レポート12:「視界に映るモノ」
「視界に映るモノ」
「これが昨日カカリアが真っ二つにしたやつ。つまり本物ね」
セージの案内で宇宙船の研究室に入るとそこには昨日俺たちを襲って来たオオトカゲが切られたときの状態で保管されていた。
「あれ? 分析したんじゃないのか?」
「したわよ? って、ああそういうこと。別に切り刻む必要はないわ。これが技術の進歩ってやつね」
「なるほどな」
「中身を調べるならここからスキャンしたデータから複製品を作ればいいだけだから」
なんとも合理的なことで。
これも技術力の差なんだろうな。
そんなことを考えているとセージが操作をしてオオトカゲの上半身を空中に持ちあげる。
「さっそくで悪いけど、あの石が存在するとしたらこの地点ね」
セージがそういうとわかりやすく円のレーザー光線が当たる。
その位置にあの意思があるであればあるのだろう。
「地面に落ちた可能性とかは?」
「一応、昨日調べたけどそういうのは見つからなかったわ」
「そうか」
ならばなおさらのこと、この死体の中にあの石が入っている可能性が高いわけか。
「じゃ、取り出すわよ」
そういうとレーザーが円を描いたと思うと、円柱状にくり抜かれた肉が出てきた。
本体の方にはぽっかりと円状の穴があいて向こう側が見えている。
ここまで綺麗に穴が開くとグロイとかは感じないな。
「これを分解して……」
いや前言撤回。
取り出した円柱状の肉塊を皮膚とか内臓とか筋肉とか分けているのはグロイ。
まあ、鳥を絞めるときはこれぐらいは当然するんだが、なんだろうな、食べるためではなく調べるために分解しているっていう意識の問題だろうか?
「やっぱり私には石は見えないわ。椿、カカリアはどう?」
「私もやはりあの映像で見た石は確認できません」
「僕も見えないね。裕也はどう?」
「ちょっと待ってくれ」
見つけろと言っても1センチもないようなサイズの石だったからそう簡単に……。
「って、あったな」
「どこに見えるの? いえ、視界を見るわよ」
「ああ」
俺が許可を出すとすぐに眼前に俺の視界の映像が映る。
それを見るとループになっているのですぐに視線を石へと向ける。
「心臓にくっついているのですか?」
「うわーちっさ。でもサイズ的には5ミリはありそうだよね」
「私たちには見えない。何が違うのかしら? とりあえず、裕也取ってもらえる? 私たちだと落としそう」
「わかった」
俺は空中に浮いている心臓部分に手を伸ばして石を手に取る。
確かに硬さがあるがこれだけ小さい物だ。
力を入れてしまえばあっさり砕けそうな気がするので慎重に扱う。
「取れたわね?」
「ああ。今手のひらの上だ」
「わかったわ」
セージは俺が石を確保したのを確認すると、空中に浮かせていたオオトカゲの遺体をすぐに消す。
どこかに収納したんだろう。
そして箱が現れてそれを取りこちらに出す。
「こっちに持っている石を置いてくれる?」
「おう」
どうやら宝石などを入れる小箱のようだ。
真ん中にそっと置く。
「やっぱり見えませんね。ですが下の布が凹んでいるので何かがあるのは分かります」
「うん。でも不思議だね。つまり私たちの目には何かがないから、その石が見えていないってことでしょ?」
「そうなるわね。とりあえず、私はこの調査をするから、今日は家で仕事をして頂戴。この正体とは言わないけど、危険性の有無ぐらいは確認できないとあの調査は続けられないわ」
その通りだと思う。
2人も納得して、俺たちは素直に居間に戻って今日の予定を話し合うことにする。
「とりあえず、あの石の調査がどれだけかかるかわからないが、今日は一日家で仕事をすることになった。それで、家の掃除をしたいと思う。畑の拡張とかはセージとも話し合わないといけないからな」
「そうですね。それがいいと思います」
「おっけー。この家のお宝見つけてみたかったんだー」
特に反対意見もでなかったので、そのまま家の掃除を始めることになった。
とはいえ、掃除というのは簡単ではない。
力がある分荷物の重さなどには左右されないが……。
「俺たちは価値あるものがさっぱりわからない。とりあえず、全員一緒に一部ずつ回って捨てる物、保管する物を決めていこうと思う」
「効率は悪いですが、そうするしかないですね」
「ま、宝物を間違って捨てるとか嫌だしね~」
「じゃ、そういうことでお楽しみに土蔵はセージや佐藤さんも連れてやらないと悪いだろうし、まずはこの家の中から行くぞ。まずは……」
ということで、さっそく片づけを始めるために部屋を移動する。
この家部屋数だけはそれなりにあるので、意外と大変なんだよな。
幸い夜な夜な物音がするとかはないんだが……。
襖に手をかけ始めの部屋を開ける。
するとそこには、ガラスの箱に入れられた日本人形がズラっと並べられている。
「うげっ!?」
「あら、かわいらしいですね」
後ろにいたカカリアと椿の反応は割れた。
とりあえず、電気を付けて改めて2人に振り返ると、そこには顔が引きつっているカカリアとすでに物珍しそうに近くの人形に近寄っている椿の姿があった。
「えー、これがかわいい? 20体も同じものがあるとこの部屋の雰囲気と相まってむしろ怖いんだけど?」
カカリアの言うことはわかる。
