レポート19:「村の情報」

「村の情報」



夜のとばりがおりて、日本ならこれからテレビを見てゆっくりして楽しみを始めるのだが、この異世界の村。

フォレイス村ではすでに静けさが当たりを包んでいる。


「もう皆さんお休みのようですね」

「灯り一つ使うのも大変だからな。町のように夜も明々というわけにはいかないさ」

「確かに。ですが、こうしてお付き合いしていただいていいんですか?」


と、俺はお世話になっているゴヅアさんに聞く。

俺たちはゴヅアさんの家にお世話になってからずーっと話を聞いていた。

ソノウの町の場所から、この地域の常識や政治とかそういう所だ。

俺たちが知らない土地からやってきたと理解してもらえたので、その手合いの情報を教えるのに抵抗はなくなっていたのでスムーズに情報収集ができた。


「大丈夫ですよ。こんなおいしい物を譲っていただけたんですから」

「うんうん! これ美味しー!」


ヒュイルさんとノフォちゃんは木の皿にのせたパンケーキをもってテーブルに置く。

そう、情報はもちろんこんな怪しい俺たちに泊まる場所を提供してくれたので、ちゃんとお礼はしている。

ノフォちゃんが欲しがっていた硬貨はもちろん、荷物として持っていた食料品も提供している。

俺はいいのかと思ったが、椿曰く。


『どうせ腐ったら捨てないといけないといえば、向こうも納得して食べてくれるでしょう。こういう村にはお金的価値のあるモノはあってもあまり意味はありませんから。というか盗賊などに狙われやすくなるのでこういったモノで済ませる方がいいかと』


ということだ。

確かに、捨てるものだからといえば断る理由もないよな。

そして何より食べ物が違うことでより俺たちが別のところから飛ばされてきたという証明になるわけだ。


「妻や娘も笑顔になっている。貴重な食料も分けてもらっているし、町のことやこの国のことを教えても罰はあたらんだろうさ」

「ありがとうございます。しかし、いいんですか? わざわざゴヅアさんについてきてもらっても?」

「ああ、構わない。村の近況報告も町にしておく必要はあるからな。そのついでだ」


実は情報を聞くついでに町まで同行してくれると言ってくれたのだ。

こっちとしてはありがたい話だったので受け入れたかったが、まあ家族の手前どうしたものかと思っていたが何かの用事ついでなら大丈夫だろう。

ある意味、俺たちと同じようにらしい理由を作って案内をしているのかもしれない。

いや、俺たちを町の衛兵とかに突き付ける可能性もなくはないが、それをするぐらいなら今夜にでも縛り上げた方がいい気がする。

ま、警戒はほどほどに町の入場がスムーズになるかもしれないのでこの提案は受け入れることにした。


「この国、えーとフォヅサ王国でしたか。ここは戦争中だったんですね」

「迷惑な話だ。幸い、不帰の大森林にある村だからな敵国の兵隊がくるなんてことはないのが幸いというべきか不幸というべきか」


どうやら俺たちがやってきたこのフォヅサ王国というところは只今絶賛戦争中のようだ。

とはいえ、この場所は不帰の大森林と言って俺たちが遭遇したオオトカゲなどの魔物というモノがいてその中でも強力な個体が生息しているということで、人が近寄らないらしい。

なので軍隊も数の利を生かせない森の中を進むわけにもいかないし、魔物に襲われる可能性も考えるとここの近くを通る可能性はかなり低いとのこと。


「あはは、微妙なところですね。ですがフォレイス村はなぜこんな危険なところに?」


そう、軍ですら嫌がるような場所になぜこの村があるのかという疑問が残る。


「あ~、理由はよく覚えてないが、村長の子孫がこの森を踏破して、財宝を手に入れるとかなんとかいってできた村らしいぞ」

「財宝ですか。そいうのがあるんですか?」

「さぁ、昔はもっと人数がいたって話は聞いてたな。町の冒険者ギルドでもその話は聞いたことがある」

「そうね。でも、結局被害が大きくて撤退。そのあとはどんどん村は廃れていく一方。まあ、こうして私たちように住んでいる者たちも言えるけどね」

「そういえば、お2人はなぜこの村に?」


今の話を簡潔に言えばこの村は軍も避けるような危険な場所に存在していることになる。

なんで、そんな危険を冒してまでこの場所で生活しているのか気になる。


「俺とヒュイルは元冒険者でな。この村で森の監視を引き受けているんだよ。意外かもしれんがこれでも冒険者ギルドの職員ってやつだ」

「それだけこの人優秀なんですよ」


ヒュイルさんはそう自慢気にいうとゴヅアさんは恥ずかしそうに頭をかく。


「そうだよ。お父さんって、物凄く強いんだから。この前だって森からやってきた大きなトカゲをやっつけたんだから。名前なんだっけ?」

「ソードニードルリザードよ。爪はショートソードみたいに硬くて鋭利で、牙や背中には鋭い棘がある魔物よ」


ん? なんかその特徴の魔物って知っているような?

