レポート11:「食文化に慣れるのは食べること」

「食文化に慣れるのは食べること」



「「「……」」」


セージも怪物の調査が終わったことで俺たちは食卓を囲んでいる。

なのに俺以外の3人は沈黙して食卓に乗っている焼いたお肉を見つめている。


「……見た目は普通にお肉ですね。セージ、本当に毒などはないのですね?」

「ええ。私も持ちうる限りの技術で検証して確認したわ。でも、何もなかったの。食べられるとしか。私には言えなかった」

「なんで、食べ物がおいしい地球にきてゲテモノを食べないといけないんだろう……」


椿を疑いの目をもち、セージは事実の前に落胆し、カカリアは目の前のお肉を食べないといけないということに肩を落としている。


「いやいや、そこまで食べず嫌いはするなよ。というか、いずれあの惑星の調査を続けていると、現地の人からこういう怪物の材料の食事が提供されるかもしれないんだし、慣れとけって」

「……言うことは分かりますが、なぜ裕也さんはそんなに平気な顔をしているのですか?」

「不思議よね。私たちだってこんなに身構えているっていうのに」

「だよねー。地球人というか日本人は特にこういう初めての食べ物は警戒すると思うんだけど?」

「そういうなら地球の食べ物だって椿たちにとっては初めての物だろう。多分あるのは常識の違いだろう。別の惑星での食べ物は初めてだから警戒しているってやつだ。まあ、それも当たり前」


初めて見る食べ物は自分たちに害のない物なのかと警戒するのは、知識があればあるほど当然のことだ。

この惑星の人だけが食べても大丈夫な成分があるかもしれないし、口に合わないかもしれない。

そういう考えが頭の中をぐるぐる回っているんだろう。

そして、彼女たちは頭が悪くないからこそ……。


「「「むむむ……」」」


拒否も出来ず、かといってすぐに食べることも出来ずに固まっているということだ。

だがしかし……。


「気持ちはわからないでもない。だけどセージが成分的には問題ないって結論だしてるからな。ま、俺が先に食べてみるよ」


そう、分析で問題はないという結果は出ているのだ。

このままでは冷めて美味しくなくなるのは目に見えている。

料理は基本的に出来立てが一番美味しいに決まっているので、素直に箸を伸ばして肉を取る。

一口サイズに切り分けていてパッとした見た目はスーパーで売っている肉と変わらない。

匂いも料理中に確認したがまあ生肉だろうって感じで調理中も問題なし。

というか、焼いている最中に塩を振って食べているし問題がないのは最初から分かっている。

あとは、醤油との相性なんだよな。

まあ、塩が合って醤油が合わない食品とか知らないんだけど。

そんなことを考えつつ普通に口に放り込む。


「「「……」」」


3人ともこちらをじっと見つめている。

いや、意外と見つめられて食べるのは居心地が悪いもんだ。

だが、ここで固まると警戒してしまうだろう。

なので咀嚼を始める。


「うん。普通に美味いな。というか見てわかってたが程よく油がのっているから高いお肉レベルだな」


あれだ霜降り肉に近いものがある。

まあ、脂分が多いので嫌いだという人もいるだろうが、俺は好きなタイプだ。

脂身も少ない部位もあることだし、切り分けているからそっちを食べてみるのもいいかもしれない。

と、ここまでくると3人の視線は何も気にならない普通に食べられるのでそのまま白飯を書き込んで、お味噌汁を飲む。


「……では、私も」

「そうね。いい加減ごはん冷めるし……」

「よ、よーし。覚悟を決めるぞぉぉぉ!」


3人も俺の様子をみてからようやく食べる気になったようで、恐る恐るお肉を口に運んだと思ったら次から次に食べ始める。


「美味しいですね。あんな姿かたちをしているからと思っていたのが恥ずかしいです」

「そうね。裕也の言う通り命を奪ったんだから利用できるモノは利用するのが命への感謝よね」

「うんうん。明日も同じやつ出てこないかなー」


そんなことを言いながらお肉炒めの晩御飯は無事に完食してくれた。

偏見が出るのは仕方がない。

大事なのは一歩踏み出すことだ。

それで食後落ち着いてお茶を飲みながら今日の話をする。


「で、結局あの怪物がいきなり現れた理由は分かってないわ。現場にいた3人は何か見なかった?」

「何かと言われても? 本当にいきなり出現したという風にしか」

「だよねー。ワープとかの痕跡はなかったの?」

「いいえ、ワープとかの転移の痕跡はなかったわ。まあ、私たちが知らない未知の技術かもしれないっていう可能性はあるけど」


あの怪物がなぜいきなり現れたのかということがメインで話している。

確かにあれは驚きだし脅威だ。

目視やレーダーでの警戒が意味ないのだ。

いきなり現れるから。


「でも、セージが忠告してくれたときって、姿が現れる前だったよな」

「ええ。データ上そこに何かが存在していたわ。まあ、見えなかったけど」


中々不思議な状況だよな。

姿は見えないのにレーダー上には反応があったというわけだ。

そういえば、なんかあの時に変なものを見た気がする。

何だっけ?


