レポート13:「見える条件」
「見える条件」
「……椿って案外肝太いのね」
「失礼ですね。かわいいものをかわいいと思ってはダメなんですか?」
「いえ、そうね。趣味は人それぞれだし。フランス人形とかも人によっては怖いものね」
セージの言う通り、フランス人形は日本人形よりもより人に近いからなお恐怖があるよな。
まあ、とはいえ人それぞれだから口出しするだけ無粋ではある。
「それで、一つの部屋の片づけは終わったってことね」
「ああ。何か必要なものがあれば持っていくとい。予定通りに仕分けしているから」
「そうね。時間が空いたときにでも見ておくわ」
「早い者勝ちだから、あとで譲ってとかいわないでねー」
「そういう時は複製するから大丈夫よ」
そんな雑談をしながら俺たちは今昼食をとっている。
あの濃いお片付けも午前中の出来事だ。
いや、あんな部屋の片付けを夜にするとかありえないけどな。
「あー、サンドイッチも美味しいよね。パンも捨てがたい」
「それなら焼き立てパンとかがもっと美味しいぞ」
「確か今朝のテレビで特集やっていましたね。隣町に人気店があるとか」
「見た見た。美味しそうだったわね」
「なら次の休みに行ってみるか」
「いいねー。お金も出るし、それ使っていい?」
「ああ、いいぞ。給与の範囲なら問題なし」
ちなみに、カカリアたちにはちゃんと社員として給与が支払われているらしい。
ガイノイドに何でと思ったが、感情はあるし労働力として使っているのだから給与を払わないと逆に人が邪魔と判断されかねないとのこと。
ああ、確かに。
給与も払わず酷使するだけのような存在に使われるようなことはないってことか。
だからなおのことガイノイドたちをメインで使うことはないわけか。
「で、休みの予定はいいとして、セージは何かあれからわかったの?」
あれというのは俺にしか見えない石の存在だろう。
「まったく。いえ、とりあえずそこに何かがあるのは間違いないわね。触ることはできるのよ。でも、裕也の視界以外には認識ができないの。あらゆるスキャンも全部駄目。わかるのは小箱の中の布が凹んでいることからそこに何かがあることだけ」
「重量などは確認できないんですか?」
「それが不思議でないのよ。ミリグラムも反応しないの。そういえば裕也持った時に重さとか感じた?」
「意識してなかったな。そもそもあれだけ小さいからな」
「そうよね。ほんとどうしようかしら、何か別の方法があればいいんだけど」
見えない何か、計測が一切できないとか不安要素でしかないもんな。
とはいえ、それで惑星調査ができないっていうのもあれだけど……。
「やっぱりあれだよ。魔石で魔力が集まって魔物ができる。それをレーダーは観測したってわけだよ」
「……一応理屈としてはありなのが納得いかないわ。そもそも魔力って何なのよ。エスパー系の能力?」
「あれって解明されているでしょ? 一定の脳波周波数で外出可能なエネルギーができるから使えるって」
「そうね。それもやったけど不明」
「だからこそまだ解明していない何かでしょう?」
「言いたいことはわかるけど、そんな簡単に新発見があるわけないのよ」
「新種は沢山あるのに?」
「……」
意外とカカリアは口が上手いようでセージを言い負かしている。
俺はここらへんの確立とかはわからないから何とも言えない。
あ、いやこの3人の上司として考えるなら。
「まあ、あと数日は様子をみよう。それでわからなければ佐藤さんに連絡だな。不明なものがあるってさ」
「私もそれがいいと思います。正直私もこういうことは初めてなので」
「そうよね。こういう新能力が見つかることはままあるけど、観測できる人が限られているって変な話よ」
「だね。でもさ、こういう未知が見つかるのって楽しいよね~。惑星調査に人気がないのが不思議」
「おそらく未知だからこそ人気がないんですよ。それだけ危険があるってことなんですから」
「そうね。学者とかなら楽しいけれど、そういう人だけじゃないんだから。不便なところにわざわざ行きたいなんて人はいないわよ」
世の中好き好んで危険なところに行ったりするのはごくわずかだしな。
というか、そんな危険な職業に就くことすら止める人がいるだろう。
「じゃ、今日の午後は引き続きセージは石の調査で、俺たちは部屋の掃除ってことでいいか?」
「ええ。それでいいわ」
「はい。わかりました」
「よーし。もっと部屋を掃除して使える場所をふやしていこー。って、その前にセージ石ってどこに置いてるの?」
「普通に宇宙船の研究室だけど? 何かあったの?」
「いや、セージがいじくりまわしすぎて壊してないかなーって」
「あんたねぇ。ほら映像。じっくり見なさい。壊れているかどうかでさえ確認できなでしょうけど。と、私も心配になってきたから、裕也も確認して」
「ああ」
確かに見えない物が壊れても確認できないよな。
そう思って俺も映像に視線を移そうとすると……。
「あれ? 石見えますね」
「見えるね……」
「そういう嘘はいいから」
セージは簡単にあしらうが、2人はその言葉に反応せずに映像をガン見している。
その様子に冗談を言っているのではないと感じ取ったセージは……。
「本当にみえてるの?」
