レポート18:「村人との接触」

「村人との接触」



俺たちは門の前で槍を突き付けられながら、おっさんと話していた。


「つまり、森で迷ってここに出てきたってわけか」

「ええ。幸い、簡単に出てこられたからよかったわ。場所がよくわからないからそこらへん教えてもらえるとありがたいのだけれど、あと今日休める場所とか提供してもらえるかしら?」


まあ、実際に交渉しているのはセージだ。

俺は後ろでカカリアと立っているだけ。

まあ、俺が説明してもあまり変わらないと思う。

セージの方が美人なだけ話を通しやすいかもな。


「ふうん。しかし、迷った割には身綺麗だな」

「それはたった3日ほどだしね。でも驚きよ見たこともないところに出るなんて思わないし」

「なんだ。飛ばされたってやつか?」

「何その飛ばされたって?」

「俺は詳しくは知らないが、ほら魔術で転移っていうのがあるだろう? あれを使える魔術師は極稀だがその魔術をトラップとして使っているとか聞いたことがある。古い遺跡とかだな。それでその罠に引っ掛かったやつは王都の端から端まで飛ばされたって話を聞いたことがあるから、その手合いじゃないのか?」


あー、よくあるワープトラップっていうのがこの惑星にはあるのか。

かなり危険じゃね?

下手したら上空何百メートルとか地下何百メートルとかに出れば「石の中にいる」とかになるんじゃ?

いや、その程度だと服のシールド機能で何とかなるのか?

とりあえず、あとで詳しく聞いておく必要はあるな。


「なるほど。そういうこともあるのね。あ、でどう? ここがどこかのかって話と休む場所ってあるのかしら?」

「ああ、すまん。この村を襲いに来た盗賊ってわけじゃないな。よし、通れって言いたいが。向こうにいる兄ちゃんと小さいのは?」

「ああ、私のご主人様と同僚って所ね」


はい?

おれがご主人様?

