レポート14:「とりあえず報告」

「とりあえず報告」



人形をすべて運び込んだあとセージに言われていたことを実行することにした。


「……というわけで、実験みたいで悪いんですが、いいでしょうか?」

『ええ。構いませんよ。しかしあの惑星にそんな不可思議なことがあり、それを解決するのは野田さんの家にある人形。いやーロマンを感じますね』


そう、話し相手は佐藤さんだ。

いまセージが人形のことを調べているが、実地試験として佐藤さんに協力してもらいたいとのことだった。

まあ、見えてない人がいないとわからないこともあるだろうしな。


「ありがとうございます。では、いつ頃がいいでしょうか?」

『そうですね。なるべく早くの方が野田さんたちも安心でしょうし、その間は惑星調査も中断しているんですよね?』

「ええ。みんなで話し合った結果、少しでも情報を集めようということになりまして。まずかったでしょうか?」

『いえいえ、慎重でなによりです。こういう報告を細かく上げてくれて感謝ですよ。おかげで野田さんが請け負っている惑星の調査ですが単価が上がります。その見えない石に関しての情報などは解明で1億の報奨金確定です』

「1億もですか!?」


あまりの金額にびっくりしていると、電話の向こうから佐藤さんは笑いながら……。


『何を言っているんですか。新種の動植物にかんしても、石の解明にしても新しい道を切り開くきっかけですよ? つまり1億なんて端したお金になりかねないんです。しかも特定の行動をしないと見えないという技術は転用次第では光学迷彩を超える技術になりますからね』

「ああ、確かに」


そう考えるとその通りだ。

普通の人には見えなくなる技術があればそれはすごいことだろう。

その解明が1億と言われると確かに安い気がする。


『とりあえず、私は明日の昼にお伺いします。その間に報告書をまとめておいてください。ああ、セージ君に行ってくれればやってくれますから』

「わかりました」

『では、失礼いたします』

「はい。お時間をいただきありがとうございます」


そういって電話が終わる。


「どうだった? 協力してくれるって?」

「ああ、明日にでも来てくれるってさ。すごい発見だって、報奨金も上がるとかなんとか。だから資料をまとめておいてくれって、セージわかるか?」

「もちろん。その資料もまとめているわよ」


なら安心だな。

そう思っていると、一緒に調査風景を眺めているカカリアが退屈そうにしながら……。


「なんで掃除もだめなんだよ~」


と、漏らしている。

人形を触れて石が見れるようになってから部屋の掃除は無期限延期となってしまったのだ。

まあ、それも佐藤さんと話し合いで決めることなのでそこまで延期にはならないと思っているが、その理由は……。


「さっきも言ったでしょう? この家の物に何か変な力があるのはあの人形から確認できたんだから、うかつに触るわけにはいかないのよ。裕也がいろいろ触っている可能性は高いし、その差異を調べる必要もあるから、掃除はダメ」

「カカリア。原因の特定をしないといけないですから、ここは我慢です。というかそこまで掃除にこだわるのはなんでですか?」

「そりゃ、何か宝物があるかもしれないし」

「そういう意味では物凄い宝物はいきなり出てきたじゃない。見えないものが見えるようになる人形」

「言い方が怖いな~」

「そのとおりでしょ」


確かにその通りなんだが、その言い方だと幽霊とかも見えそうなんだけど、そういうのはないんだよな~。


「ねえ。そういえば、裕也は幽霊とか見えないの?」


なぜか心を読んだようにカカリアが質問してきた。


「いや、前もいったと思うがそういうことは経験すらない。いや、まあ気のせい程度はあるかな?」

「へぇ、それってどういう?」

「例えば、実家に住んでた時は誰もいない二階でモノが倒れるとか……」

「それはただ単にその物が何かの衝撃で倒れたのでは?」

「その可能性はある。だから気のせいレベルなんだよ。露骨なポルターガイストとかはなし」


とりあえず改めて霊感などはないと宣言すると、セージが資料をまとめながら……。


「裕也はこの土地に移り住んでから、肝試しとかはしてないのかしら?」

「してないな。そもそもそんなことをする年でもないし」


肝試しなんぞ学生時の特権だ。

社会人になるとそんな時間も惜しくなるからな。

まあ、趣味で動画を上げている人たちには感謝している。

あれを見るだけでワクワクするからな。

娯楽としての恐怖映像とかは大好きだ。

作り物過ぎて爆笑できるからな。


「なんでいきなりそんな話を?」


そういう不確かなモノには懐疑的なセージがそんなことを言ってきたことにたいして不思議だったので質問を返してみる。


「ほら、人形を触って見えない石が見えるようになったでしょ? どちらかというと人形で見えるって心霊系と思わない?」

「ああ、確かにそういわれるとそうだよな」


日本人形を触って見えないものが見えるようになりましたっていうと日本人であれば、おそらく満場一致で幽霊が見えるようになったのかというだろう。

外国なら殺人人形か? いやあれもそういう魂が宿ったって話だから意味は同じか。


「今日、掃除ができなくなって暇でしょう? だから畑の拡張計画とか道具を見てくるついでに、そういう所に寄ってきて見えないか確かめてくれないかしら? あ、肉眼記録とは別にスマホでも撮影してね」

