レポート16:「今後の行動について」
「今後の行動について」
お昼ご飯を終えたころにやってきた佐藤さんはセージが作った資料に目を通している。
といっても紙媒体ではなく、データ媒体なので空中投影モニターで見ている。
いやー、物体がないって便利だなーと改めて実感している。
かさばらないし、データを送るだけで終わりなんだから、日本もずいぶんとデータ化しているが、それでも書類という紙媒体がいまだに必要だ。
いつか佐藤さんたちみたいな完全データだけの世界がくるのはいつになるのだろうかと考えていると……。
「はい。確認いたしました。では、次に現物を見せてください」
「こちらです」
そういってセージ主導で佐藤さんを宇宙船へと連れていく。
石が保管されている研究室だ。
「では、記録を開始しますね。そちらも記録を」
「はい。記録を開始します」
佐藤さんとセージの両方から記録を取る。
なんか本格的な心霊調査みたいになっているが、科学的な側面からだから別の意味でワクワクする。
そして、佐藤さんが石が収められている小箱を目にしんだけど……。
「こちらが?」
「はい。確認できますか?」
「ん~」
佐藤さんは顔を近づけ、目を細めて確認しているようだが。
「全然見えませんね! いやぁ、すごい。私も魔術に関しては今まで接触してきた現地の人にいて習得しているはずなんですが、まったく見えません。つまりこれはあの惑星独特の物質という可能性が高そうですね」
「お~。って佐藤さんって魔術とかつかえるんだ」
「ええ。そうですよカカリアさん。私も惑星調査で随分とファンタジーを冒険してみましたから」
佐藤さんはそういうと人差し指をたてて。
「火よ灯れ」
そういうと指先に炎が現れる。
「「「おー」」」
とセージを覗いた3人で驚きの声を上げる。
「これは魔力というものを使ってやるものなのですが、それを使っても認識できない石というのは不思議ですね」
「つまり魔法とかは関係ないと?」
「いえ、何も調べていないので何とも言えません。魔力が変質してそのような能力を持ったとも考えられますし、なにより地球の野田さんの家にあった人形を触ることで見えるようになったというのも不可思議ですので」
確かにその通りだ。
関係ないのかも今の時点では何も判断できない。
「では、佐藤さん。次は人形に触って……」
セージはそう続けて人形に案内しようとしたのだが、佐藤さんは動かず。
「いえ。人形を触る気も見る気もありません」
「え? どうしてですか?」
「全員が全員見えてしまっては異常性が確認できなくなります。私が見えない立場をとります。その私に見える状態にして、見えない状態に戻るようなものを提供してください」
言っていることはわかるのだが、それをどうやってたどり着いたらいいのかさっぱり予想がつかない。
すると佐藤さんはこちらを見て。
「どうすればいいかわからないという感じですね」
「お恥ずかしながら。何かお考えがあれば教えていただけませんか?」
「ええ。いいですとも。そのための私ですからね。簡潔に言いましょう。惑星調査を進めてください。特に現地の人と接触をして石の調査をすすめてください。それが研究を進める近道となるでしょう」
「なるほど。当初の方針を転換というわけですね。ですが、あのような生き物との遭遇があるわけですが……」
安全な調査からバイオレンスな調査になるというのはちょっと、そう思っていると。
「もちろん。危険性が増すことは理解しています。だからこそ給料アップですよ。とりあえず、オオトカゲらしきものの力は見ましたがそこまで調査の妨げになるとは思えませんでした。シールドだけでも傷をつけることはできないかと。まあ、それ以上の脅威がある可能性はあるのですが、もちろんそういう時は撤退していいですし、その時も私に連絡をしていただいて構いません。それで、具体的にどれだけ金額が上がるかというと……」
佐藤さんはそこまで言って紙媒体の書類をこちらに差し出してきた。
俺はその書類を受け取って確認してみると……。
「10億……」
びっくりするほどの金額が提示されていた。
「き、昨日は1億と……」
「ええ。そういいました。ですが上に掛け合ってみると、そのレベルの仕事ならもっと報酬をださないと拒否されるということでして、この金額プラス本当だった場合さらに3倍という話になりました」
「さらに、3倍!?」
「ああ、もちろん解明できればですよ? とはいえ、それが本当であればというのもあったのですが、この資料があれば上を納得させられるでしょう。さらなる金額アップもあり得るかもしれません」
「それほどですか。……しかし、そこまでの新発見なら佐藤さんたちがしっかり調べるべきでは?」
こういうのは素人ではなく、ちゃんとしたプロが調べることは必要だと思うんだが、佐藤さんは首を横に振って……。
「手柄を横取りすることになりますからね。そして、先ほども言ったように本当にあるかどうかわかっていないし、特有の人種にしか扱えない技術の可能性もある。なにより、前も言いましたが田舎での仕事は……」
「ああ、そういうことですか」
田舎嫌いというか、そういう所は本当に問題なんだなと実感のこもった言葉だ。
「私自身は石が見えないという立場を取っていますので調査をするわけにもいきませんし、何より私は調査員のサポートなどがメインですからね。あと、こういう新技術に繋がるようなことに対してあまり接触は好まれないんです。ほかの宇宙連邦に敵対行為とみられかねませんからね。とはいえ放置はできないので調査をする必要はあるのです」
何というか本当にめんどくさいな宇宙人。
いや、言っていることはわかるんだけど。
「もちろん通常調査に関しても倍を約束させました。セージさんが作った資料を提示すれば固いでしょう。いかがでしょうか? お願いできませんか?」
むむむ……。
正直危険があると言っても佐藤さんたちの技術のバックアップが受けられるこの状況でそこまで危険があるとは考えてはいない。
最悪宇宙船からの直接サポートもできるから脱出に関しても問題ないと思っている自分はいる。
そして報酬も十分に提示してもらっている。
あとは俺次第ではある。
……佐藤さんは俺を見込んでといった。
あれは俺を辞めさせないためのお世辞でもあることは間違いないが、佐藤さんが俺を信じたという事実もある。
馬鹿が騙されたと思うか。
ま、お金は惜しい!
