レポート20:「町へと走る」

「町へと走る」



早朝、俺たちは村の門に立っていた。

どうやら今朝は朝霧で出ているようでかなり見通しは悪いがこのぐらいは問題ないということでこのまま出ることになった。


「どうもお世話になりました。ヒュイルさん、ノフォちゃん」

「いえ。私たちも知らない国のことを聞けて楽しかったです。どうか皆さんが国に帰れることを願っています」


ヒュイルさんは丁寧に頭を下げる。

そしてノフォちゃんはというと……。


「ユウヤさん、セージさん、カカリア、また会おうね」


そういって目に涙をためていた。

短い間ではあったがノフォちゃんにとってはかけがえのない思い出になったようだ。

町と村しか世界を知らない彼女にとっては俺たちから聞く話はまさに未知の世界のことだったんだろう。

だから、再会の機会がないとわかっていても「また」と言っている。

だから……。


「ああ。落ち着いたらまた会いにくるよ。機会があれば俺の国にも案内してやろう。ヒュイルさんたちも全員だ」

「やったー。約束だよ! カカリア、ちゃんと裕也さんを守ってよ」

「任せて。ちゃんと帰る方法みつけてノフォたちを案内するよ」

「はぁ、何無茶な約束をっていう所でしょうけど、そういう夢を持ってもいいわね。ノフォもそれまで元気で。あと昨日渡した薬はいざという時に使いなさい」

「うん。セージがお医者様でよかったよ」


こうして果たせない約束?を交わして俺たちは町へ目指して出発をする。

と言っても先ほど言ったように周りは霧で、足元に見える道をただ進むだけで味気はない。

なので自然とゴヅアさんと話しながら歩くことになる。


「ゴヅアさんがついてきてよかったんですか? 一応あの村の護衛でもあるんでしょう?」

「ああ。そこは心配しなくていい。護衛なのは事実だが、ほかにも護衛はいるからな。俺の妻、ヒュイルもそれなりの冒険者だったからな。そうそう遅れはとらんよ。あそこで魔物を押しとどめて町に連絡するっていう役目もかるからな」

「なるほど。あそこは砦でもあるのね」

「そういうことだ。だからこそ森から現れたユウヤたちを見て警戒したわけだ」

「ん? それって人型の魔物もいるっていうこと?」

「いるにはいるが、あの森にはいないな。俺たちが警戒したのは盗賊のたぐいだ。あの森へ冒険に行く連中は必ずこの村に寄るからな。なのに見覚えがない」

「だから警戒してたわけか。あれ? そうなると冒険者は来るんだよな。そうなると宿はあるんじゃないか?」

「冒険者の宿はな」

「冒険者だけの利用ってことね」

「そうだ。まあ、いい方は悪いかもしれないが、冒険者は荒い者が多いからな。分けておく必要がある。だが、お前たちは迷子って話だからな事情を聴いて監視をする必要もあったから俺の家に置いた」

「隠さないんだな」

「隠す必要はなくなったからな。どう見ても盗賊とかには見えんし、一夜過ごしてそれは実証されたよ。気持ちよく寝てたもんだ。逆に驚いたぞ。あそこまで警戒心がないのはな」


確かにぐっすり休ませてもらった。

意外と寝袋の寝心地がよかったんだよな。

宇宙技術ってスゲーってやつだ。

しかし、気になる点もある。


「怪しいならなおのこと冒険者の宿に隔離した方が安全じゃないか? ノフォちゃんだっているんだし」

「それは俺が迎え入れた責任ってやつだ。冒険者の宿に放り込むとほかの連中にも監視してもらわないといけないしな。大人数ならともかくな」


納得する話か?

いや、そうか?

まあ、村の規模から考えてせいぜい100人いないぐらいだし、暇な人なんてのはほぼいないだろう。

そういうことにしておこう。

村には村の掟って言うのが存在する。

よそ者が口出ししていいことじゃない。

乞われてない限りな。

そんな話をしているとやけにまぶしいことに気が付く。


「お、霧が晴れたな」


ゴヅアさんがそういって草原の方向を見る。

俺たちも同じようにそちらを見ると、地平線から太陽が昇っているのが見えた。

日本では見ることができない光景で少し見惚れてしまった。

もちろん山から上る太陽もあれはあれでいいもんだけどな。


「今日は天気だ」

「だな。洗濯物が乾きそうだ」

「そうだな。と、これなら走れそうだな」

「ん? 走る?」

「ああ、早朝にでたのはお昼過ぎに町に到着する予定だったからだが、早めにつけれるなら歩きながら乾パン食べるより、町の飯屋で食べた方がいいからな」


確かに、美味いご飯を食べる方がいいに決まっている。

えーと町は村から20キロ先だから、人の歩行速度は時速4キロ前後、つまり5時間はかかる予定だ。

荷物を持っていることもあるから、それよりも速度は落ちるだろうし、6時間から7時間ってところか。

早朝が6時だと考えて、7時間後となると1時ぐらいか。

食べ物のことはおいといても長いな。

そう考えているとゴヅアさんは笑顔でさらに続ける。


「走るのは嫌か? ま、理由をつけてやる。俺が冒険者ギルドで推薦してやるとは言ったが、それでも試験とかはある。体力とか戦闘力とかな。体力についてはこれから走ることで俺が評価できる。冒険者ギルドの連中の評価の仕方が悪いとは言わないが、午前中に歩いて疲れていてからの試験ってのはつらいからな。先にやってしまおうってわけだ」