「……話は分かったが。そういう所って正直あまり行きたくないんだよな。治安が悪いから」


そう、幽霊が出ると言われるような場所は不審者のたまり場になっていることが多い。

肝試しに行くなっていうのは、そういうトラブルを避けるためでもある。

俺としてはまっとうな意見を言ったつもりなんだが、セージは資料を作る手を止め、顔を上げて胡乱な目でこちらを見ながら……。


「裕也。何のために改造してシールド装備の服をしていると思ってるのよ。心霊的なこと以外であなたが傷つくわけないでしょう?」

「あ、そうだった。ってまてたちの悪い怨霊とかいたらどうするんだよ」


体は確かに丈夫になったし、服も飛んでも性能だが、そういう霊的な防御があるとは思えない。

日本の幽霊とか殺意高いしな。


「大丈夫。そういうのが出てきたらカカリアに任せなさい」

「ひっどー!? 僕を盾にするつもり!?」

「ガイノイドに幽霊がどういう反応を示すか楽しみよね。あと外国人にも反応するのかいい実験ね。椿は裕也のフォローよろしく」

「わかりました」

「いや、幽霊の相手って誰かに擦り付けられたか?」



俺のつぶやきは相手にされることなく、農具を見るためにホームセンターにまず寄ることになった。


「先に心霊スポットにはいかないんですね」

「そりゃ椿、心霊スポットに真昼間から行っても遭遇するわけないじゃん。幽霊って言ったら夜だよね?」

「え? 日が暮れるまで戻らないんですか?」

「いや、そういう予定じゃない。とりあえず、ここで農具とか種とか見てからそのあとに心霊スポットの下見をして、夕方に来て、見えなかったら深夜に来る予定」

「「夕方?」」


2人とも同時に首をかしげる。


「夕方ってのは、昼と夜が交わる時間帯って言ってな、深夜の草木も眠る丑三つ時と並んで幽霊が出やすい時刻。逢魔が時って言われているんだよ。つまり逢う魔の時間」

「……ああ、確かにそういう話があったようですね」

「うん。僕も今調べた。なんというか、不思議だよね。トワイライトゾーンって言って外国でもそういう話があるね」

「昔は夜は基本的に寝るからな。活動時間で目にする時間帯が警戒されたんだろうさ。で、そこはいいとして不意に思ったんだけど佐藤さんたちは複製機があるからこうして外に買い物に出ることってないんだよな」


俺は除草剤を一つとってかごに入れながらそう言う。

ふと思ったのだ。

複製機があればこうして外にでることはない。

家にいれば何でもそろうのだ。

時間をかけて外に出る理由はないんだよなーと思ったのだ。

だが……。


「いえ。基本的に複製機の使用は緊急時、つまり災害時、戦争時、および任務を遂行中の宇宙連合公務員ぐらいしか認められていません」

「え、なんで?」


意外な答えに俺はとても不思議に感じた。

すると、カカリアは自分用のスコップをかごに入れながら……。


「あれだよ。何でも家で揃うと外にでなくなるでしょ? コミュニケーションもスマホみたいな通信もので済むし、運動もVRがあるけど、昔それで問題が出たんだ。外に出るのが怖いとか、実際の人となんか話せないとか、運動もVRとは違ったとか」

「ああ、ギャップか」


考えてたことと実際やることは感覚が違うっていうのはよくある。

練習と実践が違うこともだ。

それと同じことが起こってしまうようだ。


「そうそう。それだけで済めばいいけどさ。いくら家でVRとかで運動できるとしても、コミュニケーション取れるとしても、それを続けることってできると思う?」

「……運動とかコミュニケーションが好きな人ならできると思うが、そうでない人が問題だったのか」

「そう。どうしても運動しない人とか、コミュニケーションをとらない人が出てきて肥満とか意思疎通が困難だとか言う問題があったんだ」

「はい。それで、一般人は複製機の使用は禁止になりました。買い物にでるだけである程度の運動と店員とのコミュニケーションが取れますからね」

「はぁ~。世の中そう上手くはいかないんだな」

「こうして商品をみると色々インスピレーションとか出てくるしね~。複製機は自分たちが欲しい物だけを画面越しに見るだけだし。あ、このジョーロ面白いよ椿」


カカリアはそういって、ぞうのジョーロを手に取って椿にみせる。


「かわいらしいですね。ジョーロの機能だけでなく、こうして造形にこだわると愛着がわきます」

「だよね~。色が違いもあるし、僕たち一人ずつ買っていい? セージのお土産になるし」

「使うかどうかは別として、お土産ならいいんじゃないか」

「やったー」


大概そういうかわいいジョーロは気が付けば物置で寂しく置かれていることが多いよな。


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