レポート17:「村へ」
「村へ」
ザッ、ザッ、ザッと草を踏み分ける音が当たりに響く。
体に草木があたり擦れる感覚が体に届く。
まさにジャングルを冒険しているというのはこういう感覚なんだろうなと思っていると。
「ねぇ~。村はまだ~」
と、俺の後ろを歩いているカカリアが声を上げる。
カカリアは身長が低いからこうして草木をかき分けて進むのはどうしても邪魔で仕方がないのだろう。
「あと1キロってところね。我慢しなさい」
俺の前方を歩いているセージはバッサリそう言い切る。
「ねぇ、それならちょっと切ってもいいんじゃない?」
切るというのはビームソードを使って一気に切り開くことだが……。
『カカリアそれはダメです。事前の情報収集でこの範囲は村の人たちが狩りをしている場所ですから、変に思われます』
ほかの人に俺たちが異常であると勘づかれるような行動は今は慎まなくてはいけない。
いずれ調査を進めるために話すことはあるだろうとは言っていたがいまはその時ではないと佐藤さんは判断していた。
俺も同意見だ。
まだ村に信用もないし、この地域の勢力とか政治体制が分かっていないのに拠点にして調べるというのは愚行だろう。
「ぶ~」
「別に歩いて対して時間もたってないんだから文句言わない」
セージの言う通り、俺たちは村から2キロ地点の森に転送されてから村を目指しているので長い時間歩いているわけではない。
とはいえ、カカリアにとっては本当に草木が邪魔だというのはわかるから……。
「肩車するか?」
「え!? いいの!」
嬉しそうにカカリアが言うが、セージはジト目でこちらに振り返り。
「裕也あまりカカリアを甘やかすのはよくないわよ。というか後方を守るための配置でもあるんだから」
「大丈夫。肩車されていても後ろは守るから。ね、お願い! 本当に草木が邪魔すぎるんだよ~」
「……そのようね。身長の設定は今後はちゃんと裕也に考えてもらいましょ」
「だな。カカリア本当に悪い」
俺たちの視界には草木に埋もれて手だけを振っているカカリアの姿がある。
それを見たセージも流石に強くは言えなかったのだろう。
ということで俺は荷物を持っているカカリアをそのまま肩車するが、重さは全然感じない。
「やっぱり身体強化しているんだな。カカリアを肩車しても普段通り動けそうだ」
「当然よ。その程度で動きが鈍るような強化はしてないもの」
「うん。だから僕も大丈夫ってわけさ。でもさ~。なんでこんなコスプレしてるんだろうね~」
そういってカカリアが自分の腰に差している剣を抜く音が聞こえる。
「おい、危ないって」
いきなり頭上で刃物を抜かれるとは思わなかったので思わずそういうと。
「あはは。ごめんごめん」
「やっぱりおろしなさい裕也」
「ごめんってばー!! いやだー!」
そういって頭にわしっとしがみついてくる。
しかし、そのしがみつきはカカリアの柔らかい感触が伝わってくるのではなく、固くて冷たいものが頭や首にあたりひやっとしてちょっと不快だ。
「カカリア。降ろさないから普通にしてくれ、鎧と小手が当たって冷たい」
「あ、ごめん。でもさ、なんでこんな装備なんだよ~」
「私たちは一応冒険者、探検者、旅人ってことにしているからね。武器防具もつけないで移動するなんておかしいからよ」
そう俺たちはいつものジャージではなく、冒険者という姿格好になっている。
理由はセージが言ったように村人を警戒させないために、ここら辺でよく見る服装を参考にして複製機で作っている。
だからビームソードなんかは奥の手で隠していて鉄性の直剣を3人とも装備して弓とか槍とかもそれらしく持っている。
正直なところ俺はワクワクしていた。
この前のオオトカゲといい魔法と言いファンタジーっぽくなってきたからな。
そんな感じでワイワイ話しながら森を歩いているとついに視界が開けた。
「お~。森の向こうは平原か」
データ上ではわかっていたが、実際自分の視点で見るのはやはり違う。
ネットやテレビで知っていてもというやつだ。
その場に自分の両足で立ってみる風景には、清濁混在している。
森を抜けるのはつらかったし、それなりの時間をかけ踏破した後に見えるのがこの風景だ。
「ここも僕の背と同じか高いんだけど……。未開の惑星ってのはこれだから……」
「そもそも、人が踏み込むような場所じゃないところに私たちがいたからしかたないわ。で、村だけど多分あれよ」
セージがそういって指さした先には、煙が数本立ち上っているのが見える。
「多分。生活で必要な火を起こして出ている煙だわ」
「ああ、なるほど」
こっちの世界にはガスコンロやIHなんてものはないだろうから、薪で火をつけて調理などをしているんだろう。
「じゃ、サッサというこうよ。僕、冒険していた人が村や町を見かけたら寄りたくなる気持ちがよくわかったし」