何のことだよってと言おうとして思い出した。


『いい、裕也。この世界で冒険する際は、裕也を主として働く従者ってことにするからね』

『うん。そうじゃないと僕たちにも手を出そうとしてくる馬鹿がでてくるからね。そもそも主っていうのは間違いないし』


そう、最初に佐藤さんに言われた設定をそのまま使うことになったのだ。

この惑星における俺たちはそれで行くということ。

まあ、こういう風に含みを持たせていうと……。


「ちょっとまて、あんたの動きを見るにいいところのお嬢さんだってのは分かる。そうなるとあっちの兄ちゃんは……」

「それは聞かない方がいいわ。で、しつこいようだけど話と泊めてもらえそうな宿とかあるのかしら?」

「あ、ああ。すまん。だが話はともかく宿はないからな。俺の家でよければ床ぐらいは貸してやれるな。どうする?」

「それでいいわ。ありがとう」


ということで俺たちは村の中に入る。

中は木造の家屋が並んでいる。

……正直に言えば大風でも吹けばすぐに倒れてしまいそうだ。

まあ、建造技術とかも現代を基準にすればそういうモノなんだろう。

あとは、旅人が珍しいのか子供たちを中心に村の人がこちらを見てきている。


「なあ、えーと、なんて呼んだらいい?」

「ああ、ゴヅアだ」

「よろしくゴヅア。俺は裕也っていう」

「おお、よろしく」

「あ、僕はカカリアね。よろしくぅゴヅア!」

「元気な嬢ちゃんだな。よろしく」


歩きながら挨拶をしつつ俺は質問をしてみる。


「村の人たちから視線が集まっているように見えるけど、あまり外部から人ってのは来ないのか?」

「そうだな。ここは辺境だしな。あまり人は来ないというか二か月に一回の商人ぐらいだ。何せあの森の近くだからな」

「俺たちが出てきた森。あそこはやっぱり色々あるのか?」

「ああ、色々あるぞ。っと、あそこが俺の家だ」


案内されたのは立ち並んでいた同じような木の家の一つだ。


「おう。戻ったぞ」


そういってゴヅアが家のドアを開けると……。


「あら、お帰りなさい。早かったわね」


と、そんなことを言いながら美人さんが出迎えてくれた。


「あら? お客様?」

「ああ、そうだ。森で遭難していてな今日一泊だけ場所を貸すことにした」

「まあまあ、あの森から? よく無事でしたね!」


なんかこちらを見る瞳が驚きに染まっている。

あの森ってそんなにやばい場所なのかと思っていたが、まずはお世話になるのだから……。


「初めまして奥さん。私、裕也と申します。本日はお世話になります」

「セージと申します。よろしくお願いします」

「カカリアだよ。よろしくぅ!」


うん、カカリアはそういうノリなんだろうが、あとでちゃんと挨拶するように言っておくか。


「はい。私はゴヅアの妻でヒュイルと申します、狭い我が家ですが、ごゆっくりしてください」


ヒュイルさんは笑顔でそういってくれた。

ほっ、嫌な顔をされたらどうしようかと思ったがよかった。

まあ、女性は内心どう考えているか分かったものではないが、露骨にされるよりはましだ。

なにより今日一泊するだけだしな。

ということで、家の中に案内をゴヅアさんが前に出たと思ったら、次は俺たちが入ってきたドアが開いて。


「お母さん。友達がなんか旅人が、来たって……」


そこにはヒュイルさんはさらに幼くした少女が立っていた。


「あ、どうも、お邪魔しています」


と、俺たちはそう会釈をする。


「あ、はい。どうも。……えーっと、お母さん、あ、お父さん、この人たちって?」


困惑しながらも返事をしてくれて、半信半疑のままご両親に俺たちのことを問いただすと、ゴヅアさんとヒュイルさんはお互いに顔を見合わせて少し笑うと。


「ああ、お前が言っている旅人さんだ」

「今日、私たちの家に泊まることになっているのよ。ご挨拶しなさい」

「ええ~!?」


彼女は驚いて声をあげるが、挨拶をしないことをとがめられてヒュイルさんに素早く拳骨を落とされて悶絶していた。

しかし、あの動きめちゃくちゃ早かった気がする。

思わずがゴヅアさんを見ると目を背けた。

なるほど、これがこの家の序列ってことか。



で、悶絶していた彼女が落ち着いたところで、リビングにおいてあるテーブルに座り改めて挨拶をする。


「初めまして。今日お世話になります裕也と申します。こちらはセージとカカリアです」

「はい。よろしくお願いします。私はノフォと言います」


ノフォちゃんは今度は落ち着いた様子で挨拶をしたと思ったら……。


「それで、ユウヤさんたちはどこから来たの!? 何をしにここに来たの!?」


爆発したように身を乗り出して質問してきたが、即座にヒュイルさんに拳骨をもらって悶絶をする。


「ノフォ。落ち着け。ユウヤたちはどうやら転移のトラップに巻き込まれて森の中に飛ばされたようだ」

「転移? 噂でしか聞いたことないけど、本当なの?」


ヒュイルさんは悶絶しているノフォちゃんは放っておいて話に真偽を確かめに来る。


「その転移というのに巻き込まれたかはよくわかりませんが、自分の知らない場所なのは確かです。なので近くの村にやってきたわけです。どこに向かうにしても情報が欲しいもので」

「ふうん。何かそれを証明するものはあるかしら?」


意外とヒュイルさんは疑り深いようだ。

まあ、怪しいといえばそうだしな。

とはいえ、その手の準備をしていないわけでもない。

俺はポケットから小銭入れをだして、テーブルに中身を出す。


ジャラっと音が部屋に響いて、ノフォちゃんもようやく落ち着いたようで顔を出す。


「これは俺たちの国で使用されているお金です。見たことはありますか?」


俺がそう聞くと3人とも手を伸ばして硬貨を手に取る。

ちなみに出したのは日本円で紙幣は出していない。

この時代紙幣というのは存在していない可能性が高いから意味が分からないと判断したからだ。

なぜ日本円なのかというと俺たちが他国から来たと証明するにはこれが一番わかりやすいだろうとセージたちとの話し合いで決まったからだ。


「……見事な彫刻だな」

「ええ、しかもこの白いコイン。重さを感じないほど軽いわ」

「うわー、綺麗! これちょーだい!」


ゴンッ!


さらなる追撃がノフォちゃんに襲い掛かるが、家庭の教育方針に口を出すわけにはいかないので、何とか笑顔のまま続ける。


「え、えーと、私たちがいた国は日本というのですが、聞き覚えはありませんか? このような硬貨を使うのですが」

「申し訳ない。私は知らないな。お前はどうだ?」

「私も知らないわ。聞いたこともない。となると海の向こうから飛ばされたのかもしれないわね。かわいそうに。ごめんなさい疑ったりして」

「いえ、私もゴヅアさんの話を聞いてまさかと思いましたから。しかし、本当に私たちの知らないところなんですね」


と、演技を続ける。

実際は知らないところってわけじゃない。

宇宙船からの偵察でこの惑星の大きさ、この土地の広さ、村や町の位置まで全部把握している。

知らないのはこの土地の文化や政治情勢ぐらいだ。


「まあ、状況がわかったのは幸いね。あとはどう動くかだけどどこかに情報を集めに行って帰る方法を探すのがベストだと思うけど?」

「うん。僕もその方がいいと思うな。ねえ、ゴヅアさん近くに情報が集まるところってない?」

「うーん、町ならあるが、情報で言うなら王都の方が上だとは思う」

「ゴヅア。まずは町がいいわ。王都は遠いし、そこで方針を決めるのはユウヤさんたちなんだし」

「確かにそうだな。まずは町、えーとソノウの町に向かうのがいいだろう」

「それはどちらに?」

「村の前にある道を森の反対がへ進めばたどり着く。大体そうだな半日ぐらいあれば……」


そんな感じで俺たちはゴヅア夫妻からこの世界の常識を教えてもらうのだった。


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