「えーと、どう証明したらいいのか……」
「そうだ。裕也、紙とペンない?」
「ああ、書いてみるのか」
俺は今の固定電話の横にあるメモ帳をとペンをとって渡す。
今どき珍しいかもしれないが、正直に言おう、ほぼ飾りだこれ。
固定電話とか今の時代誰も使わないからな。
なんかネット回線引くとき電話番号もいるからってことで、とりあえずこの家にあった古いダイヤル式の電話をそのままつなげている。
と、そんなことを考えているうちに、椿とカカリアは絵を描き終えたようで……。
「裕也さん見てください」
「できたよー」
差し出してきた絵だが椿はちゃんを周り、つまり小箱も含めてちゃんと書いている。
対してカカリアは小さい石をでかでかと書いていて形状などは細かい。
そして共通しているのは石の形だ。
つまり2人には同じ石が見えているということだ。
そしてそれは……。
「ああ、俺が見ているのと同じだな。何というか細長いお米みたいな感じの形状だ」
「え? 合ってるっていうの?」
セージが信じられないっていう顔で俺に確認を取ってくる。
俺は改めて映像に映る石と、書かれた絵を見比べてうなずく。
「合ってるな」
「ええー!?」
その驚きは当然だと思う。
見えない物が見えるようになったからな。
原因は不明。
「口裏合わせてる……様子はなかったわね」
「そんなことしませんよ」
「する意味ないしね~。でも、なんでだろう?」
確かに見えるようになったのはなんでかわからない。
「昨日の今日で見えるようになったんだし、その行動を思い出しなさい! 今すぐ!」
「落ち着いてください。そんなに大声出しても速度は上がりませんよ」
「そーだよ。というか、昨日はその石見つけた後はお風呂入って寝ただけじゃん。なら今日の行動でセージと違いがあるとことっていうと……」
「わかりやすいのは、午前中の行動の違いだな。あとは寝ている部屋の違い」
「そうね。となると、まずするべきは午前中にやった部屋の掃除ね。寝るなんてことは今すぐ試して結果が出ることじゃないし」
ということで、セージはまっすぐに人形があった部屋に行き、俺たちもそれに付き合う。
「ここの部屋の掃除をしたのよね」
「ええ。普通に掃除をしました」
「ちょっとまって」
セージはそう言って石が映る映像を出す。
「なにも見えないわね。この部屋に立ち入るのは関係ないみたい。それとも時間? まあいいわ。すぐに結果が分かりそうなものは人形とタンスと着物ね。何か印象に残る物とかあったかしら?」
「そりゃー人形だよ」
「そうですね」
「インパクトはあるよな」
そんなことを言いながら保留している部屋と赴くとずらりとガラスケースに入れられた人形がずらりと鎮座している。
「……聞いてはいたけどこれは強烈ね」
「だよね」
「わかるわかる」
「かわいいですよね」
「「「……」」」
一人だけ意見が違うのだが、そこには俺もセージもカカリアも突っ込まない。
「こほん。取りえず中身を取り出して触ったわけじゃないのよね?」
「うん。外のガラスを持ったり拭いたりしただけだよ」
「だな。共通しているのはガラスケース越しに触ったぐらいだ」
「なら話は簡単ね」
セージはその人形が並んでいる部屋に入ってガラスケースの上をトントンと触っていく。
「えー、ざつぅ。そんなので見えるわけないじゃん」
「私もカカリアに同意ですね。もっと愛情をこめないといけません」
「なによ愛情って。裕也も愛情込めて触ったっていうの?」
「いや俺はそういう意識はしてないな」
俺は素直に意見をいう。
愛情云々は関係ないと思っているからな。
「なら問題ないわ。というかそんな簡単に……って見えた」
「「「え?」」」
予想とは違う言葉に驚く俺たち。
「マジ?」
「本当よ。あー失敗したぁ!? この人形たちのどのおかげで見えるようになるのかさっぱりわからないわ!?」
「つまりこの子たちは処分できないということですね」
「まあ、いいんじゃないか。俺たちの仕事を手伝ってくれているってことだしな。ある意味幸運の持ち物ってことだ。俺も椿みたいに一つ部屋に飾るか」
「というか、どの部屋にも一つずつ置けばいいじゃない? それで何とか減らせるかも?」
「そこらへんは要相談だな」
そんなことを話していると、冷静になったセージが。
「そんなこと認めるわけないでしょ。まずは全部宇宙船に運び込んで調査よ。この人形たちに何かあるのよ。しっかり調べてやるんだから」
「セージ。気持ちはわかりますが、そんな言い方ではこの子たちが嫌がります」
「あー、椿の言い方はどうかと思うけど、大事にしてはやってほしいな。ほらこういう人形には魂が宿るっていうでしょ?」
「俺はそういうオカルトはあまり信じてないが、ここまで綺麗に残ってるから大事に扱ってやってくれっていう気持ちはあるな」
「わかってるわよ。というか、そこまで気にしているなら運ぶの手伝ってよ」
ということで、俺たちは総勢20名の人形たちを宇宙船に運び込むことになった。
転送装置で思ったが、何の影響が出るかわからないから手運びとなったので、意外と疲れた。
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