レポート15:「心霊スポットの定番」

「心霊スポットの定番」



目の前に広がるのは多くの人が眠る墓地。

俺たちはホームセンターでの買い物終えたあとお供えの花をもって墓地を訪れていた。


「ここが心霊スポットなのですか?」

「まあ、ポピュラーだとは思うけど、ほかになかったの?」

「ないことはないが、ほかの心霊スポットって山の中で距離があったり、廃墟で不法侵入になる場所だからな。遭難や逮捕とかは避けたい」


心霊スポットの問題はこの二つが大きい。

誰にも迷惑が掛からないならいいのだが、心霊スポットのトラブルはかなりの確率で事件になる。

まあ、さっき言った不良とか不審者の住処になっていることも関係しているのだが、恐怖と相まってパニックを起こすから被害が大きくなるわけだ。

それで不法侵入のコンボにもなるから、社会人という責任を取る立場になればなるほどそういう迂闊な行動はしない。

だからこそ、ちゃんを許可をとってその手の映像を上げている人たちは素直にすごいと思うわけだ。

それだけ心霊に対して熱意があるということだからな。

そして何より……。


「ただ幽霊見たいって好奇心だけじゃないからな」


俺はそういって花を見せる。


「裕也の知り合いが眠ってるの?」

「いや、この墓地に知り合いとかはいないな」

「ではなぜお花を?」

「無縁仏っていうのはどこにでもあるからな。誰にもお参りされない墓に参るだけだよ。そういう礼を尽くすのは大事だ。呪われないためにもな」


幽霊の確認に来たのは事実だとしても呪われたいわけじゃない。


「ああ、確かに。呪われたくはないのよね」

「そうですね。悪いことをしに来たわけではないのですから、そのための敬意ということですね」

「そういうこと。あと、お花と水をもっていたらほかの人から見てもお墓参りって見えるだろう?」


そう建前上お墓参りにきたっていう設定だ。

ということで、俺たちは霊園に足を踏み入れる。


「ねえ、そういえばここってどんな噂があるの?」

「そうですね。噂の幽霊に会う確率の方が高そうですし、教えていただけますか?」

「ここの幽霊な~ちょっとまってくれ」


俺はそういいながらスマホを操作する。

心霊スポットなのは知っているが、どんな幽霊が出るかなどは知らないので調べてみると……。


「ここに出る幽霊は、手とか足とかが多いみたいだな」

「手とか足とかですか?」

「ほら、この映像」


俺は動画サイトに挙げられている映像を二人に見せる。

そこには心霊スポット巡りをしている撮影者たちの進行方向の先に手招きをしている手が見える。


「うーん。映像が荒すぎて合成かどうかも微妙ですね」

「だね~。こういうのってやらせも多いんでしょ?」

「まあな。とはいえ、もともとの噂も墓参りの後の帰ろうとすると引っ張られるって話だから、あながち間違いでもないだとは思う」

「返したくないってこと?」

「そういうこと」

「だから手とか足で気を引くと? なら本体が出てきて引き留めた方がいいのでは?」

「いや、椿。本体が出てきたら逃げるじゃん。私は全力で逃げる」


カカリアと俺も同意見。

幽霊が俺たちを引き留めようと出てきたら、普通は逃げる。


「え? なぜですか?」

「そりゃ、こっちに危害を加える気満々だからでしょ?」

「いえ、話し相手になってくれって普通に話されたらとどまりませんか?」

「それは一般的に取りつかれているって感じだな。あとそういう時の幽霊って尋常じゃない表情をしているはずだから、まともに会話を選択するやつっていないだろうな」

「そういうモノなんですか?」

「そういうモノだと思うよ」


どういうわけか椿は幽霊に対してあまり警戒心が無いようだ。

基本的に見える幽霊っていうのはこの世に未練があるもので、あまり良い者であることは少ないって聞いたことはあるからな。

と、そんな話を墓場でするのはどうかと思うが、そんな話をしながら墓場を進んでいると喪服の腰が曲がった女性に出くわしお互い道を開けて頭を下げる。

道がそこまで広い墓場じゃないからな、譲り合いの精神ってやつだ。


「お墓参りに来られている人が私たちのほかにもいるんですね」

「いても別に不思議じゃない。毎日どこかで誰かが亡くなっているんだからな」

「だね。あのおばあちゃん喪服だったし、最近誰かを亡くしたんだろうね」


喪服で来るってことはそうなんだろうな。

いや、古いっていうのは言い方があれだが、近しい人が無くなったらしばらくはその服装で過ごすって人はいるのは聞いている。

実際あのおばあさんがどうかはわからないけど。


「で、無縁仏に来たわけだが。何も見えないな」

「そうですね。ですが誰かお参りには来ているみたいですね。無縁では?」

