出すからな」


そういって、エイサはカカリアに持っていた木の剣を投げ渡す。


「試験の内容は単純。私と勝負だ。勝ち負けは特に影響しない。私やキアオが納得できればそれでいいが、まあ、そんなに甘くない。ゴヅアやヒュイルと一緒に修羅場はくぐっているからね。キアオ。ちゃんと見ておきなよ」

「はい。では、両者目の前の線の前に。はい、それで大丈夫です」


試合開始位置はお互い結構距離が離れている。

とはいえ、せいぜい20メートルほど。

あれかな武器による違いもあるからか?

でも、こんなに近いと弓を構えて撃てても一発二発だろう。

エイサさんは当然のように自然体だし、対してカカリアも特に緊張した様子はない。

さあ、宇宙の技術はどれだけ通用するんだろうか?

そう思っているとキアオさんが腕を振り上げて……。


「試合開始」


そういって腕を振り下げた。

さ、どう動くのかと思ったが、カカリアはいきなり飛び込んで一足でエイサさんの懐に踏み込み、木剣をがら空きの胴体に叩き込んだ……と思ったらエイサさんはとび引いて攻撃を躱していた。


「ちょ、え、なんだよその動き!?」


余裕をもって躱したと思っていたエイサさんは思いのほか動揺していて……。


「ありゃ、外した。じゃ、もっとペース上げるよ」


カカリアの方も躱されたのが意外なようで、それでいてうれしいようでさらに踏み込む。


「へぇ。やっぱりすごいわね……」


と、俺の横にいたセージがこぼすと頭の中で椿から声が届く。


『はい。あのエイサさんという方、カカリアの速度についてきました。ゴヅアさんと同じように普通であれば人にはほぼ反射できないような速度です。それに反応しているということはやはり何かしら特殊な技術があるとみていいでしょう』


そういえば忘れていたが、やはりこの惑星には俺たちの知らない法則、技術が存在していてそれが身体能力に影響しているようだ。

だが……。


カンカン……。


そんな木剣が打ち合うような音はわずか4回ほどで終わり。


ドゴッ!


という鈍い音がしてエイサさんがふっとんで地面に転がる羽目になった。


「ちょっ!?」


流石に俺も驚いた。

木の剣とはいえ人体が5メートルほど転がる威力って致死量じゃないか!?

早く治療をと思って駆けだそうとしたら、エイサさんがふらふらとはしていたがちゃんとその場で立ち上がる。


「いつつ。とび引かなかったらやばかったね。というか加減したね。掬いあげられた感じがしたよ」


え? あれで加減?

マジかよと思ってカカリアに視線を向けると、カカリアは肩に木剣をあててトントンとしながら……。


「そりゃ、殺すのはまずいでしょ。ゴヅアさんの知り合いなんだし冒険者ギルドの人なんでしょ?」


と、普通に答える。

いや、殺さないのは正解だと思うけどさ、俺もカカリアがそこまでできるとか思ってねーよ。


「で、どうする? 続きする?」

「いや、十分だよ。まさか、ここまでなんてね。あーいた。キアオ頼む」

「は、はいっ」


なぜかエイサさんはキアオさんを呼びつけたかと思うと……。


「今ひとたび彼のモノに命の雫を」


そんなことを言い出したと思ったら緑色に発光したと思ったら水球みたいなのが空中に浮かんでいて、それがエイサさんの頭の上ではじけて降り注ぐ。


「ふぅ。ありがとう。ましになったよ」


どことなしか、エイサさんの表情が和らいだように感じる。


「ねえ。ゴヅアさんさっきのはなに?」

「ん? 回復魔術は見たことないか?」

「かいふく?」

「ああ、さっきエイサにかかった水があるだろう? あれが命の雫って言って怪我を治す効果があるんだよ」


マジか、何というか俺が思い描いていた、光を浴びるだけで回復ってことはないようだ。

水を浴びるか……風邪をひきそうだ。

そんな検討違いのことを考えていると……。


「よし、次はおっきい方の女だ」

「セージよ。よろしく」


なんか続けるようで次はセージが指名される。

ん? まてこれって俺が一番最後?