俺が視線をセージやカカリアに向けると苦笑いしている。

すると、その視線をゴヅアさんは気が付いたようで……。


「どうした? まさか……あったのか?」

「え、ええ。多分ですが。ヒュイルさんのいう特徴は似通ってました」

「よく無事でしたね。あれは冒険者ランクで言うと、CからBの討伐範囲ですよ。新人の冒険者だと逃げるにも難しいです」


さて、倒したなどというのが正しいのかと悩んでいると……。


「ええ。運がよかったわ。いきなり襲い掛かったと思ったら、木に突っ込んで突き刺さったのよ。その隙に」


セージが俺の代わりに説明を始める。

なるほど、倒したとは言わないのな。


「ああ。定番の倒し方になったのか」

「そうなの?」

「ソードニードルリザードは確かに危険だが、木を一撃で切り倒したり倒壊させるほどの力はないから、あえてそこに誘導して行動を制限し倒すっていうのが常識になっている。まあ、それを真っ向から戦って倒す連中はいるけどな」


納得の討伐方法だが、なんか間抜けに聞こえるな。

ひっくり返ったカメを倒すみたいなやり方に聞こえる。

……ああ、そうかカメみたいにもとに戻る隙は大きくないんだろう。

そんなに簡単ならその冒険者ランクが高いわけないもんな。

しかし、あれを真っ向から倒すか。

いったいどんな人物だろうと思ったが、よく考えればカカリアが一刀両断したんだった。

その人物は銀髪のちびっこということだ。


「そういえばお金とかはどうするつもりなんですか? 見せていただいたコインは使えないですよ」

「あ~、確かにそうですよね」


日本円がこちらで使えるわけもない。

そうなると何かを売ってお金を得るしかない。


「ねえ、そのソードニードルリザードだっけ? それに襲われたときに数本棘拾ったけどこれって売れるからな?」


そういってカカリアが予備の剣を治めている筒からオオトカゲの太い棘をとりだす。

いったいいつの間にと思ったが、こういうことぐらいできるよなと。


「おお。これなら売れるな。ついでに冒険者ギルドに登録するといい。これだけでも3日ほどの宿代にはなるだろうが、継続的にお金は稼ぐ必要があるだろうしな。俺からの推薦ってことにしてやる」

「ありがとう。これからどうしようかと思ってたけど、何とかなりそうだね」

「あっさりカカリアさんは納得していますけど、意外と冒険者は危険ですよ? あまりあっさり決めるのはどうかと思いますけど」


ヒュイルさんは意外と冒険者になることは否定的なようだ。


「続けるかどうかは3人次第だ。今必要なのは身分証だ」

「確かに、簡単に身分を証明するものとなるとそれが一番ね。わかったわ。でもユウヤさんたちは冒険者って仕事に固執しなくていいですから」

「わかりました。私たちも危険なことはしたくないですからね」


俺たちはそう返事をして頷く。

誰だって好き好んで命を懸けるような職業になりたくはない。

まあ、俺に多少のワクワク感があるのはファンタジーの定番きたーとか思っているからだろうな。

そこでようやくある程度話が終わったようで、静けさが部屋を包む。


「そろそろ寝るか。明日の朝にはでるしな」

「そうね。皆さんも窮屈かとは思いますが、どうぞごゆっくり」

「はい。ありがとうございます」

「えー! もっと話したいよ!」


そういうノフォちゃんは引きずられて部屋へと消えていく。


「じゃ、俺たちも休むか」

「ええ。ゆっくり休みましょう。ちゃんとシールドと警報も設定してね」

「そうだよ。一人でできるかな?」

「できる」


睡眠学習かどうかはわからないが未来の技術で知識をたたきこまれた俺は手順を思い出してちゃんと設定をする。

セージやカカリアにも合格をもらって横になるってから思い出した。


「椿。お休み」

『はい。おやすみなさい。何かありましたら私の方からも連絡します』


こうして、俺たちは異世界で初めて眠りについた。

寝心地については、床に寝袋という状態だったので、コメントは差し控えさせていただきます。


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