なるほど。

俺たちの体力を見るためでもあるわけか。

でも宿で休んで翌日って言うてもあると思うが……まあ、ゴヅアさんが好意で言っているんだ。

無下にするのもよくないし……。


「僕はさんせ~! 早く町につきたいしね。話すこともなくなってきたし」

「そうね。のんびり風景を楽しむのも悪くないけど、町について情報を集めたいのも事実だし、冒険者ギルドでの手間が省けるならそれに越したことはないわ」


どうやらカカリアとセージは賛成のようだ。


「ユウヤはどうする?」

「そうだな。体を動かしたいところだから走るか」

「おう、その意気だ。ま、へばったらペース落としてやるから安心しろ。じゃ、行くぞ」


ということで、俺は懐かしのマラソンを始めることになる。

一帯いつ以来だろうか?

学生時以来か?

まあ、学校の授業一環としての運動と、目的ができた運動には雲泥の差があるし、なにより佐藤さんたちの手助けでそこらへんはかなり強化されているので……。


「ちょ、ちょっとまて……。なんで、ユウヤたちは息を……切らして……」

「そりゃ、これでも現役で冒険してたからな」

「そうよ。あの森を3日もうろうろしてたのは冗談じゃないのよ」

「まだまだいけるよー」


ゴヅアさんの方が体力切れでぜーぜーいう羽目になった。

そしてその状況で改めて自分の強化具合を把握する。

ゴヅアさんは年齢は俺よりも実は年下で24。

俺は29で体格や筋肉についてもどうみてもゴヅアさんの方が上だが、それでも俺の方が疲れていなかった。

というか、まだまだ走れることはもちろん、正直に言えば速度はまだ数倍に達することができる。

椿たちの訓練で確認はしているが、時速100キロ以上で爆走することも可能だ。

慣性の法則を無視した動きもできる。

文字通りスーパーマンだよな。

そんなことを考えながら手の平を見ていると……。


『どう椿? ゴヅアさんのデータはとれた?』

『はい、取れました。あの人の体格的にはありえない速度を維持していました。私たちの何か知らない技術、能力があってできていたのでしょう』

『だよね~。だって時速30キロで30分は走ってたし。オリンピック選手とかは40キロとか言っているけど、それでも100メートルとかだしね。人体の構造上ナノマシンとかの外部の力がない限り不可能だよ』


そんな会話が通信で行われている。

パッと見た目は口を開いてはいない。

なんというか所謂一種のテレパシーだ。

とはいえ、構造的には頭の中に特殊電波を受け取れる機能を付けただけとセージは説明してくれた。

佐藤さんたちからすれば超能力も魔術も魔法もすべて解明されている技術の一つでしかないということだ。

だからこそ、認識外のあの石という存在の価値が高まっている。

まあ、それを調べるのが俺なのはなんでだろうとは思うが、そこは事情があるのだろうと納得しておく。

さて、俺の考えはいいとして……。


「よし、ゴヅアさんも疲れているしあとは歩くか。幸い町も見えてきたし」


道の先に視線を向けるとそこには煙が立ち上る石の壁が見えてきていた。

あと、小一時間もすれば到着するだろう。

実に村を出てから3時間もかからない程度でここまでとかどれだけ走ったんだよと今更思った。


「ふぅ。水を飲んで落ち着いたのはいいが、ユウヤたちはどんな訓練してたんだ? 俺の方が息を上げるとか思わなかった」

「地元は厳しくてね。このぐらいできないと外に出してもらえなかったんだよな」


と、もっともらしいことを言っておく。

いや、事実だけどな。

肉体改造をしないと惑星調査はできないって。

死ぬから。

そういう切実な事情がある。

とはいえ、自分から望んだことだけどな。

それを聞いたゴヅアさんはというと……。


「一体どれだけ過酷な環境だったんだよ」

「俺は普通と思ってたけどな。で、体力はどうだ合格か?」

「ああ。文句なしだ。半分でもついてこられればいいかと思ってたがこうなるとはな」


苦笑いしつつ素直に体力に関しては合格を貰える。

それなりに立場のあるゴヅアさんからそう言ってもらえるなら体力的には問題ないのだろう。

とはいえ、戦闘っていうのもな。

俺が戦い慣れているかというとちょっとわからん。

椿たちとは訓練はしたし、オオトカゲじゃなくてソードニードルリザードの複製たちとも戦って命はたったが、それでも慣れたとは思えない。

練習と現場は違うのだ。

それぐらいは分かると言えるほど社会は経験しているつもりだ。

だから……。


「案外戦闘がダメダメで失格になるかもしないな」

「その足があれば運搬の仕事があるさ。そういうフォローぐらいはしてやるが、まずはやってみてだな」


なんともまあそういうフォローまでしてくれるつもりとはゴヅアさんに感謝しつつ俺たちは町へと足を進めるのであった。


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