いやいや、一番練度が低いのって俺だぞ?

どうしたらいいんだと思っていると、試験が終わったカカリアがこちらにやってきたのでさっそく相談してみる。


「なあ、どうすればいいんだ? 全力はダメなんだろう?」

「え? ああ、そりゃ全力出したらエイサさんがひき肉になっちゃうよ」


うん、ドストレートな表現ありがとう。

おかげでなおのこと実力が出しづらいじゃないか。


「そこまで気にしなくていいよ。見てから反応すればしいし。戦闘モードオンにしてれば大丈夫」


戦闘モードというのはなんというか体の中にスイッチがあって、それをオンにすると周りの動きが緩慢、つまり遅くなって感じる技術だ。

アドレナリンを分泌してゾーン状態を保つとかなんとか言ってたな。

まあ、本物のゾーンはさらに色々見えるとか言ってたな。

相手の動きとかどこに攻撃すれば相手を行動不能にできるとか、そういうのが分かるようになってくるらしいが、俺はそこまで訓練を重ねているわけじゃないからな。

身体能力でごり押しするしかないが……。


「なんかほかに具体的なアドバイスとかないか?」

「そうだね。あ、僕もやったけど、セージが今やっているみたいに……」


そういってセージに視線を向けると……。


カンカン……。


と木剣が打ち合う音が響いている。


「エイサの攻撃を受けて感じをつかむといいよ。どれぐらいの攻撃をしているかって体感でわかるからさ」

「ああ、なるほど」


確かに手から伝わる衝撃でどれぐらいの威力かっていうのは、椿たちの訓練で理解している。

それをやればいいわけか。

そう思っていると、セージはいきなり剣を打ち合わせるのやめ、かがんだと思ったら足をはらって、すっころんで一周中に浮いたエイサのボディにパンチを一発入れた。

いや、どういう空中コンボだよ。

エイサのほうはカカリアに打たれたほどとびはしなかったが、同じように痛そうにつっぷして、キアオさんがまた慌てて回復魔術を唱えて何とか立ち上がった。


「2人ともすごいな。まあ、ある程度予想はしていたが」


と、ゴヅアさんも冷や汗を流して驚いているようだ。

まあ、あそこまで人がポンポン飛ぶとかどこの漫画だよって感じだもんな。


「あ~、ったく。強いぞセージ」

「それはどうも。それで続きはするかしら?」

「しない。おい最後の男」

「ああ。ユウヤだよろしく」


そういってセージと入れ替わるようにエイサの前にでる。

するとエイサはなんか驚いたような顔つきで……。


「なんだ、人と戦うのに慣れてないのか?」

「わかるか? 俺はそこのセージとカカリアに稽古をつけてもらっている立場でな。あそこまで動けないし、慣れてない」

「なるほどな。ま、あの二人を相手にしているんだ。遠慮はいらないか」

「いや、遠慮はしてほしいんだが……」


望みをつぶやくが、それはかなわず。


「冒険者になろうってんだから、それぐらいは覚悟しな」


そういって、エイサさんが飛び込んできたのだが……。

意外と遅い。

いた、カカリアに言われたように戦闘モードをオンにして待っているがセージやカカリア、椿とは比べるべくもなく遅い。

なので、相手の木剣をふるってから防御するのもたやすい。

というか、一回弾いて、これを2人みたいに何度も受ける必要性を感じなかったので、そのまま返す刃で胴に薙ぐと、エイサさんは横に吹っ飛んでいった。


「ちょーっと!? ユウヤ!?」

「何普通にふるっているのよ!?」

「え?」


軽くと思ったが2人に怒鳴られたと思えば、エイサさんは何度もバウンドして転がってようやく止まる。


「やっべ!?」


慌てて近寄ると吐血をしているようで血を顔を染めている。

いやいや、マジでやばいと思っていると。


「私が治療するわ」


セージが前にでて同じようにキアオさんと同じような緑色の光が出たと思ったら、擦り傷などが目に見えて治っていく。


「ナノマシンの応用だよ。緑色なのは演出」


とカカリアが横で教えてくれる。

なるほど。

それよりも、意外と俺はパワー調整ができないんだなーと少し落ち込んだ。


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