「こういう管理されているところの無縁墓地はここの管理者の仏閣が供養をしているんだよ。っと」


俺はそういいながらまずは目の前にある墓石に桶から水をかけてほうきと塵取りで掃除を始める。

全部は無理だが椿やカカリアと一緒に一部だけ、水がなくなるまで掃除をしてからお花を添えて両手を合わせる。


「夕方、今晩、お世話になりますのでよろしくお願いします」

「何をですか?」

「ここにちょっかいだしにくるからな、事前にあいさつしているってやつかな」

「それで許してくれるといいって。それで幽霊でてこなかったらそれはそれで問題じゃない?」

「出てくるにもレベルがあるだろう? チラッとだけならともかく、襲ってこられると困るからそういうのはなしでってはなしだよ」

「なるほど。襲わないでくださいってことですね。私もそうお願いします」

「うん。それは同意。僕ちびるかもしれないからそれでお願いします!」


3人で一緒にお参り?をして午前中は終わった。

帰りに、パン屋を見かけたのでテレビで出た場所ではないがよっておやつを購入して帰る。



「それで結局何もなかったのね。あら美味しい」


セージは買ってきたパンを食べながらお墓参りの報告を聞いている。


「録画した映像にも特に問題はなしと」


ついでに俺がスマホで記録した映像データも確認しているから、器用なもんだ。


「そちらは何もなかったのですか?」

「ん? ああ、こっちは何もないわね。調査している人形が動くこともなければ家でポルターガイストが起こるわけでもないわ」

「そっかー。というか何か解明したことはないの? 石は見えたんでしょ?」

「そうね……。わかったことといえば、重さぐらいかしら? 見える人だけには重さを感じるようなの。錯覚かとも思ったんだけど、数値に出てたから間違いないわ。こういう時ガイノイドって便利よね。部位の感度あげるってことができるから」


そういってセージはデータを見せてくれた。

石の重さはおよそ0.3グラムほど。

1円玉のおよそ3分の1。

そりゃ普通はわからん。


「でも他はさっぱり。何が理由で見えたのか、この石の成分はなんなのかっていうのも。幸いなのは今のところ妙な病原菌みたいなのはないことね。バイタルも全員チェックしたけれど接触によっての変化も見られない。まあ、継続はしていくけど椿、カカリア、そして私はまだ2日目だけど、裕也は人形とかに触ってずいぶん経つでしょ?」

「まあ、かれこれ1年は経っているな」


そう呟いて、この夜星村に来てからまだ一年ちょっとなのだという事実に気が付く。

もうずいぶん長いこといる気がするけど、まだまだちょっとだったわけだ。


「1年もたって何も不調がでてないなら、特に問題なしってことよね。まあ、裕也が例外って可能性はあるからバイタル調査は続けるけど」


確かに被験者はまだ俺だけだしな。

確実なことは言えないだろう。

しかし、俺がウィルス耐性をもつ10人に1人の存在かって言われると疑問だけどな。


「それで、あとは夕方と深夜に墓場に行こうかと思っているんだけど」

「夕方はともかく、深夜はやめたら」

「なんで、その時間が一番幽霊が出やすいんだよ?」

「出やすいって見間違えしやすいってことでしょ? わざわざそんな時間帯に行く理由があるの? というか、いくら霊園とはいえ管理の監視カメラとかあったら一発通報よ。さらにはそこまで行く間に目撃はされるだろうし、通報されたら面倒よ」

「確かにそうですね。深夜に墓地っていうのはあまりいい方にはとられないでしょうね」


うん、絶対よからぬことを考えているって思われるよな。

あと霊園の監視っていうのは考えたことはなかったが、なくもないよな。

最近の個人動画で無断侵入でしょっ引かれるっていうのはよくある。


「それに明日は佐藤さんがくるんだし、普通に寝て起きて待ってた方がいいわ」

「「「それはごもっとも」」」


そういえば明日には佐藤さんがきて状況説明とこれからの相談をする予定だった。

無理に今日深夜頑張る必要はないか。


「じゃ、夕方っていってもあと2時間ほどだけどな。日暮れって今日は何時だ?」

「えーと、確か6時半ぐらいかと」

「なら、あと3時間ぐらいか。その間は買ってきた道具を仕分けして休憩するか。下手に何もできないしな」

「それでいいんじゃない。私の資料もあと1時間ぐらいでまとまるし、確認してもらえると嬉しいわ」

「わかった」

「じゃあさ、またゲーム勝負しよう! 今度はカートで!」

「おお、そうするか」


ということで、夕方の調査もお墓参りに来ていた人と数名すれ違ったぐらいで変化もなく、問題なくその日を終えることになったのだった。


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