レポート21:「冒険者ギルド」

「冒険者ギルド」



俺の目の前に広がるのは立派な石造りの壁だ。

日本ではお目にかかることはできない。

いや、城や石垣跡とかあるからそうでもないか?

違う違う、実際にこうして今でも生活に利用されているとなると日本にはない。

ヨーロッパとかには今でも城塞都市をそのまま利用しているところがあるし、そういうものだ。

だからこそ俺は好奇心を抑えきれず、入場列に並んでいてもきょろきょろしていた。


「そんなに珍しいか?」

「ああ、こっちはどちらかというと木造が主だったからな」

「木が豊富だったのか」

「……ああ、そういうことになるな。今まで思いつかなかったがそうだな」

「そりゃ便利なことだ。こっちははげ山になって木材を手に入れるのにも苦労するところはあるからな」

「木を伐りつくしたってことか」

「ああ。とはいえ、あの森を切り開くのはかなり難しいからな。植林をしつつ別の所から持ってきてるって話だな。ったく、目の前に宝があるっていうのに面倒だよな」

「切り倒したりはしないのか? ゴヅアさんならやれると思うけど?」

「できないことはないが、その分村の防衛が少なくなるし、襲われる可能性もある。精々俺たちの生活分だけを取るので精一杯って所だな。町の分まで木を伐採するほど場所もなければ人もいない」

「難しいな」

「世の中そんなもんさ」


危険な魔物がいる森を切り開くってことはそれなりにリスクがあるってことか。

そんなリスクを冒すよりも別の場所から買ってくる方が安いんだろうな。

そんなことを考えていると、順番が回ってきたようで、俺たちはゴヅアさんに任せているとすぐに入場できた。


「なんて言ったんだ?」

「俺の知り合いで新人冒険者っていえば納得してくれたよ」

「門番衛兵にも顔を知られているって意外とすごいのね」

「昨日も言ったが一応冒険者ギルドの職員だからソノウの連中とは付き合いがあるんだよ」

「ゴヅアさん頼りになる~」

「おう。だからさっさと冒険者の登録すませるから、町の見学は後でなカカリア」

「ぶ~」


カカリアはどうやら町を探検したいようだが、先に冒険者ギルドに行くことを優先だ。

お昼前には終わらせてあとはゆっくりしたいからな。

町中はまさにどこかの海外旅行記で見たような石造りの町で、大通りをには馬車が行き交い馬糞が落ちて臭い、汚い、ハエが飛んでいる。

衛生の低さにドン引きだ。

いや、そういうのはしってるけどさ。

しかしそれはまだ甘かった。

下水というものもないので、その処理はおまるのようなものに入れて窓から外へ投げ捨てるのだ。

偶然その現場を見てしまい血の気が引いた。

幸い大通りでそういうことはないが少し路地に入れば当たり前にしている。

なので臭さはその比ではない。

……病気が蔓延するはずだとなっとくしてしまう。

探検したいといってたカカリアも同じ場面をみて口と鼻を手で覆っていた。

とまあ、そんな感じで探検の意欲を損なわれつつ冒険者ギルドの建物にたどり着く。


「あれが冒険者ギルドだ。看板を見ればまあわかるけどな」


ゴヅアさんの視線の先には冒険者ギルドが掲げている特有の人が歩いている絵が描かれている看板がぶら下がっている。

これが冒険者ギルドの紋章みたいなようだ。

どこまでも歩いていくっていうのが冒険者らしいということらしい。

識字率もそこまで高くないからこういう絵で看板を出すのは分かりやすくていいと思う。

ちなみに武器屋は剣、防具屋は盾、道具屋は袋とどこかで見たRPGのような看板だがわかりやすさを重視するならやはりこれがベターなんだと思った。

と、そんな感想を持ちながらギルドに入ると、そこは意外と綺麗にされていて閑散としていた。


「思ったよりも人いないね。こう荒くれものがわんさかいると思ったけど」

「ま、それは早朝だな。とはいえ、そこまでひどいのもあまりいない。なにせ態度が悪いと仕事を紹介してもらえないからな」

「村では冒険者の態度がとか言ってなかったか?」

「ギルドでは大人しいが外に出ると馬鹿をやるやつも多いんだよ。特に貧乏村だとな。下手に出迎えると特別だと思う馬鹿がいるんだよ」

「ああ、なるほど」


仕事として持てないしているのに、自分がただ当然に偉いと思ってしまうやつか。


「だから隔離しておくんだよ。下手に歓待なんかすれば要求がエスカレートするからな。そこで休んでさっさと仕事しろってな。まあ、もちろんお前たちみたいに礼儀正しいのもいる。悪い奴が目立つってことだ」

「そういうのも仕事ってことか」

「ああ。そうじゃないと冒険者ギルドに仕事がこなくなるからな。冒険者の躾は大事なわけだよ。ほれ、あっちのカウンターで申し込みだ。おーい」


ゴヅアさんがそうカウンターに声をかけると。


「はーい。珍しいですね。この時間に……って、ゴヅアさんじゃないですか」


女性職員がやって来た。

どうやらゴヅアさんの知り合いらしい。


「村の定期報告と、新人を連れてきたから受付してやってくれ」

「わかりました。あちらの方ですか?」

「ああ、あの3人だ」

「こちらのカウンターにどうぞ」


そういわれて、俺たちはカウンターに近づくと、改めて笑顔で。


「冒険者ギルドへようこそ。本日は冒険者としてのご登録でよろしいでしょうか?」

「はい。私ユウヤと申します。よろしくお願いします」


と、俺が代表して頭を下げる。


「おお、これはご丁寧に。受付を担当していますキアオと申します。ゴヅアさん本当にこの人たちが冒険者に? 普通に別の働き口を探した方がいいんじゃないですか?」

「ちょっと訳アリだ。町に定住する予定じゃないからな。それでいてある程度稼げるとなると……」

「あ~、そうなると冒険者ぐらいしかないですね。でも、ご存じかと思いますが、冒険者は決して楽な仕事ではないですよ? 盗賊や魔物などと戦うことも多くあります。もちろん町の細々としたこともありますけど、それなりに稼ごうとしたら命の危険は必ずあります。よろしいですか?」