「確かにな」
あれだよな。こうして冒険して見つけた村っていうのはようやく見つけた安心して休憩できる場所かもしれないっていうのが大きいんだろう。
だからそう俺の上にいるカカリアに返事をして、草をかき分けて進もうとすると……。
「ちょっと待って。椿から道がないか確認してもらうから」
「どういうこと?」
「あのね。いきなり我が家の裏庭に現れる人と、玄関に現れる人。どっちが怪しいと思うわけ?」
「そりゃ、裏庭だよな。つまり怪しくないルートを探せってことか」
「そういうこと」
「うが~! 椿、道は!?」
『落ち着いてください。いまデータを送ります』
椿から返事があったと思うとすぐにデータの確認を行う。
今の場所から反対側とまではいわないけど、意外と遠い場所に道があるのが確認できる。
『どうやら私たちが通ってた場所はちょうど村の裏側のようです。それで森を抜けてきたという設定を保つには……。ここが最短距離です』
そういってポイントが打たれる。
直進するよりはかなり遠回りではあるが、まっすぐ進んで警戒されるよりはましだろう。
「ねぇ、遭難して必死にやってきたってのはダメなの?」
「私たちのどこが必死なのよ。体は身綺麗だし、装備品はそこまで傷ついていない。なによりただ単にカカリアがめんどくさいだけでしょ?」
「それはそうだけど……」
『あまりわがままは言わないように。せめて自分で歩いて言ってください』
「むぐ」
肩車されたままじゃ確かに文句を言うのはちょっと違うよな。
「ま、もう少しの我慢だから、行くぞ」
俺は返事を待たず足を進める。
「わかったよ。とりあえず裕也よろしく」
「おう」
「じゃ、さっさと行きましょう」
ちなみにサクサク歩きながらもスキャンによる植物調査は続けている。
これもこの惑星の秘密を解明するのに必要なことだ。
とはいえ、草原に出てからは伸びきっている草の種類は同じで新種はあまり発見できていない。
「そういえばセージ。あれから石の調査で何かわかったこととかはあるか?」
「残念ながらさっぱり。人形も変化なし。いや、人形については変化があっても困るんだけど」
「変化があったら怖いって。呪いの人形になるよ。って椿人形は今どうなの」
『別に変化はありませよ。そちらからも確認できると思いますが?』
「いや、そこまで確認はしたくないよ。なんか目が合いそうで怖いし」
うん。カカリアの気持ちはよくわかる。
自分だけがその恐怖を味わうような状況になりそうだよな。
こういうことって怖がっている人にだけ降りかかるっていうのが定番だ。
そんな話をしているうちに、ちょっと狭い、具体的には自動車一台がギリギリ通れるような道に出て、そこから村を目指すことになった。
「あまり、この道は使われてないな」
道は確かに存在してはいるが、地面がむき出しになっているところは少なく至る所に草が生えている。
『道を確認してみたところ、この道は森を突き抜けているのではなく2キロぐらいの地点で行きどまりになっています。つまり、この村の人たちしか使用していないのでしょう』
「だから、足跡らしきものはあるわけね」
セージの言う方向には確かに草が踏まれてペタンとしている感じがある。
人が通っているであろう様子は見て取れる。
とはいえ、俺のイメージからすると本当に田舎道の田舎道って感じだ。
今の日本はアスファルト塗装されてない道なんて珍しいからな。
田舎でさえアスファルト塗装で車が通る道を確保しているし、こんな感じで人が歩くだけの地面むき出しの場所というのは公園ぐらいのものでそうそう見ない。
そういうのがこうして当たり前にあるのが、失礼ではあるがこの惑星の文明レベルは高くないのだと実感させてくれる。
そんな道を進むこと30分ほどで、丸太を打ち込んだ防壁が見えてきて、村の入り口らしきところまでやってきたと思ったら……。
『気を付けてください。入口近くの防壁の上から弓がこちらを狙っています』
「意外と防衛はしっかりしてるんだ。あ、降りるね」
そういってカカリアは肩車をやめて地面に降りる。
「裕也も気を引き締めなさい。私たちが盗賊って思われることもあるから」
「ああ」
とはいえ、弓程度では傷なんてつかないので、どうしたものかと思っていると……。
「〇×◇◇~!!」
門の前に槍を持った人が4人ほど出てきてこちらに叫んでいる。
あ、そういえば言葉通じないけどどうするんだ?
「椿。翻訳」
『今やっています。パターン解析。事前の調査と照らし合わせ……今更新しました』
椿がそういい終わると……。
「あんたたち何者だ!」
そういってこちらを誰何する年配のおっさんが前に出てきていた。
さて、どう説明したもんか、予定通りでいいのか?
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