「ワープじゃないっていうなら。ファンタジーっぽくあの場で生まれたってことだよね」

「カカリア。そんなことがあるわけないですよ」

「私も椿の意見を支持したいわね。そんなことができるってことはあの惑星は佐藤さんたちと同じレベルの文明を持っているってことになるのよ? 複製機とか使って生命体を作るとかかなりの技術力がいるんだから。しかもあの速度は下手したら同じかそれ以上よ」

「ま、そりゃそうだよね。そんな技術があったら宇宙にでているし。ならやっぱり別の要因ってことになるよね? だからファンタジーを押してるんだよ。魔力とかを使って生まれる。ほらゲームで魔石が魔物を生み出すとかいってるじゃん?」

「そんな非科学的な。あんたの言っていることはその魔石とやらが、複製機と同じ技術があるってことよ? それこそ私たちの科学時術を越えることになるわ」

「だからファンタジーでしょ?」


カカリアの魔石ということばで俺はあることを思い出した。


「そういえば俺の肉眼ではセージから注意を受けて、あのオオトカゲが出てきた場所を見つめていたら1センチはないぐらいの小石が空中に浮いているのを見たな」

「え!? マジで魔石!?」


なぜかカカリアが一番驚いている。

椿とセージはなんとも怪訝な顔をしていて……。


「椿みた?」

「あ、いえ、私は裕也さんの後方でしたので、周囲に気を配っていましたから……」

「そうよね。って、前方にでたカカリアがなんで気がついてないのよ?」

「うーん。あの時セージの警告からレーダ―を確認しながら見てたけど僕はそういうのは見てないんだよな~。疑うわけじゃないけど本当なんだよね?」

「ああ。まあ、見間違いって可能性はあるけどな」


あの場にいた3人中2人は見ていないといわれると俺も自信はない。

パニック状態でもあったんだしそういうのが作用して幻覚を見たといわれても否定はできない。


「とりあえず、その時の映像記録とかはないのか?」

「あるわ。そうね、実際に見てみましょう」


セージがそういうと投影モニターが出現してあの時の映像が映る。

視点は一番先頭にいたカカリアのものだ。


「すごいな。視界をそのまま録画しているのか?」

「ええ。そういうナノマシンがあるのよ。まあ、プライバシーの関係で仕事以外はオフにしないとかなり重い処罰が下るから心配しないで」


確かにこれだけ便利なものは悪用もできるだろうしな。

しかし、便利なのも事実だ。

誰かが見たことをそのまま確認できるんだからな。

だが、カカリアの視点にはそれらしいものは映っていない。


「ないね~」

「裕也さんがその石らしきものを見た場所はどこかわかりますか?」

「うーん、視点が違うとなんかわからないな。セージ、俺の視界移せるか?」

「ええ。できるわよ」


ということで今度は俺の視界に切り替えると……。


「あ、なんか浮いている」

「本当ですね」


その映像には確かに小さくはあるが確かに小石が浮かんでいるのが確認できる。

どうやら俺の視界には映っているようだが……。


「……妙ね。この位置はカカリアの位置だとここのはずなのよね」


セージはカカリアの映像を出してまるで囲む。

しかしカカリアの視界にはそんなものは映っていない。

距離が近い分よく見えておかしくないはずだが……。


「なんで映ってないんだ?」

「わからないわ。椿の視界と上空からの映像も出すわ」


しかし、椿や上空の映像にもその小さい石らしきものは映っていない。


「そうだ。敵の体内の中にこの石は無かったのか?」


この位置ならオオトカゲが出現したときには中央にあるものだ。

つまりオオトカゲの体内にこの石が存在するのではと判断したのだが……。


「いえ、こんな石は見当たらなかったわね……。でも、裕也の視界には見えているとなると、裕也が見ると見えるかもね」

「え? 俺の幻覚っていう可能性はないのか?」

「無いことはないけど、映像としてのこっているから、脳が見せたものっていう可能性は低いのよ。裕也の瞳の裏からデータを取っているから存在している物なのは間違いないの。つまり存在はしているけど私たちには見えないって可能性が高いの」

「そうですね。ですが、一応私たちは地球人をベースに作っているので、裕也さんと明確な違いはないはずですが……」

「あれじゃない? 裕也は選ばれし者ってやつ」

「そんな馬鹿な」


カカリアの言葉に即座に否定する。

確かにここ最近佐藤さんとの出会いから始まったこの一見は選ばれたものかもしれないとは思うが、人には見えない何かが見えるとかいうオカルトには全く関係のない生活しか送っていない。


「否定するよりも確認してみましょう。裕也の何が作用してその石がみえているか分かれば私たちも見えるようになると思うわ。そうなれば何か先ほどの現象について何か説明できるかもしれない」

「そうだな。明日は調査の前にその解析からやるか」


ということで、俺たちは今日は普通に風呂に入って寝ることにした。

いやー、いきなり色々あったな。


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