「そこはゴヅアさんから前もって説明されているので承知済みです」


しかし、やけに丁寧にしつこく確認してくるんだな。


「意思は固いと。はい、ではこちらの書類に名前、ポジション、得意武器を記入してください」

「ポジション?」

「あ、えーと、大体メインで使う武器で戦う距離はわかるんですが、弓を持っているからと言って、遠距離が得意ってわけじゃないですよね?」

「はい。確かに」


弓を持っているからといって遠距離射撃が上手いとは限らない。

けん制程度のために持っている人はいるだろう。


「なので、ポジション、戦闘の時の位置を聞いています。それで臨時パーティーなどや募集にも利用がしやすいし、私たち冒険者ギルドも仕事を回す時の参考になるわけです」

「なるほど。でも、戦士とか弓兵とかでもいいのでは?」

「それってあくまでも冒険者本人がそう名乗っているだけで、実際は全然違うって場合が多いんです。なので、現実での戦闘ポジションを聞くほうが安全なんです」


確かにな。

戦士と名乗ったからと言って、全員が全員、剣と盾を巧みに扱って敵の攻撃を引き受ける役ができるわけじゃない。


「そうなると、全員前衛、アタッカーって書いたらいいんですかね?」

「そうですね。アタッカーの場合フロントで大丈夫です。前衛ですね。普通によくある編成です」


ちなみに武器は剣しかもっていないように見えるが、銃はもちろん弓もどきもすぐに取り出せるようにはなっているし、身体強化のおかげで武器を色々使い分けることには苦労しない。


「じゃ、フロントっと」


俺は文字を書くと……。


「あ、文字書けるんですね」

「はい。幸いそういう環境に恵まれまして」

「そうですか、ならなおのことももったいない気もしますが、そういう冒険者がいないでもないです。はい、あとは体力と戦闘を冒険者ギルドの職員から確認してもらうだけですね。それでランクを分け受けられる仕事が決まります。そうしないとすぐに新人が魔物退治にでて死んじゃうんですよ」


やっぱりそういうのはあるのか。

一攫千金を目指して出たのはいいが、返り討ちで死体になる。

どこの世界も世知辛いよな。

するとゴヅアさんが横から……。


「キアオ。体力に関しては村から走ってきたが俺以上の体力があるのは確認してる」

「はい?」


俺たちの体力測定の結果を伝えるがキアオさんには伝わっていないようだ。

意味が分からんって感じ。


「信じられないだろうが、この3人。意外と鍛えていて体力に関しては俺よりも上だ」

「ええ~!? うそだぁ~!」


キアオさんはすぐに否定の言葉をだす。

まあ、見た目はどうみても貧弱だしな。


「うそじゃねえよ。ここで嘘を言っても仕方ない。ソードニードルリザードからも逃げたんだしな」

「え? それって不帰の森の?」

「おう。カカリア見せてやれ」

「は~い」


そういってカカリアは棘を取り出してカウンターに置く。

それを手に取ったキアオさんは対して眺めるでもなく……。


「た、確かにソードニードルリザードの棘ですね。でもこれってCからBランクの魔物で……」

「ああ、新人なら普通は遭遇したら死ぬしかない相手だ。それから逃げ切るんだから体力としては十分だろう? 嘘かどうかは戦闘を見たらわかるだろうさ」

「確かに、そうですね。わかりました。体力に関しては推薦者のゴヅアさんの証言を受け入れて免除にいたします。それで戦闘訓練ですけど……ゴヅアさんはダメですし……」


そうキアオさんは視線を何か札がかかっているところに視線を向けようとしていると、そこに女性がやってきて札をかける。


「おはよ~」


そんなことを言ってこちらに向かって歩いてくる。

赤毛のショートカットの女性だ。

年は俺と同じぐらいか?

そう思っていると、キアオさんが反応して。


「あ、エイサさん。お昼からでしたよね」

「ああ。夜勤。まったくやってられないよ。昨日の書類も残っているから早めに出ないといけないし……」


なるほどあの札は出勤の有無を知らせるモノか。

そう納得をしているとエイサと呼ばれた女性はあくびをしたあと俺たちを視界に収めてぴたりと止まる。


「あ? ゴヅアじゃん」

「よう、エイサ。元気そうだな」

「ああ、ここにいるってことは定期報告か。ヒュイルはノフォは元気か?」

「おう。元気だ」

「そりゃよかった。で、隣の兄ちゃんたちはなんだ?」

「そうだエイサさん。こちらの方たちは今日登録でして体力はゴヅアさんからの推薦で免除なんですが戦闘をしてくれる人を探していてだれか……」


そうキアオさんが言いかけた時。


「私が相手をしてやるよ。ゴヅアの体力馬鹿が免除なんて面白いじゃん」

「え? でも、書類仕事が残ってるって……」

「目覚ましだよ」


ということで、俺たちは彼女エイサさんと戦闘試験を受けることになった。


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