実際調査費用は翌日振り込まれていて、ネットで銀行を確認したとき本当かという気持ちでいっぱいだった。
即応性もあるし、そうそう悪いことにはならないと。
まあ、これからというのもある。
要求がエスカレートするのであれば考えればいいか。
そう思い、俺は……。
「わかりました。調査を引き続き行いたいと思います」
「おお! ありがとうございます!」
「ですが、先ほども言ったように危険があればすぐに撤退することはありますのでそこはご了承いただきたいのですが……」
「それはもちろんです。調査員の安全が最優先ですとも! そこは椿さん、セージさん、カカリアさん。よろしくお願いしますよ」
「「「はい」」」
3人は元気よく返事をして、それを見た佐藤さんはうんうんと頷く。
「まだ数日とはいえ、ガイノイドの彼女たちと良好な関係のようでたすかります。バカな人はこの数日ですら持たず通報がくる場合がありますからね」
「それは……」
まあ、自分好みの女性を作ったんだから好き勝手にしてみたいという気持ちはわからないでもないが、事前の説明で無理やりなどはよくないと聞いていただろうに。
いや、それだけ彼女たちが魅力的に見えたってことか。
そんなことを考えながら彼女たちを見ているとこちらの視線に気が付いたようで。
「裕也さんは大丈夫ですよ」
「ええ。そこらへんは心配してないわ」
「というかいつでもいいよ~」
普通に答えてくれるが、まあいきなりそういうことをするのは俺としては気が引ける。
もちろんうれしくもあるけどな。
そういうのはタガが外れそうで怖い。
「まあ、そこらへんは本人たちの気持ちですからね。私から言うことはございません。それで、調査方法についてですが、セージさんからいただいた情報を考えると、調査を開始した森から抜けて、近くの村を目指すのがいいでしょう」
「村ですか?」
「ええ。この手合いの文明レベルですと町になると入る際に検査があります。そのさい必要最低限の知識がないと怪しまれます。戦争をよくしているようですからね。だからまずはその手の検査が難しくない村に行って情報を集める方がいいでしょう」
「なるほど。確かにその通りですね」
どんな地域ルールがあるかもわからないのに町に行くのはちょっと危険か。
それなら村に立ち寄って旅人だということにして話を聞く方がいいわけか。
「あとは、まあ、物語でよくあることなのですが、馬車などを襲われている人を助ける。ですね」
「あはは。よくある物語の始まりって感じですね」
「はい。ですが、一気に信用は得られます。無論善意を持っている人だけとは限りませんので注意は必要ですが。そこらへんは宇宙の方から監視してもらって情報をもらうといいでしょう」
「意図的にそういう状況を探すってことですね」
「ええ。その通りです。まあ、これはどうしても時間がかかりますからね」
「そうなるとやはり村ですね。セージ近くの村ってどこにあったっけ?」
「まって。えーと、前回の地点なら10キロ先に村らしきものがあるわね。それからさらに20キロ地点に町らしきものがあるわ」
映像が空中に浮かぶ。
そこにはそこまで裕福には見えない農村が映っている。
とはいえ、死にそうなのかというとそうでもないし、何とか毎日を過ごしているように見える。
「ふむ。見たところ盗賊が化けているということもなさそうですし、この村ので情報収集をしていいでしょう」
「盗賊の根城ですか?」
「ええ。こういうレベルの文明だと盗賊が廃村を利用して住み着くこともありますし、最悪は村を皆殺しにして成り済ます例は多々あります」
「……不意打ちをするためですか?」
「それもありますし、手ごわい相手と思えばそのまま村人で通すんですよ。犯罪者が普通に過ごしているのと同じですね。おかしい行動をとって怪しまれる必要はないということです」
「ああ、そういうことですか。あと教えてほしいのですが盗賊の根城ではないと判断したのはどこででしょうか?」
ぱっと見ただけで判断できるものなのか?
そう思っていたんだが……。
「それはですね。女性や子供が多いのと畑がしっかり手入れされているところでしょうか? 女子供が盗賊の一員という可能性はありますが、正直あまりそういうのはないのです。足手まといですからね。その場で使い捨てが多いです。畑の手入れに関してはその通りです。盗賊をする連中が畑を耕して育てますかってことです」
胸糞悪い話ではあるが、理解はできる。
確かにあんな風に女子供が普通に出歩いているのはおかしい気がするし、畑の手入れもされているからその可能性は低いか。
「とはいえ、注意は必要です。油断はしないようにしてくださいね」
とまあ、こんな感じで明日の惑星調査のために佐藤さんから現地人とのコミュニケーションレクチャーを受けて備えるのであった。
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