20体の種類は違えど日本人形がふすまを開けた途端こちらを見ているような配置だから、暗い部屋の一なので真面目に驚く。
まあ、この配置も日が直接当たらないようにという配慮ではあるだろうが……。
「そうですか? ここまで綺麗なガラスケースに入れているのですから、それだけ思い入れがあるとわかりますよ?」
「まあ、それはわかるけどさぁ……」
そう椿の言うことは当たりだと思う。
大事にしているからこそ、こうしてちゃんと見れる状態でこの人形たちは存在しているのだろう。
もっとボロボロであれば、捨てるって選択もたやすくできるが、ここまで立派だと捨てるのもためらわれる。
「ま、この人形の評価は人それだろうし、とりあえず、人形たちは下して綺麗にガラスケースを拭く。そして下のタンスとかの中身を確認する」
「はい。では、バケツとタオル持ってきますね」
そういって椿は真っ先に部屋を出ていく。
そしてこの部屋に残されたのは俺とカカリア。
遠ざかっている椿の足音とを聞きながらこの部屋だけはやけに静かに感じる。
「……よし。やるか」
「あ、うん」
どうにもこの空気はカカリアも苦手なようで反応が悪い。
とはいえ、1人でやるよりははるかにましなのですぐに人形を下ろしていく。
ちなみに誇りが積もってガラスケースは白くなっていて、持つと服が汚れていく。
「うへぇ。これっていったいどれだけ放置されてたの?」
「さあな。俺はとりあえず床の掃除だけはしたがその時も床の誇りは相当だったぞ。よく畳が持ったもんだと思う」
「ちょっとまってよ。畳もってことは床が抜けてもおかしくないじゃん?」
「いや、そこまで形が歪んでいる畳はないから状態は悪くないぞ。というか抜けるレベルだと立て直ししないといけないからな。そういうのは嫌で選んだから心配はない。まあ、お金が入れば畳は入れ替えたいけどな」
昔から使っているという畳の割にはそこまで変色も少ないというのは不思議だが、使えるのだからいいではないかと思っている。
「あれだろう。家が立派だから、ちゃんと良い畳を使ってるから持ってるんじゃないか?」
いい物は長持ちするというやつだ。
「そういうもんかな? よっと、でも意外とよく見ると綺麗な人形だね」
「ああ、立派な人形だよな。とはいえ、なんというか遊ぶものって感じじゃないよな。飾り物のタイプだな」
「そりゃ、こんな立派な入れ物に入れてるんだからそうでしょ」
「確かにな。しかし、これを置いておくのもな~」
「邪魔なのはわかるけど、なんかその場合嫌な予感がするよ」
「それはわかる。というかカカリアはそういう感覚あるのか?」
「霊感とかあるわけないよ。でもさ、日本の文化にはこれでもかなり取り入れている方だからさ、こういうのって不味いっていうのはわかるよ。人形供養のところに持っていた方がよくない? 儲けようとか考えるときっと事故だよ」
「わかるわかる。そんな感じだよな。あとは、捨てても戻ってくるとか」
「ありそう~」
人形の呪いってやつだ。
そんなくだらない話をしながら人形を半分ほど下したところで……。
「お待たせしました」
「「うひゃっ」」
背中から椿に声をかけられて飛び上がる俺とカカリア。
「び、びっくりしたー」
「油断してたな」
「はい? とりあえず、用意しましたよ」
椿は首をかしげつつ用意したバケツとタオルを畳の上に置く。
「ふう。じゃ、2人で拭いてくれるか。俺は引き続き人形を下ろす。で、拭いた人形は隣の空いている部屋にいったん移動。保留の場所だ」
「はい。わかりました」
「まかせて」
今回の掃除においていきなり残す捨てるのではなく、部屋で「残す」「保留」「捨てる」を分けておくようにしたのだ。
それで最後に確認をして処分する。
それで価値あるモノの損失にならないように、あと呪わないように。
いわくつきの物がないとは限らないしな。
しかし、世の中は普通でつまらないもので、そんな呪いなどは起こることもなく人形部屋の片づけに成功する。
「タンスの中身は着物でしたね。この柄を見るに女性の物でしょうか?」
「多分な。でもこんな立派な着物を置いて、ほかは空っぽっていうのも変だよな」
そう片付けたタンスの中身はこの着物以外は空っぽ。
タンスの棚を引き抜いた裏にも隠し財産とか、お札があったわけでもない。
なんでやねんと思う状況だ。
「ま、わからないし保留でいいじゃん。あとはタンスだけどどうする? 再利用する?」
「あの、良ければ収納として一ついただければと思うのですが」
「ああ、それなら持って行っていいぞ。元の持ち主も喜ぶだろうさ」
しっかりしたつくりの物だから壊れる心配はない。
「それなら僕ももっていく」
「おう、ついでに人形も持っていけ」
「あ、それはいいや」
「私は持っていきますね」
そういって椿は迷うことなく決めていたように一つの人形を抱えて部屋を出ていく。
「「……」」
いや、人の趣味だから何とも言わないが、あの状況で持っていくって気持ちがあるっていうのはそれだけで心配になるよな。
と、無言で見つめ合う俺とカカリアにロマンスなどはなく、不気味な静けさだけが残ったとさ。
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